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『奥さまの名前はかしゆか。だんな様の名前はダーリン…もとい、のっち。
ごく普通の二人は、ごく普通の恋をして、ごく普通の結婚をしました。
でも、ただ一つ違っていたのは…なんと二人は女の子だったのです。』



「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
今日もいい天気。
あたしはいつものようにスーツを身に纏い、玄関に立ちました。
「………」
「…?遅刻するよ?」
「いってらっしゃいのチュー…」
「…いってらっしゃいのグー?」
「いってきまっす!!」
拳を上げて黒い笑みを浮かべた愛しの奥様『ゆかちゃん』に見送られ、風のように家を後にしたあたしが向かうのは、とあるビル。
「おはよー」
「おはよう、早いね」
「いやー、ははは…」
引き攣った笑顔を浮かべながら同僚と挨拶。その向こうには下着を着けたマネキンが立っている。
そう、私の勤務先はランジェリーメーカー。別に下心があって働く決意をしたわけでは…ないこともない。
「今日の打ち合わせは10時からだったよね」
「うん、その後は会議。試作品の発表みたい」
「そっか。頑張ってねのっち」
「うん、じゃあね」
同僚は爽やかな笑顔を残しながらダンボールいっぱいのブラを運んでいきました。心なしか嬉しそう。やっぱり皆好きなのかな…ブラ。


私が所属しているのは開発部。日夜下着の開発に勤しんでいます。
アレコレ試作しては発表したり、試着したり結構大変なんです。
「ねぇ大本さん。これ次の試作なんだけど、是非奥さんに着けてみて欲しいの」
「………」
広げてびっくり。
なんだこれ…。目ん玉が飛び出そうだよ。むしろちょっと出たよ。
「……あぁ、AV女優向けの」
「違うわよ。このレースとシースルーの部分がポイントになっててチラ見せな所が、結構若い層に受けるんじゃないかと思ってね〜」
「そ、そうです…か…?」
チラ見せっていうかむしろモロ見せですけどこれ。しかもこの薄いピンク色が更にイケナイ感じを醸し出している。
「是非奥さんの意見を聞きたくて」
「なんでうちの…」
「これのキャッチコピーが“夫に愛される妻になろう”なの。だからちょうどいいかなって」
成る程…これをゆかちゃんに着けろとな。
「…分かりました。私にまかせて下さい!」
「大本さん、鼻血出てるわよ」
待っててマイハニー!今夜は寝かせないよ!


「絶対やだ」
帰宅してすぐにゆかちゃんにお披露目。全力で却下されました。
「な!なんで!?」
「こんな透けとったらいちばん大事な所が丸見えじゃわ!」
「それがいいんだよ!そこがウリなんだよ!夫に愛される妻になってよ!」
「最後の意味が分からん!だったらのっちが着けたらいいじゃろ!」


まるで子供みたいな言い合いが続く。でも諦めないよのっちは。今日のあたしはひと味違う!
「…じゃあゆかちゃんは、のっちがこれ着けたの見たい?」
「見たくない」
即答かよ。ちょっと傷つくよ。まぁ、あたしも見たくないし着けたくないけど。
「でしょ?だからゆかちゃんが着けるしかないんよ」
ゆかちゃんがほっぺたをぷっくり膨らませた。
「…そもそも、これ作った人が着ければ良かったんじゃないん?」
「これ作ったの40代の人じゃけぇ、さすがに無理が…」
着けてる所も想像出来ないし、したくない。ゆかちゃんも苦い顔をした。
「………分かった」
折れないあたしに根負けして、ゆかちゃんがレースとシースルーがポイントの試作下着を手に渋々部屋に消える。
…わっしょーい!!あたしは大きくガッツポーズをした。
『のっちは変態にレベルアップした』


「…のっち」
「つ…着けた…?」
「うん…」
ドアの隙間からゆかちゃんが恥ずかしそうに顔を覗かせている。
ゆかちゃん可愛いよゆかちゃん。
「じゃ、じゃあ…お願いします!!」
「うん…」
ゴクリ、と喉が鳴った。もうあたしの胸はかなりの期待で高鳴っている。
が、我慢できん…。ドアの側まで近寄って早く早くと心の中で急かす。
そんなあたしを見て、モジモジしながらゆかちゃんがドアを…。
「—ごはっ!!」
勢いよくあたしの顔面にぶつけた。
「…のっちの変態!」
床に倒れるあたしが見たのは、ヒラヒラと空中を舞うイケナイ下着でした…。

#01END





最終更新:2008年10月17日 14:57