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理解していても聞きたくない言葉は沢山ある。
現実に起こっていても、それを見るまでは非現実的な物語のように。
だから私は耳を塞いでしまいたかった。
携帯を弄る手が止まったのなんて、きっと誰も気づかない。
微かに震える自分の体が怖かった。

「うん、やっぱりそう。のっちはあ〜ちゃんのことが好き」

自己完結したらしいのっちの発言は、数分前のものとは違って迷いがなかった。
僅かに紅潮した頬が可愛らしいなんて、私はいつまでそんなことを考えてるんだろう。
わかってた、うん、わかってたことじゃない。
何を落ち込む必要があるんだろう。
いや、それどころか私は全然落ち込んでない、元気だし。
元気、うん、元気。めちゃくちゃ、泣きそうなぐらい……。

「かっしぃ、大丈夫?」
「え?うん、大丈夫。それで、あ〜ちゃんにはいつ告白するん?」
「えーっと…いつがいいかな?」

恥ずかしそうに頭を掻きながら尋ねられても、そんなのゆか知らないよ。
こんなに私の瞳は揺れているのに、のっちの眼差しは真っ直ぐすぎて、視界が霞そう。


「…ゆか応援するから、がんばれ」

震えそうな声。もう震えていたかもしれない。
こんなにも泣きそうなのに、どうして気づいてくれないんだろう。
溜めた涙を気付かれないように、俯いて拭う。

「ありがとう、ゆかちゃん」

まるで、わざと言ってるようにしか思えないタイミング。
いいよ。二人がうまくいったらいいなって思うもん。
頭を振って、気分を誤魔化す。
こんな時に"ゆかちゃん"なんて呼ばないでほしい。余計に私だけが切なくなる。
きっとこの我慢を解いたらすぐに泣いてしまう。
のっちの顔は嬉しそうに微笑んでいる。何も知らない、可愛いのっち。
好き。好きだよ。
一度も口にしたことないのに、何度も囁いた気分。
なんてバカなんだろう。


あれから何日か経ったけど、傍目に見て二人の仲は進展してなさそうだった。
あ〜ちゃんは相変わらずのっちに厳しい言葉を言うけど、のっちは以前にも増してへこみながらも嬉しそうにしている。
変化はない、と私は思う。
でも実は知らないところで何かあったんじゃないかと思うだけで三人でいる空間が嫌になる。
なんだか輪から外れた気分。
誰も何も言っていないのに、被害者意識だけが大きくなっていく。
例え二人の関係がより密接になっても、私といる三人の関係は全く変わらないはずなのに。
バカみたい。
本当にバカみたい。
あの時にきっぱりと、自分の中で片づけられていたら今でもこんな想いをする必要なんてなかった。
目で追うことも無意識にしてしまう。わかってるのに、どうしてこんな無意味なことしちゃうんだろう。

「ゆかちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ。寝不足かな…」

顔を上げるといつの間にかあ〜ちゃんが隣に座っていた。
のっちはいない。いたらそれこそ、嫉妬深い目で見られていたかも。
軽く笑ってみせても、あ〜ちゃんの瞳は依然として怪訝そうにしている。
嫌だな…。
あ〜ちゃんに嘘は通用しない。
誰よりも人のことに敏感だから、特に付き合いの長い私たちのことなんかきっとすぐにわかるんだろう。


「ゆかちゃん、どうしたん?」
「どうもしとらんよ」
「嘘。何かあったん?」
「嘘って……」

真っ直ぐな瞳はのっちと一緒。
自信のないゆかの瞳はすぐに揺れて俯いてしまう。
嘘じゃないよ、あ〜ちゃん。
本当なんよ、あやちゃん。

「ゆかちゃん、言って。教えて、あ〜ちゃんも一緒に考える」
「ない、ないって。本当にないよ、あ〜ちゃん。あ〜ちゃんこそ、どうしたの…?」

おどけてみせても、あ〜ちゃんの表情は和らぐどころか、悲しそうになるだけ。
なんでそんな顔するの?
今この場にのっちがいたら、きっとゆかは目で怒られる。
ああ、それはヤだな。嫌われたくないもん。
正直に言えばいいんだろうか。
こんな、誰の得にもならないような、くだらないことを。

「あやちゃん、ごめんね。本当にゆか何もないんよ?あるとすればくだらない、小さな…ことで……」


泣きそうだ。
気付かれないように涙を拭いたいけど、こんなに意味を為さないだろう。
どうしてこんなこと言わなくちゃいけないのかな。
自分ではわかっているのに、口に出すと本当にくだらない、些細なことのように思えて恥ずかしくなる。
叶わないとわかっているなら諦めればいいのに。
ふと見たあ〜ちゃんの目には涙が溜まっていた。

「言って、教えて。どんなことでもあ〜ちゃんも一緒に考えるけぇ」
「あ〜ちゃん、どうしてそんな…ゆかに…」
「好き。ゆかちゃんが好きじゃ」

赤くなるあ〜ちゃんの顔。可愛い、なんて場違いみたいに思ってしまう。
ドキドキする心臓はこの前ののっちの告白とは違った緊張感を孕んでいる。
のっち、早く戻ってきてよ。
あ〜ちゃんは、指の腹で自分の涙を拭うと、私の目に溜まったそれも拭ってくれた。
何も言わないゆかを見て、あ〜ちゃんは微笑む。

「じゃけ、あ〜ちゃんはゆかちゃんの味方じゃ。困ったことがあったらいつでも助けに行くし」
「…あ、ありがと、あ〜ちゃん」


お礼を言うとあ〜ちゃんは満足気に微笑んだ。
私も笑おうかと思ったけれど、思ったよりも強張った顔の筋肉は動いてくれなかった。
あ〜ちゃんは強いな。羨ましい。
ゆかも言えばよかった。あの時のっちに……。
扉の開く音がしてのっちが帰って来た。
明るい声がして、私はどこかほっとした。でももう目で追うことはしなかった。

それぞれが複雑な感情を抱いているのに、ふりだしに戻った気分。
誰かが少しでも動けば、何かがきっと変わる。
でもこのままでいたい気持ちがゆかにはあった。
それには気付かないフリをして、私は二人の会話に耳を傾けた。

おわり







最終更新:2008年10月17日 15:01