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「楽しい?」
「うん」

「そんなに?」
「うん」

「難しくないの?」
「うん」

「簡単?」
「うん」

「ゆかにも出来る?」
「あー…」

どうかな、という感じに伸ばされた声は掠れていく。
「ちょっと、どういうこと」
ゆさゆさとのっちの肩を揺すると、「聞こえなーい」と笑ってごまかされる。
肩から手を離すと、こちらを向くなり子供を見るような顔をされた。
いい度胸じゃない?困らせてあげるよおとーさん。

「だめなんだぁ」
「うん、面倒くさいよ」
「面倒、か」
のっちっていつもそう。
私、早くもへこたれそうかも。

「でも、かっしーなら教えるよ」
のっちの言葉にハッとする。
無意識に俯いていた顔を上げると、のっちは頬杖をついていた。
「あやちゃんは?」
「マリオもできんもん」
のっちはへらっと笑った。
ずいぶん楽にしよるね、客がいるというのに。

「ゆかも弱いよ、マリオは」
「かっしーは面倒じゃない」
「なにそれ」
「トクベツってこと?」
「え、私に聞くの?」
回らない舌で頑張って話すのっちのトクベツは、不自然に力が入っていた。
のっちのへたくそ。


「ねえねえ、なんで聞くん?」
「もぉ、だからぁ」
先ほどとは正反対。
投げ出した脚を子供のようにバタバタと上下させる。
「はいはい、見苦しいでちゅよ」
「敵わんわ!敵わんわ…」
その言葉を最後に、のっちのカッコイイらしい演技は終わった。

それからは、いつもどおりののっちで、ゆるゆると時間は過ぎていった。
お菓子を食べて、雑誌を読んだり。
ゲームはすでに稼動を終えていた。
少し寂しく思うなんて、ゆかはゲーム機が鳴らすキュルキュルというディスクの回る音が好きなんだと思った。

なんて、
そんなのは言い訳で、ゲームの局面により様々なのっちの表情を、観察するのが好きなのかも。
「もう3時だね」
のっちが雑誌から顔を離し、今度はこちらを見て静止した。
「なに、なんよ」
「おやつはありませんよー」
暫しの沈黙を破ったのっちの台詞は、あまりにも生意気だ。
「もう食べてるじゃろ」
「あはは、ねぇカーテン開けてよ」
何がそんなに楽しいのか、緩む口元を隠せないでいるのっちは変な顔だ。
「自分で開けてね」
「一生のお願い!」
パチンと音をたてるのっちの両手。
今、一生を使ってしまうの?
まぁ、けろりと忘れてまた使うんだろうけど、ゆかに使うのなら気分がいい。

すっかりくつろいで重くなった体を、ゆっくり起こす。
「かっしー優しい」なんて明らかな作り物の声が背中に響いた。
窓際へ来て、モノクロなカーテンを勢いよく開ける。
軽やかな音をたてて、左右へ流れていくカーテン。
同時に広がる白いひか・・・・・・ほこりだ。

「ぶっ、…ちょっ、のっちあんた!」
ひっかけたね、ひっかけたんじゃろ。
「ずっと開けてなくてさぁ」
「開けなくても掃除しんさいよ」
「あはは、でもかっしー女神さまみたい」
呆れる私をよそに「後光が〜」と眩しそうにするのっち。
「きれい」
「もう…」
満足そうに少年みたいな笑顔で、のっちは私を見ていた。


あのね
あはは、が棒読みなの。
さっきと同じ、また企んでたんだ。
のっちが長い時間静かだったの、きっとこれのせい。
まんまとのっちの思い通りになるなんて、つまんない。
でも満足してるその純粋すぎる笑顔、いいよ。

「のっち、あのね」
これから仕掛ける悪戯を思うと、気持ちは焦りそうだった。
なのに私は驚くくらい冷静で、そしていじわるだ。
「のっちも照らされて天使みたいだよ」
「え、」
ベッタベタなくらいに目を丸くするのっち、金魚みたい。
面白い、面白すぎる。
「のっちは、ゆかが好き?」
背中に暖かい光を受けながら、のっちへ歩み寄る。
女神が黒く染まっていくのがわかる。
「す、好き好き」
「よろしい」
ゆっくり顔を近づけると、のっちが慌てて目を閉じた。

…残念。

「いっつ!」
ポコッ、と愉快な音をたてたのっちの頭。
ちょっと石頭ねのっち。
「してほしかったら、」
「してほしかったら?」
叩かれたところを押さえて、目をおっきくしてがっついている。
このコはほんっとに…あほうじゃ。

「3時のおやつを買ってきて」

らじゃー!と言ったかと思うと、財布を手に取るなり玄関の向こうへ消えていった。
「…かわいっ」

暖かい光が広がる、一人だけの広い部屋で、私はゲーム機をつける。
キュルキュルと回り始めるディスクの音をききながら、私は目を閉じた。
愛しい私の天使が戻るまで、今は見えないその姿を夢の中で見ていたいから。







最終更新:2008年10月13日 07:30