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◇N-side◇
五月を迎えた。一年生も大半が部活動に入り、高校生活にも慣れてきたというこの時期、のっちも非現実的なこの生活に慣れつつあった。
同時に二人と付き合うって言う有り得ない現実。自分の人生の中で最も有り得ない事実。だけど、慣れとは恐いもので、それがのっちの中で当たり前の日常になりつつあった。
「大本さんっ、シュートシュート!」
「え、うんっ」
思いっ切り蹴ったボールが、キーパーの手を掠りもせずにゴールに突き刺さった。先生が笛を吹く。わぁ、入った。
「凄い大本さん!」
「ナイッシュー!」
「えへへ、まぐれだよ」
ゴールデンウィーク前の最後の体育、内容は校庭でサッカー。基本的に見る方専門だけど、やるのもなかなか楽しいね。
笑い声に溢れた校庭は、なんだか青春って感じがする。爽やかな汗、マジ青春だね〜。


「大本さん、ゴールデンウィークは何か予定あるの?」
体育後の更衣室、体操着から制服に着替えていると加藤さんが声をかけてきた。
「特に無い…かな」
うん、考えてみたけど特に無い。


あ〜ちゃんは毎年恒例の家族旅行だろうし、ゆかちゃんもきっと家族で過ごすはず。だからのっちは家で一人でのんびり過ごす。
連休でこそ、のっちのだらしなさを発揮出来るんだ。引きこもり万歳。
「そうなんだ〜私は名古屋のおばあちゃんの家に行くくらいかな」
「良いな〜名古屋」
みんな素敵なゴールデンウィークを過ごすみたいだね。良いね良いね〜。まぁのっちは無双があるんで。
「じゃあね、良いゴールデンウィークを〜」
なんて言いながら、のっちは更衣室を飛び出した。教室の前では、ゆかちゃんとあ〜ちゃんが待っててくれた。
「お疲れ〜のっち」
「シュート決めたの見たよ」
何度も言うけど、あ〜ちゃんと付き合っている事はゆかちゃんは知らない。ゆかちゃんと付き合っている事も、あ〜ちゃんは知らない。二人に内緒で二人と同時に付き合っているのだ。
「ねぇねぇどーする?ゴールデンウィークだよ」
「どうもせんよ」
「のっちは陽気じゃね」
あれ?なんだか二人とも、嬉しくなさそうだ。楽しい楽しい連休なのに。
「二人とも…ゴールデンウィークは何するの?」
「あ〜ちゃん家族旅行」
「ゆか、おばあちゃん家」


めちゃくちゃ楽しそうな過ごし方じゃんか。良いねー羨ましいよ。多分のっちは家に引きこもるね。インドア万歳!やっほー!
「二人とも、お土産よろしくね〜」
そう言うと、二人は揃って大きな溜め息を付いた。




その夜、
「えぇっ!家族旅行が中止になったの!?」
『たかしげの部活の試合があるけぇ、お母さん達それの応援行くの』
「あ〜ちゃんも行くの?」
『ちゃあぽんと家でお留守番』
電話の向こうから聞こえるあ〜ちゃんの声は、心無しか嬉しそうだった。旅行行けなくてショックでヘコんでるかと思ったけど、そうじゃないみたい。
「なんか、あ〜ちゃん嬉しそうだね」
『本当はね、のっちと過ごしたかったの』
「はへ?」
『一緒にゴロゴロしたり〜したかったの』
…眩暈がした。可愛いよ可愛過ぎるよ。今ここに居たら確実に襲ってる自信があるよ。
『だから、のっちの家行って良い?』
「もももちろん!」
ゲームしてる場合じゃない。イチャイチャラブラブのゴールデンウィークがやって来たよ!まさにゴールデンだよ!
『じゃあ、明日遊びに行くねーバイバーイ』
電話を切った瞬間、のっちは雄叫びを上げた。


だがしばらくして、また電話がかかって来た。今度はゆかちゃんだ。
「もしもし?」
『のっちーゆかね、ゴールデンウィーク暇になっちゃったんだけど〜』
うん?デジャブ?
「どしたの?おばあちゃん家に行くんじゃないの?」
『なんか親戚の結婚式があるから行けなくなったの、明日と明後日も披露宴』
「暇じゃないじゃん」
『後半ずっと暇だもん』
そっか…。ゴールデンウィークは長いからねぇ。
「なんかね、あ〜ちゃんも旅行ダメになったんだって」
『そうなんだ!』
「三人で遊ぼうよ」
『明日と明後日はゆか無理だから、三日目からなら大丈夫だよ』
よし、決まりだ。ゆかちゃんとも過ごせるなんて、ゴールデン過ぎるよ。
『じゃあまたメールか電話するね、バイバイ』
「うんバイバーイ」
電話を切った。今度は奇声を発してベッドで転げ回った。最高だよ、最高だよゴールデンウィーク!
明日からの連休の為に、今日は体力を温存しとこう。早く寝て明日に備えるんだ。


二人と過ごす日々が当たり前なのが、今は少し恐く感じた。いつか二人を失う、その砂時計の砂は、もうどれくらい落ちているんだろう。


◇15:End◇






最終更新:2008年10月13日 12:19