それからのあたしは、毎日体育祭の準備に追い立てられた。体育祭中の応援の音頭の練習と、ラストのダンスパフォーマンスの練習。白組のリーダーが、あの性悪な子(やっぱり名前分からん)だから、がぜんあたしはやる気になった。
在宅ゲーム部のあたしが、人生史上最長にゲームをやってないんだから、なめてもらっては困る。あ~ちゃんの借りは、あたしが返す。
ゆかちゃんも生徒会や写真部、放送部で忙しいのに、応援団メンバーとしてサポートをしてくれてる。(あ~ちゃんの擬音語多用の振付指導の分かりにくいところを、ゆかちゃんが丁寧に言いかえたりとかね)
あ~ちゃんとゆかちゃんと、あたし。何か、負ける気がしない。
3人揃うと、あたしは自分がめちゃめちゃ幸せで、キラキラした世界に住んでる気になるんだ。
体育祭まであと一週間。あたしは放課後居残って、ダンスのソロパートの練習をしていた。
「…のっち、頑張っとるね」
薄闇の体育館、振り返るとあ~ちゃんが佇んでいた。
「あ~ちゃん!」あたしは嬉しくなって駆け寄った。「まだおったん?」
「応援団の衣装が出来たけえ、確認しとったん」
あたし達の衣装は、大幅な予算減少からシンプルな、鮮やかな濃いピンクのTシャツに、白のショートパンツかスカートになった。あたし的にはホッとしたけど、あ~ちゃんとゆかちゃんのヒラヒラ衣装姿が見れなくて、ちょっと残念。
「…のっち」
「ん?」
「ごめんね。ほんまは苦手なことさせて」
あたしは驚いた。
「のっちは、ほんまはこういう団体行動みたいなん、嫌いじゃろ」
「まあ…そうじゃけど。あ~ちゃんおるし、楽しいよ」
「好きなゲームもしとらんのじゃろ」
「…まあ、うん」
あ~ちゃんは近づいて来て、あたしの肩をそっと抱きしめてきた。
あたしの体温が途端に上昇する。
「うちのわがままじゃけえ」
あ~ちゃんのかすれた甘い声があたしの耳をくすぐる。
「なんか、思い出がほしかったんよ。のっちには学校行事とかくだらんかもしれんけど、うちはのっちと一緒の時を過ごしたかったんよ」
放課後のキラキラした時間を与えてくれるのは、あ~ちゃんなのに。
そのあ~ちゃんが、あたしと分け合いたいと願ってくれてる。二度と来ない放課後の時間を。一緒に過ごした思い出を。
キラキラした記憶として、あたしをあ~ちゃんに刻んでくれるんだ。
あ~ちゃんはぎゅっ、と少し力を込めてあたしを抱きしめた後、すぐに身を離して、
「のっち、ありがとね」
と笑った。
…あ~ちゃん。
あ~ちゃんは、ずるい。
あたしの言いたいこと全部奪っていってしまう。
あたしの体温は上がったまま。あ~ちゃんの感触が、あたたかさが、あたしに残ったまま。
…刻まれるんだ。
この記憶が。ずっと。
「…あ~ちゃん」
あたしはやっとの思いで言葉を絞り出す。
「キスしても、いい?」
あ~ちゃんはあからさまにがっくしして、
「…のっちぃ、それへたれの典型じゃけえ…」
…また失敗。
でもあ~ちゃんは笑いながら、
「しょうがないねえ。さ、どーんと来んさいや」
なんて言いながら、腰に手を当てていばりんぼなポーズをとる。
「あ~ちゃん、それ萎えるよ~」
…とか何とか言いながら。
あたし達は唇を重ねた。
最終更新:2008年10月10日 01:48