最悪だ。こんなに降るなんて。
一応止んだけど、どこかで休みたい。髪も服もビショビショですっかり気分が滅入ってしまった。
(そういえば、喫茶店があったはず)
そう思って、夕立から逃れてきた道を引き返す。
あたしが向かったのは、昔よくのっちと行った喫茶店。そこはあまり人がいなくて、落ち着いた雰囲気でお気に入りだった。のっちといたから気に入ったのかもしれないけど。
扉を開くと、フワッと品の良いコーヒーの薫りがあたしを包んだ。
その懐かしい薫りを感じながら、いつも座っていた店の一番奥にあるテーブルに向かった。
(…あれ?)
あたしが見たのは、いつものテーブルに置いてある1つのコーヒー。まだ湯気が出てるから帰った訳ではなさそうだ。
少し残念だけど隣のテーブルに着くことにした。
(うわぁ、なんも変わっとらんわ)
注文を取りにきたお姉さんにコーヒーを頼んで、ゆっくり店内を見渡す。
そこには昔と変わらない景色があった。
(違うのは目の前にのっちがいないことだけじゃね)
別れても好きな人っているんだなぁって改めて実感する。未練タラタラっていわれると情けないけど、それ位がむしゃらに好きなんだ。
今は何してるのかな、恋人いるのかな。
どんな人の隣で笑ってるんだろう、どんな人の手を引いているんだろう、どんな人の心を支えているんだろう。
考えれば考えるほど胸がキュゥって苦しくなる。
運ばれてきたコーヒーに口を付けると、苦さが容赦なく広がるのと同時に、切なさがあたしの心を埋め尽くしていく。
「これ、使ってください」
ニコッと笑ったさっきのお姉さんに白いタオルを手渡された。そういえば、さっきから前髪の先から雫が落ちている。
お礼を言ってタオルを受け取り、拭き取っていく。
ふわふわのタオルの感触が気持ちいい。
そのとき、フッと嗅いだことのある匂いがした。とても愛しくて暖かい匂い。
(このタオルかな?…のっちとおんなじ匂いだぁ)
頭に掛けたタオルを鼻先にあて目を閉じる。でも、そのタオルからはのっちの匂いはしなかった。
あれ?と思いつつ、再び濡れた髪を拭こうと手を動かしたとき、隣のテーブルの人が戻ってきていることに気がついた。
その人は何故か服がびしょびしょで、頭からあたしと同じタオルをかぶっていた。タオルとテーブルの仕切りのせいで顔は見れないけど、ボーイッシュな女の人だということはわかった。
(どうしたんじゃろ、待ち合わせかな?)
その人の持つ雰囲気がすごくのっちに似ていて、あたしの心臓は久しぶりにドキドキしだす。よくわかんないけど目が離せない。
(声、掛けてみようかな)
(一人みたいだし)
よし、と思って席を立ち、その人に近づく。
「あの〜、お一人ですか?良かったら…」
その先は言葉が出てこなかった。
頭が真っ白になっていく。
どうしてここにいるの?
「あ…ちゃ、ん…?」
「のっ…ち…」
突然の出来事に涙が溢れて止まらない。大好きな人が目の前にいる。
のっちも何が起こっているのかよくわかっていない様子で、あたしを見つめている。
あたしが手を伸ばすと、しっかり捕まえてくれた。
あたしが手を握ると、ちゃんと握り返してくれた。
あたし達は、もう一度歩き出せるかもしれない。確かな証拠は何一つ無いけど、のっちの真っ直ぐな瞳を見ていたら、そんな気がした。
おわり
最終更新:2008年10月13日 07:59