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−A-side

薄暗い部屋で抱き合う二つのからだ。
二人はふたり。一と一じゃない。

別にどこを触るわけでも触られてるわけでもなくて、
ただ無心に互いの肌を味わってる。
目を閉じて背中に回した手を強めると、まるで体で会話してるみたいな気になる。

今日、ゆかちゃんと会ってたの、ほんとは気が気じゃなかった。
ここでずっと待ってたんだよ。
抱き合ったときにゆかちゃんの匂いがしなくて、ほんとに安心したんだよ。
そのすべてを、私は口に出せないでいるんだよ。
くるしいよ、のっち。

体だけでなく心もすべて抱きしめることができたら。
もっとのっちからの愛情を心から信頼できたら。
もっと好きになってほしい。


でものっちは何も言わずに私を何度も強く抱きしめる。
まるで自分の体を押し付けるように、私を強く引き寄せる。
この皮膚が邪魔だって思ってるみたいに。

のっち。でも私は知ってるよ。
二人の体がちゃんとこうやって区切られてるから、
抱き合ったときにこんなに気持ちいいようにできてるってこと。


−N-side

ほんとはもっとあんなこともしてこんなこともして…
いやらしい妄想は次から次へと浮かんでくるはずなのに、
気がつくと私は何もせずに、あ〜ちゃんを強く抱きしめてるだけだ。

あ〜ちゃんの肌はさらさらしていて、それが触れるたびに、
吸い付くみたいに気持ちがいいから。
いつもより強くしがみついてくるその手が、何かを訴えてるようにも感じるのに、
私はそれには気づけないでいる。ただむさぼってしまうよ。

目に見える体の輪郭がうっとうしく感じるほどに、
今はこの子とこのまま溶け合ってしまいたい。

でも、触れ合う髪に。腕に。足に。
こんなにぴたりとくっついていても、それは永遠に無理なんだといちいち思い知らされる。

そんな気がして余計に求めてしまうよ。
そのたびに、その感情は解決のしようのないさみしさなんだと知るんだ。


「のっち…?」

その様子に気づいたのかなんなのか、あ〜ちゃんがゆっくり体を起こして、
私たちは上下逆の体勢になった。


彼女は微笑みながら両手で私の頬を包んで言った。

「…いっぱい抱きしめてもいい?」

その声はやさしくって。
さっきまでの焦燥なんて軽く片手でひねりつぶしてしまうくらい、
やわらかくてあたたかかった。


−A-side

前に「好きすぎてくるしい」って言われたことを思い出してた。
さっきの空気にはそれと同じ密度を感じたから。
大丈夫って心の中で言いながら、何度も抱きしめた。

ずっと一緒にいられるよねって。
何も心配しなくていいんだよねって。
でもそんな自分の思いは、抱きしめられて赤ちゃんみたいになってしまったのっちの前では、
自然に消えていった。これが愛情ってことなのかなあ。


…いつの間にか沈黙は破られる。
漏らしてしまったその声を合図に、体の芯が騒ぎ出す。
安心しきったのっちは自由で奔放で、いろんな方法で私を確かめいく。
体で会話してるみたい。快感が重なる。

「…気持ちいい?」
わかってるくせに聞いてくるのは、どうしてなん。
にやついた顔がなんか憎たらしくってつい答えてしまう。

「…気持ちくない!」

ぴたっと動きを止めて、のっちの顔が目の前に現れた。
癇にさわったかな。それとも不安にさせちゃったかな。
そう思って、気持ちいいよって言おうとしたとき。


にやりと笑ってのっちはこう言った。

「んじゃもっとしなきゃね」


−N-side

気持ちくないとか言っちゃってさ。かわいいなあ。
激しくなっていく動作に耐えられなくなっていく様子がたまらない。

「ん…気持ちいい…」

もう何度目だろう。
でも何度聞いても、聞くたびにうれしくって熱くて興奮するんだ。

入り口に指を這わせたとき、不意にあ〜ちゃんが言った。

「まだ、入れないで」
「…?」

でも呼び覚まされてしまったものはもう止めようがない。
中に入りたい。君の中に。はやく。
戸惑ってる私の首に腕をまわして、あ〜ちゃんは囁くように言った。

「もうちょっと、こうしてて」
「…うん」

不安げな声でそう小さく吐いた息が耳に触れて。
触れたところがやけどしそうなくらい熱かった。

気を取り直してさっきみたいに抱きしめても、
すっかり熱を帯びた体はもうすべすべだけじゃなくって。
足の付け根があ〜ちゃんのそこに触れたときの感触に。

「なんか、今日はおかしくなっちゃいそうな気がするから…」
そう小さく呟いた君の声に。


「……あぁ入れたいいぃ」

思わず漏れてしまった心の声。自分でもびっくりした。
あ〜ちゃんドン引きだろうな…。情けなさすぎる。
目の前のあ〜ちゃんは目を丸くして無言になってるし。。

「もう…いけん子じゃねぇ」
でも、あ〜ちゃんはそうくすくす笑うと、私のおでこを指で小突いた。


戸惑う私の髪をなでてすーっと深呼吸をする。
そうして、ゆっくりと目を閉じて合図をくれた。

それは今日一番の、やさしくて甘いキスだった。


(つづく、はず)






最終更新:2008年10月17日 14:28