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数学の先生の言葉は右から左。
あんなに頑張って黒板がつがつ言わせてるのに聞かないのはかわいそうかなあ、
なんて思いながら反面、こんなに天気がいいんじゃしょうがない。
ぽかぽかと暖かくて、窓際ののっちにはいい昼寝日和なのだ。
でもなんか今先生大事なところ話してるっぽいから聞いてるふりだけしておこう。
この話が終わったら完全に睡眠の体勢をとるぞ!
頭の中でリニアモーターガールをかけながら、のっちはシャーペンを手に取りお絵かきタイム。
ネコかいてー、イヌかいてー、カエルさんかいてー。
      • あ〜ちゃんかいて。
あー、あ〜ちゃん今頃なにしてるんだろう。


気づいたら授業は終わってた。落書きも途中で放り投げたっぽい。
てゆかのっち覚えとらんのんじゃけど、落書きっていうか、
「あ〜ちゃん」って書いておりますけど。なにこの恥ずかしさ。
のっち無意識にあ〜ちゃんって書くなんてどんだけ好きなんよ。いや、好きだよ。
あ、駄目だ、顔真っ赤になってきた。もう次の授業までうつ伏せで寝たフリしとこ。
      • っていうか、話しかけてくる人誰も居ないしー、いいもんのっち淋しくないもん。

「日直、号令かけろー」
先生の声だ、授業始まっちゃったよやだなあ。
「きりーつ、れい」
のっち起立しない。悪い子だけど、寝たフリが本当に眠くなってきた。
だってさっきまで寝てたんだよ、仕方ない仕方ない。


「よーし!負けんよ!」
どこかから元気な声が聞こえてのっちは飛び起きた。
するとまだ授業中で、先生には怒られて、皆には笑われた。
でもそんなことどうでも良かった。さっきの声は、あ〜ちゃんの声だ。
まだ授業中なのにどこから聞こえてきたんだ?
教室内を見回しても、クラスは違うからもちろん居ない。
ああ、探しにいきたいよー、早く授業終われー。
「やったあ!あ〜ちゃんいっちばんのりー!」
まただ!どこからあ〜ちゃんの声が?
ふと校庭を見ると、あ〜ちゃんが体育しとる。うわあジャージ姿めっちゃ可愛い。髪もあげてるし。
いやあ、三年生はいいねえ、教室一階で、校庭が近い。いつでも可愛い女の子が見れる。
でもあ〜ちゃんが一番可愛い。
そうか、今日は50m走と、1000m走のタイム測定の日だ。
あ〜ちゃん短距離一位だったんだ、凄いなあ。こんなに暖かい日に、疲れるだろうなあ。
あ〜ちゃんが喜ぶのもつかの間、次はすぐに長距離走だ。
頑張ってあ〜ちゃん、のっち応援しとるよ!そう思ってぐっと拳を握った。
体育の先生が合図をし、あ〜ちゃんが走りだす。
綺麗なフォーム、笑顔で走ってるあ〜ちゃんは人類一可愛い。
校庭を三周半走れば1000mだ。頑張れ、頑張れ。
のっちは授業なんかそっちのけで窓の外の校庭に釘付け。
      • あ〜ちゃん汗かいてる。綺麗だなあ、きらきらしとるよ。
「・・・(やばい)」
のっちは思わず声に出さずに呟いてしまった。
のっち、のっちあの汗、舐めたいです。うわあまた変態呼ばわりされるよ!
だって仕方ないじゃん!あんなに綺麗なんだよ!もはや宝石だよ!
のっちがへらって笑いそうになった瞬間。
あ〜ちゃんが、こけた。
のっちはあ〜ちゃんを心配するより先に、何が起きたのか理解するより先に、
「先生!頭痛いんで保健室行ってきます!」
と、超元気に言って、教室を出てしまった。
「おい、大本!」
先生の呼ぶ声がしたけど、それも振り切ってしまった。


自分が何をしたのか気づいたのは保健室の前に着いたとき。
「(やばい、のっちあとで絶対先生に怒られる!うわあああどうしよう!)」
そんな風に保健室の前で右往左往していると、
「のっち?何やっとんの?」
あ〜ちゃんだった。血の出ているほうの足をかばって歩いている。
「あ、の、のっち昨日ゲームしてねぶろ、寝不足で、」
「馬鹿じゃねえあんた」
「あ〜ちゃんこそ、あ、足だいじょば、だいじょ、大丈夫?」
「あんた噛みすぎよ、何焦っとんの」
はい、自分でも噛みすぎだと思います。情けない気持ちになりながら、
保健室に入るあ〜ちゃんの後ろを着いていく。
「せんせー?樫野先生いますかー?」
あ〜ちゃんが保健の先生の名前を呼ぶけど返事がない。
樫野先生の机の上を見ると置手紙。
『ふーくんがおなか痛いそうなので、帰ります』
樫野先生が全力で自由な先生なのをそのときに思い出した。
なんで居ないんだよお、あ〜ちゃんがケガしてるのに!
「・・・先生、良いのかね」
のっちが一人でテンパってるときも、あ〜ちゃんは冷静に状況を把握。
のっちもそれで落ち着く。よし、あ〜ちゃんをリードせにゃ。
「わかん。でも、とりあえず血とか洗おう?のっち手伝う」
「ありがと」
そういってあ〜ちゃんが笑う。ああ、駄目だよそんな笑顔は!
でもこのありがとうのために、笑顔のためにのっち頑張ってるんだよなあ。
可愛すぎて鼻血が出そう。でもとりあえず平常心。あ〜ちゃんをベッドに座らせて、
のっちはひざまずいて傷口をガーゼで拭う。うわあ、血がたくさん出てる。痛そう。
「痛くない?」
「こんなのなんともないわ」
強がるあ〜ちゃんを見上げると、頬から汗が伝っているのが見えた。
のっちは思わず立ち上がり(今日これ多いなあ・・)、あ〜ちゃんの肩に両手をのせる。
「どしたん、のっち」
あ〜ちゃんに見上げられて、大きな瞳に心臓が跳ねる。
「・・・あ〜ちゃん、ちょっと、ごめん」
わずかな理性でそれだけ言って、あ〜ちゃんの頬に唇を寄せた。汗の、あ〜ちゃんの味。
「な、なにすんの!!」
あ〜ちゃんが大きな声をあげるけど、のっちはそれを手のひらでふさぐ。
のっちの舌が汗を辿り、あ〜ちゃんの耳に行き着く。
耳たぶに音をたててキスをすると、こもった声が漏れた。
だ、だめだ、このままではベッドに押し倒してしまう。
保健室でそんなことしたらきっとめちゃくちゃ怒られるに違いない。
あ〜ちゃんの肩を押そうとする自分の手を広げ、
なんとかぎりぎりのところで自分を誤魔化すためにあ〜ちゃんに抱きついた。
おかえり、理性。
「あ〜ちゃん可愛すぎる!」
さよなら、欲望。
茶化すように言って、平静を取り戻す。


