「わー!久しぶりあ〜ちゃん!ゆかちゃん!」
「うわ!めっちゃ綺麗になっとるね〜」
「背高うなっとる!」
ワイワイと騒がしい店内に響くかつてのクラスメイトの声。やっぱり皆それなりに成長して変わっているらしかった。
よく分かるなぁ…あ〜ちゃんもゆかちゃんも。誰が誰だかさっぱりだよ、のっちは。
二人から少し離れた所に座ったあたしは、ウーロン茶を飲みながらおつまみを食べていた。
「大本さん、久しぶり。元気してた?」
「えっ、あ…うん」
誰だろう。こんな美人、うちのクラスにいたっけ。思い出せないや。
「樫野さんと結婚したって聞いたけど」
「うん。結婚してもうすぐ半年かな」
「そうなんだ〜残念」
「え…なんで?」
「だって、あたし大本さんの事好きだったから。あーあ、悔しいなぁ」
ちょっとドキドキした。
そうだったんだ、ちょっと惜しい事をしたかも…なんてね。
「…ねぇ、あたしと浮気しない?」
「ブフォッ!!?」
ウーロン茶が噴き出た。かなりの衝撃だよ今の!
「な…ななな…」
「アハハ…真っ赤になってる大本さんってカワイー」
「うぁ…あの…ちょ、ちょっとトイレ!!」
恥ずかしくて、慌ててトイレへと駆け込んだ。
バタン!
「はぁ…びっくりした…」
トイレに腰かけて深く溜め息をついた。ああいう冗談は苦手だ。
しかしいつまでもトイレに引きこもっていられない。どうしよう…。
あの席には戻れない。かと言ってあ〜ちゃんにもゆかちゃんにも助けを求められない。
どうする…どうする大本彩乃!
頭を抱えたあたしに、突然神の声が聞こえた気がした。
…そうか、これだ!
『のっち は にげだした!』
「あっ、大本さんどこ行くの?」
「えっ!いや…あの」
『しかし まわりこまれてしまった!』
「まだ同窓会終わってないんだから、ほらほら」
「いや、あの…」
ぐいぐいと背中を押されて席に戻されそうになる。なんてあてにならない神の声だ!だ、誰か助けて…!
「…のっち」
「あ…っ!」
『ゆかちゃん が あらわれた!』
「ごめんね、うちらもう帰るけぇ」
「そうなんだ。じゃあ、元気でね」
「う、うん」
ゆかちゃんに腕を引かれて店の外に出された。
な、なんか…怒ってる?
「……のっち」
「はい…」
静かに響く声が怖い。もしかして、嵐の前のなんとかなんじゃ…。
ビクビクと脅えていると、不意にゆかちゃんに抱き着かれた。
「…ゆかちゃん?」
「のっちは、ゆかと結婚して良かったと思っとる…?」
いつもと違う不安そうな声に胸が締め付けられた。
なんでそんな事言うの?のっちはゆかちゃんをこんなに愛してるのに。愛してるから結婚したのに。
「のっちはゆかちゃんとずっと一緒にいたいから結婚したんだよ。だからそんな風に言わんで…」
「でも…だって、ゆか以上に可愛い娘だって、綺麗な娘だっておるのに…っ」
あたしの腕の中でしゃくり上げるゆかちゃん。
一体いきなりどうしたんだろう。なんで?
「ゆかちゃん、どうしたん?なんでそんな泣くん?のっち何かしちゃった…?」
「ちがう…。ゆかが勝手にヤキモチやいた…」
「ヤキモチ?」
あたしの問い掛けにこくんと頷くゆかちゃん。ほっぺたが真っ赤だ。
「…のっちはゆかの旦那さんなのに、皆のっちの事好きとかカッコイイとか言うけぇ…」
「……」
「…のっち?」
ぎゅっとゆかちゃんを抱きしめる。ほんまにもう…敵わんわ。
「あーもう…いちいち可愛すぎなんよゆかちゃんは!」
「なんで怒るん…」
「怒っとらんよ。でも、可愛すぎてどうしたらいいか分からん…」
顔が熱いよ。しかも、さっきから道行く人にジロジロ見られてるし。
「…のっち」
「な、なに?」
「帰ったら…お風呂いっしょに入ろ」
「!!」
ふにゃりと笑うゆかちゃんを前に、一気に顔に血が集まった。
一体どうしたのうちの嫁は!?今日めちゃくちゃ可愛すぎるんですけど!!
「う、うん!」
「えへへ〜やったぁ」
まるで子供みたいに嬉しそうに笑うゆかちゃんになんだか違和感を感じる。
も、もしかしてお酒呑んだんじゃ…。
「あっ、のっちー」
「あ〜ちゃん!?」
パタパタとお店から走ってくるあ〜ちゃん。心配そうな表情だ。
「ゆかちゃん大丈夫なん?」
「え?」
「さっき結構お酒呑んどったんよ。誰かさんが皆にモテとるってヤキモチ焼いてからに」
「そう言われても…」
確かに腕の中のゆかちゃんを見ると目の焦点が微妙に合ってない。
今はあたしに抱き着きながら、ぼんやりとあ〜ちゃんを見つめている。
「…あ〜ちゃん」
「ん?なに?」
「ゆか、あ〜ちゃんもだいすき」
「な…!ゆ、ゆかちゃん!?」
ちょちょちょ!ゆかちゃんはあたしの嫁なんだよ!?あ〜ちゃんも顔赤くしてないで何とか言ってよ!
「あ〜ちゃんもゆかちゃんが好き」
あ、あ〜ちゃん!?一体何言っとるんよ!あ〜ちゃんが笑顔で言うもんだから、ゆかちゃんも嬉しそうに笑ってるし。
「やったぁ〜両想いじゃね〜」
キャッキャはしゃぐゆかちゃんをぎゅうっと抱きしめる。このままじゃ、あ〜ちゃんにとられちゃうよ!
「だめ!ゆかちゃんはのっちの奥さんじゃけぇ、あ〜ちゃんには渡さん!」
「じゃあ、ゆか浮気するもん」
「ぅえぇ!?ちょっ…ゆかちゃん!!?」
「のっち邪魔せんでよ」
「あ、あ〜ちゃん!?」
二人のやり取りにオロオロしてると、ゆかちゃんがあたしの腕をすり抜けてあ〜ちゃんの腕に自分の腕を絡めた。
「ちょっ…!」
「あ〜ちゃん帰ろ」
「そうじゃね。モテモテのっちは一人で帰りんさいや」
二人はニコニコ笑いあいながら歩きだす。しばらくポカンと見てたあたしは、ハッと我に返って追い掛けた。
「ま…待ってよゆかちゃーん!あ〜ちゃーん!」
まるで学生の頃のように。
#04END
最終更新:2008年10月17日 15:07