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「うー…あっついよー…」
「あともうちょっとじゃけぇ、我慢しんさい」
うだるような暑さの中、あ〜ちゃんとのっちは図書館を目指して歩いていた。
目的は夏休みの宿題。
夏休みは好きだけど、こいつはいつまで経っても好きになれない。ていうか一生無理。

蜃気楼で揺らめく地面をひたすら歩く。
もう頭が溶けそうだよ、あたし。なんて、あ〜ちゃんを恨めしげに見る。
「別に家でもよかったのに…」
「家だと勉強する前にゲームしとるじゃろ」
「うっ」
さすがあ〜ちゃん。何も言えなくなって肩を落とした。
「宿題は早いうちに終わらせといた方が、あとが楽なんよ」
「そうだけど…」
ぶつぶつ文句を垂れるあたしを尻目に、あ〜ちゃんはさっさと図書館の中へ入っていくから慌てて後を追い掛ける。
入った瞬間ひんやりとした空気に包まれて、思わず感動してしまった。
いやぁ、エアコンを生み出した人間ってすごいね。


すっかり生き返ったあたしは、先に行ったあ〜ちゃんが腰かけた場所の隣に落ち着く。でも、この独特の雰囲気はやっぱり苦手だ。

「少しくらいはやっとるじゃろ?見せて」
「う……いや、その…全然…」
「あほ」
頭にあ〜ちゃんの放った二文字が刺さる。
でもまだ夏休みも序盤なんだよ?別に今すぐやらなくてもさぁ、なんて言ったら。
「そんなん言ってからに、最終日にあ〜ちゃんに宿題手伝ってって泣く羽目になるんは誰よ」
と、一蹴された。
それはあたしです、はい…。

さめざめと肩を落としてると、あ〜ちゃんが宿題を広げてくれた。まさか手伝ってくれるん?
「ほら、あ〜ちゃんもちょっとくらいなら手伝ってあげるけぇ」
「ありがとう、あ〜ちゃん!やっぱり天使、ぶっ」
「静かにしんさい」
宿題にキスしちゃったじゃん。うぇー…。




宿題と睨めっこしてから一時間。
もはや頭から煙がでそうになってるあたしは、少しばかり宿題から目を離した。


(…ん?)

なんとなく視線を感じて、辺りを見回す。
でも誰もあたしを見てないし、皆机の上の課題やら本やらと睨めっこしてる。

(気のせいか…)
再び宿題に向かおうとした瞬間、隣の机が目に入った。
なんとはなしに視線が動いて、さらさら流れる髪が視界に映る。
思わず息を飲んだ。
(すっごいさらさらしてて綺麗…。ていうか身体細っ)

髪が顔にかかってどんな子かまでは分からない。
でも椅子に腰かけてる身体も、見えてる腕や足もぜんぶ細くて肌は白い。
(同い年くらいかな?どこの学校行ってるんだろ…うちじゃ見たことないし)
ふと、その子があたしの視線に気付いたのか、目が合ってしまった。
(うわっ!)
まずった…見すぎてたかも…。
なんとかごまかそうと、慌てて宿題に目をやる。
でも、今更宿題なんて頭に入っていくわけない。


「あの…」

頭を抱えたのっちの側には、さっき目があったあの子が立っていた。
「は、はいっ?」
挙動不審なあたしをくすりと笑って。

「消しゴム、落としとるよ」

そう言ってあたしの掌に消しゴムを乗せて、その子は小さく微笑んだ。

(か、かわいい…)
「ありがと…」
なんだこれ。心臓がばくばくいってる。

やばい。もしかして。


席に戻るその子の後ろ姿を目で追い掛ける。
煩い心臓を抑えるように、シャツをぎゅっと掴んで。
「ちょっと、のっち全然進ん、…どうしたん?のっち」
「どうしよう……あ〜ちゃん…」
不思議そうにあたしを見るあ〜ちゃんに、あたしはこう言った。

「のっち、一目惚れしたかもしれん…」


㈰END






最終更新:2008年10月13日 10:17