あれから数日が過ぎた。
一体今は何日だろう。何時だろう。分からない。
多分あの時から、あたしの中で何かがプッツリ切れたんだ。
チャイムが鳴ろうがメールが入ろうが、出る気も返す気もない。
「…お腹空いた」
こんな時でも人間ってやつはお腹が空いてしまうんだなぁ。
ベッドからむっくりと身体を起こす。
よろよろと冷蔵庫に向かおうとして、普段鳴らない携帯が鳴っている事に気付いた。電話だ。
「…あ〜ちゃん?」
『あんたねぇ、メールくらい返しんさいや』
久しぶりに聞くあ〜ちゃんの声に、何故かホッとする。
「あー……ごめん」
『……のっち?もしかして具合悪いん?』
優しい声に胸が締め付けられた。
今はその声が辛い。
「ねぇあ〜ちゃん、今好きな人おる?」
話題を変えた。こう言えばあの優しい声は聞こえないはずだと思ったから。
案の定、あ〜ちゃんの雰囲気が変わる。
『……どうじゃろ。もしかしたら好きかもしれん…』
「そっか…。どんな人?」
『あ〜ちゃんが絶対に好きになったらいけん人…』
「…そうなんだ」
今まで聞いた事のない声が耳に響く。こんなにもあ〜ちゃんの揺らいだ声を聞いたのは初めてだ。
ピンポーン。
『…チャイム鳴っとるよ』
「宅配便かな…ごめん、切るね」
『うん』
ほんとは出たくないんだけど、さすがに何日も無視できないか。
携帯を閉じて玄関へ。
「はい…」
ドアを開けるとそこには。
「のっち…やっと開けたくれたんじゃね」
「ゆかちゃん…」
「……」
「…」
気まずい。何を喋っていいのか分からない。
部屋に通したものの、お互い沈黙してしまう。
「…のっち」
それを破ったのはゆかちゃん。
「あの時言った事、ほんまなん…?」
「…うん」
胸がちくりと痛い。
フラれたかもしれないと考えたあの日を思い出してしまった。
「じゃあなんでゆかに何日も会わんの?ゆか、まだ何も言っとらんよ…」
「…それは、『直ちゃん』って人がっ」
言いかけて、それは出来なかった。
「うわっ…!」
細い腕が首に巻き付いたからだ。
あたしの身体は咄嗟の事に対応出来ずに後ろに倒れた。衝撃で後頭部を打った気がするけど、今はそれどころじゃない。
「…ゆかは、のっちが好き」
「え…」
「のっちが好きじゃ…。好き、大好き…」
耳元に響く可愛い声が震えている事に気付く。
不意に、あのお婆さんの言葉がフラッシュバックされた。
『大切な人なら何に変えても…』
…そうだった。覚えてたはずだったのにいつの間にか忘れてた事。
(大切な人なら何に変えても守ってあげなきゃいけないのに、あたしはそれを自分から放棄しようとしたんだ…)
ゆかちゃんをそっと抱きしめる。
温かい体温に、心が満たされていく。
「…ありがとうゆかちゃん。それから、ごめんね…」
「うん…」
もう絶対そんな事しないよ。もう絶対忘れないよ。
ゆかちゃんはあたしが一生守るんだ。
ゆかちゃんが少し顔を上げた。目がちょっと赤い。
「…えへへ、やっと言えた」
「ごめん…」
「ううん、ゆかも悪いんよ。もっと早く言えば良かったのに…」
「え…それって」
ぺろっと舌を出して悪戯っ子みたいに笑う。ゆかちゃんのお決まりだ。
「うーん、やっぱり言わにゃいっ」
「…えぇー!?」
笑い声が部屋に響いた。
㈹END
最終更新:2008年10月13日 18:30