ところで、あ〜ちゃんがさっきから何も言わないのですけど。
恐る恐る顔をのぞく。
泣いて、はない。よかった、泣かれたらどうしようかと思った。
あ〜ちゃんは俯いて、さっきのっちがキスした耳に手を当てている。顔が真っ赤だ。
恥ずかしがってるのかな。気になって声をかける。
「あ〜ちゃん・・・?」
「のっち、うしろ」
「え?」
「う、し、ろ」
言われたとおりうしろを振り向くと、
「大本さーん、なにしてるのかなあ、ゆかの部屋でー」
にやにや笑う美人な保健の先生が。
「かっ、樫野先生!?」
「もういやじゃー!」
あ〜ちゃんがどさっとベッドに寝転がってもだえる。
「大本さん、ここはね、ラブホじゃないんだよー」
足早に近づいてくる美人からこれほど逃げたいと思ったことはない。
「先生、ふーくんは、」
「元気です。まあ、大本さんほどじゃないけど?」


「で、西脇さんは足をけがしてるから保健室に来た理由はわかるけど、
大本さんはなんでこんなところに居るのかなあ?」
樫野先生はのっちとあ〜ちゃんを椅子に座らせ、尋問の時間。
「えっと、のっちは、あの、頭が、頭痛でして、ていうか、どこかから頭痛が、」
「わけわからんよ、のっち」
横からはあ〜ちゃんの冷たい目線、正面からは先生のちょっと面白がってる眼差し。うう、痛い。
「担任の先生に報告しないとねえ、大本さんさぼってましたって」
「ええ!?それは困ります!」
「じゃあちゃんと理由説明してくれんと、なんで保健室になんか居たのー」
先生の声が明らかに状況を楽しんでいるだけだ。
でも仕方ない。正直に言おう。恥ずかしいけど。
「えっとですね、あ〜ちゃんが体育でこけたのを見てですね、
心配で思わず走ってきたー・・・というか」
「それほんまなん!?」
あ〜ちゃんの大きな瞳がこちらに向けられる。うん、本当だよ。
あ〜ちゃんが心配で、授業そっちのけでやってきちゃったんだよ。
「・・・えらい、えらいよ大本さん」
先生が感心したような声を出す。
「それって、今日ふーくんの為に無断で抜け出したゆかと一緒じゃんっ」
先生の手がこちらにのびてきて、のっちの両手をがっしりと握る。
「そ、そうですよ!全く同じ気持ちです!」
「え、あ〜ちゃん、ふーくんと一緒なん・・・?」


と、まあ、そんなこんなで樫野先生の中抜けを黙っているかわりに、
のっちが授業を抜け出したのは本当に頭が痛かったからなのだと担任の先生に言ってもらいまし

た。
それどころか!樫野先生はのっちの愛に本当に感動したようで、
のっちを頭が痛いからという理由で、あ〜ちゃんをケガしたとかそんな適当な理由で早退させてく

れたのです!
わあ、先生まじ悪い人。

帰り道、あ〜ちゃんに手を差し出すと、自然に握ってくれた。
まだ誰も帰っていない、いつもとは少し表情の違う通学路を手を繋いで歩く。下り坂をふたりでぶ

らぶらと。なんか世界に二人だけみたいで、わくわくする気分だ。
「あ〜ちゃん足大丈夫?」
「樫野先生にしっかりしてもらったけん」
「あのさ、あ〜ちゃん」
「なあに?」
「これからうちに、「行かない」
え、と言おうと思ったら、あ〜ちゃんの手が離れてく。
下り坂を小走りでおりのっちを追い越し、あ〜ちゃんは軽やかに振り向いた。
「今度からはする時はちゃんとあ〜ちゃんの了承とってくれんと!」
そう大きめの声で言って、
元気に「じゃあね!」なんて叫んであ〜ちゃんはそのまま坂を下ってしまった。
のっちを置いて。
残ってるのはあ〜ちゃんの手の体温と声と、振り返ったときに舞った綺麗な長い髪の残像。


完全に持ってかれた。あの天使に。走り去る後ろ姿に羽が見える。


このまま終わったらドラマみたいなのにのっちはどうしようもなくあ〜ちゃんが好きで。
「あ〜ちゃん、待って!!」


追いかけます、すいません、空気読めなくて。もう全速力です。
もう一度あの体温を、味わいたいから。



end






最終更新:2008年10月13日 12:00