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◇N-side◇

桜が綺麗だ。
高校に入学して二度目の春がやって来た。
「全員クラス別かー」
「見事にバラバラじゃね」
クラス発表の掲示板を見ながら、一喜一憂する生徒達。のっち達三人も、その中に含まれていた。
一年生の時は三人同じクラスだった。何をするにも一緒で、ニ個一もとい三個一みたいな感じだった。先生達からもセットで扱われてたし。
だけど今年は全員バラバラ。凄く不安だ。のっち人見知りだし、二人以外に友達居ないし…。
「あ〜ちゃんトイレ行ってくる、ごめんちょっと待ってて」
そう言ってあ〜ちゃんは急いでトイレに走って行った。我慢出来なかったのだろうか。可愛いなー。
「ねぇのっち、あっち行こ?」
指差したのは、掲示板から少し離れた生徒玄関。早くこの人混みから逃げ出したい気持ちはゆかちゃんも同じみたいだ。
ゆかちゃんに手を引かれ、そこまで行く。のっちはかなりヘコんでいた。これから一年、どうしよう…。
叫びたくなるくらい不安。不登校になりそうだ。
するとゆかちゃんは、ゆっくり口を開いた。
「実はさぁ、ゆか、のっちの事が好きなんだよね」


「え……?」
今、なんて?
「だから、のっちの事が好きなの!」
仰天するのっち。恥ずかしそうに手で顔を覆ってしまったゆかちゃん。
「こんなの…二回も言わせんでよ」
「ご…ごめんなさい…」
ゆかちゃんが…のっちの事…。ゆかちゃんが…のっちの事……。マジで言ってるの?冗談を言ってる風に見えない。
実はのっちも、ゆかちゃんの事が好きだった。だけど、てっきりゆかちゃんが好きなのはあ〜ちゃんかと…。
「それでどうなの、付き合ってくれるの?」
「え…付き合うって…」
「のっちがもし同じ気持ちだったら、付き合って欲しいんだけど…ダメ?」
ダメ?って…何その上目遣い。ダメじゃないダメじゃない。
「ダメじゃ…ないよ」
「え、ほんまに?」
「うん…のっちもゆかちゃんの事…好きだし」
そう言うと、ゆかちゃんの瞳から涙が頬を伝った。綺麗で見とれてしまった。胸が熱くなって、苦しくなる。
「えへへ…ごめんね」
なんで謝るの。何もゆかちゃんが謝る事なんてない。むしろ謝らなければならないのは、のっちの方だ。
ゆかちゃんの事は大好き。凄く好き。なんだけど…実は同じくらい大切な人が、もう一人いるんだ…。


「ゆかちゃん…この事、あ〜ちゃんには…」
言うべきなのかな、やっぱり。
「あ〜ちゃんには内緒だよ、その方が二人だけの秘密っぽくて燃えない?」
涙を拭くゆかちゃんがそう言った。二人だけの秘密…確かに良い響き。
「絶対あ〜ちゃんには秘密だよ?他の誰にも、言っちゃダメ」
「うん、分かった」
「ゆかもチョロとふーくんにしか言わないからね」
「二人だけはどうなったの〜」
あはは、と笑い声が響く。桜の花びらがヒラヒラ舞って、ゆかちゃんの髪に落ちた。淡いピンク色が綺麗で、目を細めた。
「ゆかの事、イッパイ愛してね」
はにかんだ笑顔が眩しかった。胸が締め付けられるこの感覚。愛しい瞬間。
この瞬間、のっちに宝物が出来ました。ずっと大切にしたいと思う。
「ごめーん、トイレ混んでてさぁ」
帰って来たあ〜ちゃんの声に振り返る。夢から覚めた気分になった。


ゆかちゃんと別れて、あ〜ちゃんと二人で歩く帰り道。通学路の途中、家のすぐ近くに二手に別れるY字路があって、ゆかちゃんは左で、あ〜ちゃんとのっちは右に行く。登校時の待ち合わせ場所でもあるんだ。
だから今、のっちとあ〜ちゃんは二人で並んで歩いてる。


「みんな離れちゃったね」
唐突にあ〜ちゃんが言う。さっきのゆかちゃんの告白を思い出してボーッとしていたのっちは、ビクッとなった。
「あ、あぁ、そだね」
「のっち、大丈夫?」
「……分かんない」
そう呟くと、あ〜ちゃんは心配そうな表情。あ〜ちゃんは明るいからすぐ友達出来るだろうね、良いなー。
「あのね、のっちに言いたい事があるんよ…」
「…?何?」
心無しか、あ〜ちゃんの頬が桜と同じピンク色。うつむいてて良く見えないけど。
「あ〜ちゃんね…のっちが好き」
「え…」
「前からずっと好きでした」
あ〜ちゃんはのっちの正面に立ち、のっちの足を止めた。いや、自然と足は止まってた。状況が理解出来ずに、戸惑う。
「それで、もしのっちが良いんだったら…付き合って欲しいなーなんて…」
さっきのゆかちゃんの姿がシンクロした。これは、告白。大好きなあ〜ちゃんからの、告白なんだ…。タイミング良いのか、悪いのか…。
「えっと…のっちも、前から好きでした…」
告げたのは真実。ゆかちゃんがいるけど、嘘は付けなかった。ゆかちゃんを守る事は出来なかった。
「ほんまに…?」
あ〜ちゃんの頬を涙が伝った。綺麗だった。


夕日で照らされて髪がキラキラ光って、桜の花びらがあ〜ちゃんの体を慰める様に包む。
「この事…ゆかちゃんには内緒にして、のっち」
「…え」
「ゆかちゃん優しいけぇ、気ぃ使って欲しくないんよ」
あ〜ちゃんは優しい。だけど、のっちは残酷だ。あ〜ちゃんがゆかちゃんに内緒にすると言うのを聞いて内心ホッとしてる。
バレない様に付き合う?二人と同時に?そんなの無理に決まってる。すぐにバレる、絶対に。
だけど、やっと手に入った二人を失いたくないんだ。優柔不断で最低だ。これは世に言う二股なんだ。
「あ〜ちゃんの事、たくさん愛してね」
照れ笑いを浮かべながら言うあ〜ちゃん。ピンク色の頬が夕日で赤みを増した。
胸がキュンと締め付けられた。愛しい瞬間。言葉に出来ない。
この瞬間、もう一つ宝物が出来ました。一生大切にしたいと思う。


ベッドに寝て、天井を見上げた。
いけない事だと分かっている。子供ののっちにだって、それくらい分かってるんだ。
二人を裏切ってる。それは凄く辛い事だけど、二人を失うのはもっと辛い。
二人を、本気で愛してるんだ。
こうして始まったのっちの恋愛。この先、どうなることやら。


◇00:End◇






最終更新:2008年10月13日 10:21