「はぁ〜…キンチョーするなぁ…」
駅の改札を出て空を仰ぐと、雲一つない青空が広がっていて。
待ち合わせ場所の巨大な広告パネルの前で時計を見れば、待ち合わせ時間より30分早かった。
いつもならしない早起きをして準備してきたのに、朝からずっとドキドキが止まらない。
ちなみに今日は黒のジャケットにロンTとデニムでカッコイイ感じを演出。(ちなみに雑誌の受け売り)
普段と違う雰囲気にしてみたんだけど、ゆかちゃん気に入ってくれるかな…?
ちらちらと時計を見てると、いつのまにか隣にお婆さんが立っていた。
にこにこ笑ってあたしを見上げている。
「誰かと待ち合わせしとるんかの?」
「あ、はい…」
「好きな人とデートかい?」
「えっ!…ま、まぁ…」
なんか恥ずかしいな。
デートだと思ってるのあたしだけだけど。
「そうかそうか…。じゃあ、何にかえてもちゃんと守ってあげんさい…ほんまに大切な人ならねぇ…」
お婆さんはそう言って去っていった。
…大切な人なら何にかえても守ってあげる、か。よく覚えておこう。
寝癖がついてないか手探りで確認してたら、向こうの方から見慣れた黒髪が近づいてきた。
「のっちーごめんね、待った?」
「う、ううんっ、全然!」
(うわぁ〜!まるでこれからデートするカップルみたいだよ…!)
ドキドキ煩い心臓がゆかちゃんに聞こえないか心配だ。
「あ…え、えっと……きょ、今日の服、似合っとるね」
今日のゆかちゃんは白のブラウスとふわふわとした薄いピンクのスカートでお嬢様風な格好。
(めちゃくちゃ可愛いよ!しかものっち好みのファッションだし!)
「ほんま?えへへ…ちょっと頑張ってみたんよ。…可愛い?」
「えっ!う、うん、かわいいよ」
「ふふ、ありがと。今日ののっちカッコイイね」
「ほ、ほんま?ありがとう…」
どうしよう、飛び上がりそうな程嬉しい。雑誌の見よう見まねだけど。
「じゃあ行こっか」
「あ、うん」
なんだか落ち着かなくてソワソワしてしまう。
並んで歩いてるだけなのに、足元がふわふわする感じ。
「で、映画見てー、ご飯食べてー。…あ!見て見てのっち、あれ可愛い!」
「っ!?」
きゅって腕を取られて、ゆかちゃんの身体が密着してくる。
「ゆか、ああいうの好きんよ」
「そ、そそそーなんだ…」
「あ!あれカッコイイ」
「う、うん。カッコイイねっ」
顔が熱くて心臓が痛いくらい鳴っている。
ゆかちゃんの言葉にひたすら頷くことしかできないよ。
映画館に着くと、さすが公開初日とあって沢山の人で溢れていた。
「ちょっ、多すぎ!」
「ね。人がいっぱいじゃね」
チケット売り場には人がわらわら集まっていて、とてもゆかちゃんをあそこまで連れていけそうにない。あんなとこ、ゆかちゃんが押し潰されちゃうよ。
…よし!
「のっちが買ってくるけぇ、ここで待っとって」
「うん。…でも人多いけぇ、気をつけてね」
人込みを掻き分けながら、さっきのやり取りを思い返す。
(『気をつけてね』だって!うわ〜どうしよ、背中がこそばゆい…!)
なんてニヤニヤしながら進んでたら、彼氏連れの女の人に気持ち悪そうに見られた。けど気にしない。
何たってゆかちゃんがのっちの事心配してくれたんだもんね。えへへ…。
「はぁ、はぁっ。た、ただい、あれっ?」
人の波を掻き分けてチケットとパンフレットを買ってきたあたしは、ゆかちゃんの姿がないことに気付いた。
(待っててって言ったのに…もしかして人込みに流されちゃったのかな?)
不安になって見回すと、入口付近でゆかちゃんがチャラい男に話し掛けられていた。
よく見るとゆかちゃんが困った顔になってる。ていうか、あれは気持ち悪がってる方かも。
(あ…あの男、ゆかちゃんになに気安く話し掛けとるんよ!)
ずんずんと大股で歩いて、ゆかちゃんの腕を掴む男の手を払い退けた。
ゆかちゃんを守るように男の前に立ってギロリと睨みつける。
「…んだぁ?てめぇ邪魔すんなよ」
「のっち…」
「…友達に何しよるん。困っとるじゃろ」
「あー?ちょっと話し掛けただけだろが!あーあ、シラケるっつーの!」
そう言ってブツブツ文句を垂れながら映画館を出ていく男をなおも睨みつけてると、不意にジャケットの裾が引っ張られた。
「…のっち…」
(あ…そうだ、ゆかちゃん!)
あまりの怒りにゆかちゃんを気遣うのを忘れてた。
振り返ると、ゆかちゃんがあたしのジャケットの裾をぎゅうっと掴む。
(のっち、怖い思いさせちゃったんだ…)
「遅くなってごめんね。…大丈夫?なんもされてない?」
「うん。のっちが助けてくれたけぇ…」
「そっか…。良かったぁ…ゆかちゃんに何かあったら心臓止まりそ」
そこまで言ってハッとする。
(って、な、何言っとるんよ!まだ告白もしとらんのにっ)
「あ、あぁ、いや。あの…大事になったら困るし、ね、はは…は」
…だめだ!乾いた笑いしか出ない!
(はぁ…気持ち悪がられたかも。さっきのチャラ男みたいに)
反応がないのが怖くて、ゆかちゃんの顔を恐る恐る見る。
「……のっち、ありがと。カッコよかった…」
なんと、ゆかちゃんは頬を少し赤らめてはにかんでいた。
「え…っ、あ、う…いや…」
目の前のゆかちゃんは、言葉にできないくらい可愛くて。
「…あ、も…もうすぐ始まりゅ、始ま、始まるけぇ行こ!」
「あ、待ってのっちー!」
熱くなった顔を見られたくなくて、必死に腕で隠しながら観覧室へ入っていった。
㈭END
最終更新:2008年10月13日 12:20