あー、眠い。あたしは机に頬杖をついて、大あくびした。
「…のっち。」
隣りの席から冷ややかな声と、白い目線が送られてきた。あ~ちゃん、コワいお母さんみたいなんだけど…。
「…委員会、たいぎいんだもーん」
「どうせ早く帰ってゲームの続きがしたいだけじゃろ」
…まあ、そうなんだけど。
「のっちは相変わらず、学校行事とか興味無いんじゃね」
「…う、うん…」
「じゃけえクラスに友達あんまり出来んのんよ」
「…う…」
「体育祭実行委員するっていうけえ、のっちにしてはようやったと思っとったのに」
…それは。
あ~ちゃんが3組の実行委員になったって聞いたから。
あたしは1組で、あ~ちゃん達とはクラスも校舎も別れてしまったけど、体育祭は奇数組と偶数組で紅白に分かれるので、あ~ちゃん達と同じ紅組だから。
…だから、ちょっと楽しみになって。なんか勢いで立候補したんだけど。
でもやっぱこういうの苦手。面倒くさい。
「…それでは、体育祭実行委員会を始めます。各クラスの委員長と実行委員はおそろいですか?」
議長席からゆかちゃんの細い声がした。生徒会書記だけあって進行役もハマってて、格好いい。
そんなあたしの気持ちを読んだみたいに、
「どっかのアホの子とは大違いじゃね」とあ~ちゃんは、目をくりっとさせて言った。
…はいはいそうですね…。
「紅白それぞれ応援団を形成します。各クラス3名メンバーを出し、紅白それぞれ27名で編成されます。応援団は最後の応援合戦でダンス披露があるので、体育祭まで放課後や休日の練習が許可されています」
うげっ。何だそれ。絶対やだ。
「では、紅白それぞれの応援リーダーを決めたいと思いますが…立候補、推薦はありませんか?」
あ~ちゃんのクラスの委員長の子が、
「あ~ちゃん、リーダーしなよ」
と言うと、下級生の方からも、
「あ~ちゃん先輩なら楽しそ~」
「あ~ちゃん先輩なら紅組勝つよ~」
とか聞こえる。あ~ちゃん人気者!あたしはちょっと得意な気分になった。
確か去年の応援団ってメイドさんみたいな格好してた。…ふむ。あ~ちゃん似合うかも。
あたしはうなずき地蔵みたく、全身で賛意を表明した。
その時。
「えー、西脇ぃー?冗談じゃろー!?」
あたしは振り返った。性格悪そうな子(名前知らない)がにやにやしてた。その隣りの性格ひんまがってそうな子(名前知らない←のっちはほとんど誰も知りません。作者注)も一緒になって、
「西脇ならボイコットするー」
あたしはそっとあ~ちゃんを見た。あ~ちゃんは頬杖をついて、平然と前を向いてる。
あたしの胸の、一番大事なとこが痛んだ。
「西脇には絶対無理だって」
性悪とひねくれのあんまりな暴言に、あたしはカッとなって机をばんっと叩いて、「あ~ちゃんに謝れ!!」と叫ぼうと、あ、まで言いかけたところで、
「あ~ちゃんも、そう思うんよ」
と、あ~ちゃんの澄んだ声がした。
「うちは、無理じゃけえ、大本さんを推薦します」
…え。
あたしはぽかん、とあ~ちゃんを見つめた。あ~ちゃんはさっきと同様、平然と前を向いてる。
「えっ、大本先輩!うそぉ、すごい!やったぁ」
「のっち先輩、超いい、超いい!」
「いいなあ、紅組~!」
…なんか。ギャラリーからすごい歓声が。何でえ!?
あたしはすがるような思いで、あ~ちゃんの袖を引っ張った。
「あ~ちゃん何言い出すんよ、のっちリーダーなんて絶対嫌じゃけえ!」
あたしがオロオロとあ~ちゃんに訴えかけても、あ~ちゃんは平然として、無言でノートにさらさらと書いた。
『うちの顔をつぶす気?』
…あ、あ~ちゃん。コワい。
『のっちはやれば出来る子じゃろ?』
こんな時だけ誉められても。
『のっち。』
『おねがい。』
あ~ちゃんは小さく合掌して、あたしの方を上目づかいで見つめる。困ったみたいに眉を寄せて。いつも強気なあ~ちゃんが、あたしにお願いしてくるなんて。なんていうか、その、…アレだ。
さっきとは別のところが、きゅんと甘く痛む。
あたしがまごまごしてると、議長席からゆかちゃんの声。
「大本さん、どうしますか?」
ゆかちゃんのどうしますか、って、やっちまいなってことだよね…笑顔がコワいんですけど…。
ちらっとあ~ちゃんを見る。
あ~ちゃんの唇が動く。
お、ね、が、い。
…ああ、もう。
「…やります。その代わり、副リーダーは西脇さんで」
あたしがぼそっと言うと、下級生からきゃあっと声が上がった。なんかすごい盛り上がり。あ~のちとかいう謎の言葉が聞こえて、わけが分からん。
委員会が終わり、がっくり肩を落とすあたしの耳にあ~ちゃんは口を寄せて、小声で囁いた。
「のっち、一緒に頑張ろうや」
あたしが顔を上げると、もうあ~ちゃんは背中を向けてスタスタと去って行った。…やられた。
「のっち、災難じゃったね」
ゆかちゃんがクスクス笑いながら近づいて来た。
「ゆかちゃんは助けてくれんし」
「のっち、ごめん」ゆかちゃんは微笑んで静かに続けた。「あ~ちゃんを矢面に立たせたくなかったんよ」
…ああ、そっか。
きっとゆかちゃんも、あたしと同じ痛みを感じたんだ。あ~ちゃんの為に痛む、あたし達の一番大切なこころ。
「ゆかちゃんはいっつもあ~ちゃんの味方だね」
あたしはちょっとスネた口調で言ってみた。
「あ~ちゃんを喜ばせたら、のっちも喜ぶんじゃけえ、一石二鳥じゃろ?」
…ゆかちゃんは、賢い。
あたしはぐうの音も出ない。
最終更新:2008年10月10日 01:44