休日の昼下がり、あ~ちゃんはのっちの家に来ていた。部屋は実にシンプルで、テレビに繋がれたPS3はのっちの命。
のっちは客がいるにも関わらずゲームに夢中。人をバッサバッサ切っていく単純そうに見えて複雑なゲーム。あ~ちゃんはしたいとは思わない。血出とるし。
あ~ちゃんはのっちのベッドに寝転がってのっちの背中を眺めていた。
「ねぇ、」
「……」
「ねぇ、って」
なんでシカトしよるんじゃ。シュールな効果音が響く。なんか段々ムカついてきた。このゲームオタクが。あ~ちゃんを怒らすと痛い目見るんよ。
「あ~ちゃん何しよん!」
「ばーか。無視しよった罰じゃ」
あ~ちゃんはのっちのライフラインをぶった切った。のっちの命のランプが音も無く消えた。
「信じれん事しよる…」
頭を抱えるのっち。信じれんのはどっちよ。お姫様はご立腹なんだ。そうさせたのは、間違い無くこのゲーマー王子。
「ゲームとあ~ちゃん、どっちが大事なんよ」
そう言うと、困った顔をした。のっちの視線はフワフワと泳ぎ、辿り着いたのは命のPS3。
「…あ~ちゃんだよ」
「あ~ちゃんの目を見て言いんさいよ!」
そう怒鳴ると、のっちは肩をすくめた。なんで迷うんだ。そこは目を見て即答するだろ普通。
腹が立った。反応が無くなったのっちの命を冷たい目で見た。
よう、プレステ3か2か知らんけど。うちのヘタレをたぶらかすとは良い度胸じゃな。
と、この機械に説教した所で何かが変わる訳もなく。ただ言えるのは、こんなにものっちの少年心をくすぐるゲームとやらは、自分の永遠のライバルだと言う事。
「もうのっちなんか知らん」
そう言ってあ~ちゃんは頭からスッポリ布団を被った。亀みたいに、自分の甲羅に閉じこもった。
のっちはそんなあ~ちゃんを見つめて、情けない声で名前を呼ぶ。しつこいくらい。
「出て来てぇや」
「……嫌」
「ごめん…もうゲームはせんけぇ、」
のっちの参りましたが出た。あ~ちゃんの頭に、半べそかいて白旗を振るのっちが「降参~」と叫んでいるのが浮かんだ。
「あ~ちゃんは眠いんよ、だからこのままお昼寝します」
甲羅から片手だけ出して、バイバイ、と手を振った。降参するのっちにちょっとイタズラ。
「なら、のっちも寝る」
そう言うのっちの、声の質が変わった気がした。
すると、ベッドが軋む音と共に、のっちが布団を引っ張る。何か吹っ切れたかの様に。
「な、にするんよ」
「お昼寝」
意外と強いのっちの腕力に負け、あっけなく布団を取り払われた。突然の事に驚いて猫みたいに丸くなった状態で、のっちに発掘される。
「一緒に寝よ」
のっちが笑顔でそう言った。眩しくて目を細めた。自分では決まったと思ったのか、そのバカみたく直球な言葉に若干空気が凍り付いた。
「嫌じゃ、ベッド狭いけぇ他で寝んさいよ」
「コレのっちのベッドじゃけぇ、良いじゃろ好きにしても」
奪った布団でフワリと包み込まれた。今度は、二人まとめて。頭だけ出した少し窮屈な甲羅が、なんだか心地よい。
目と鼻の先にのっちがいる。あ~ちゃんは目を伏せた。今見たら、負ける。何に負けるか?それは分からない。
のっちの匂い、のっちの温もり、のっちの心臓の音。あぁ、のっちに全神経が侵される。
のっちの手が、頬を撫でた。優しく、愛しいものに触れる様に。
「…くすぐったい」
「可愛いから、」
「意味が分からん」
のっちが小さく笑った。あ~ちゃんも、笑った。愛しい時間が流れた。
安心すると、本当に眠くなってきた。あ~ちゃんはゆっくり目を閉じる。
「寝んといてよ」
「…眠いんよ…」
「嫌、起きとって」
珍しく甘えん坊な王子様。顔を近付けて来た。息がかかるくらい、近い距離。
「寝たらキスするよ?」
そんなコト言って、ドキドキしない訳がない。たまにこうやって、あ~ちゃんの乙女心をくすぐるんだ。
「……」
あ~ちゃんは動かない。柔らかくて甘い香りの風が二人を包んだ。
唇に温もりを感じた。優しくて、愛しくて、胸がキュンと痛くなる。
まだ。もっと。離れたくない。だけどのっちはすぐに唇を離す。名残惜しい切なさに、体の奥が震えた。
「起きてよ、」
ずっと寝たフリをすれば、君はずっとキスしてくれる?それとも諦めて、またゲームに熱中?
「キスするよ?」
「うん、」
して。そう言って目を開けてのっちを見つめた。のっちは困った様に笑った。呆れた顔が下手過ぎる。
起きたからしないとは言わせない。目を覚ましたお姫様にもっと愛を捧げてよ。王子様の愛を。
まだ。もっと。全然足りない。
「キスだけじゃ、足りん」
ほんのりと頬を赤く染めて言った王子様は、狼さんの目をしていた。
今日の所は、あ~ちゃんの一本勝ちじゃよゲームさん。
―End―
最終更新:2008年10月10日 02:33