「うあ、雨、降ってきた」
夏、湿気の篭る部屋で、あ〜ちゃんとゆかちゃんと夜中の二時五分前。
「うわー、今はやりのゲリラ豪雨ってやつですか」
本当は毛布なんて暑くて被りたくないけれど、ゆかちゃんが隣にいる手前。
自分の胸に毛布を引き寄せる。ゆかちゃんは髪を掻き揚げる。
本当に邪魔くさそうにしている。
「ゆかたちもゲリラライヴしたいぜー!」
窓を開け夜中の湿った気持ちの悪い空に叫ぶが、
ゆかちゃんの声は雨の音に掻き消され。
雨の音にも、蒸すような暑さもあきらめたのか、ゆかちゃんは黙って外の景色に目をやる。
手首にかかっているゴムを解き、髪を結び上げるゆかちゃん。すごく綺麗なしぐさだ。
そのまま一連の行動で、自然にあ〜ちゃんに近づいてきたので、
押し倒されるまで何されてるのか分かんなかったという。
「うっとうしいねえ、雨。あ〜ちゃんもそう思わない?」
「すいませんが、何故あ〜ちゃんは押し倒されているんじゃろ?」
「うっとうしいからでぃす」
「それは、雨だよね・・・?」
「そうでぃす」
あ〜ちゃんの頬に手を添えられる。そのまま覆いかぶさられて、体重かけられて、
キスされて、あ、コレ熱帯夜みたいだって思った。
「っ・・・ふっ・・・。」
触れ合った肌が湿気で気持ち悪くて、夏が嫌いかも、と思った。
でも、ゆかちゃんは嫌いではないので仕方ない。受け入れてしまう。
背中に回した腕に吸い付くように湿った肌が、何度も言うようだが、気持ちのいいものではない。
でも、ゆかちゃんの体温はいつだって心地いい。
「ん・・・っ・・・」
舌が入ってきて、余計接近してきて、もう何を考えてるのかわからなくなった。
「・・・」
開け放たれた窓から聞こえる雨の音があまりにもうるさくて、
ゆかちゃんがなんと呟いたのか聞こえなかった。
長いキスの後、肺に空気を取り入れようと、大きく息を吸い込む。
入ってくる空気が全て、湿った生温いもので、何度吸っても、満たされなかった。
水の中を泳いでいる感覚に似ていると思った。
なんだかまだ苦しくてのばした手は、ゆっくりゆっくりゆかちゃんの背中を這う。
「ゆかちゃん。なんだか呼吸、しづらいよう」
「呼吸しなきゃ生きられない?」
ゆかちゃんは冗談交じりに笑う。その笑顔に、ときめかずにはいられない。
自然に顔が熱くなる。
「そんなことないよ、生きられるけえ」
あ〜ちゃんも冗談でそう答える。
「なら、大丈夫じゃない?そんなことよりさあ、」
首筋に口付けられる。
「もっと湿ったこと、しようよ」
ちゅ、と音を立てて、ゆかちゃんは私の首筋の、
ほんの小さな一部分を赤く染める。
私はもう何も考えられないほど感覚が鈍ってしまって。
まるで、降る雨が、昇るような錯覚を覚えた。
ザァァァァ、と雨がゆかちゃんの笑い声を掻き消して、掬い上げた。
もう一度キスをされ思わず声が出たけれど、それもゆかちゃんの耳には届かずに、
ただ行為だけが続く。
「ね、ゆかちゃん、さっき、なんて言ったの?」
ゆかちゃんは私の胸をまさぐる手を止め、嬉しそうに笑う。
「あ〜ちゃん、愛してる」
こんなにうるさい雨の夜でも、その言葉だけはやけに鮮明に響いた。
end
最終更新:2008年10月13日 14:48