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放課後の教室で、あたしは頬杖をついてぼうっとしてた。
今日一緒に帰るはずだったゆかちゃんには、見捨てられた。
ほんとはゆかちゃんとのっちの誕生日祝いに使う、特大クラッカーの買い出しとか、美味しいケーキ屋さんの「マカロニ」でケーキ予約するつもりだったけど。
あの後のっちの前から逃げるように去ったあたしをゆかちゃんは追いかけて来て、
「あ〜ちゃん、あれでいいの?」
とあたしの手をしっかりとつかんだ。
いつもはあたしにはべた甘なゆかちゃんが、厳しい顔をしてた。
「ゆかはあ〜ちゃんの意地っ張りなとこも可愛いと思っとるよ。でもさっきのは、のっちを傷つけとるし、それに…」
「…それに?」
「あ〜ちゃんも、傷ついとる」
あたしは唇を噛んだ。
「何で素直に言わんのん?あ〜ちゃんは肝心なとこで甘えんけえ、大事なものを失っても知らんよ?」
「いいもん、その時はゆかちゃんが貰ってくれるじゃろ?」
あたしは軽い冗談で流そうとしたけど。ゆかちゃんが、すごく歪んだ、つらそうな表情を浮かべたので驚いた。


「…ゆかは、本気であ〜ちゃんを、…心配しとんよ。冗談にせんといて」
ゆかちゃんはポツンとそう言うと、くるりとあたしに背を向けた。
さらさらと黒髪を揺らして去って行く後ろ姿は、あたしをひどく落ち込ませた。
どんな時でもゆかちゃんは基本的にあたしの味方だったから。あたしを甘やかしてくれる存在だから。
そのゆかちゃんに叱られると、なんか悲しくなってきた。
うちのせいで、台無し。のっちの誕生日までのワクワクが消えちゃった。
ほんとは。つき合い出して初めてのイベントじゃけえ、誕生日まで毎日メール送ろうとか、一週間前祝いとか3日前祝いとかイブとか…甘々なこと考えとったのに。
何でのっちに素直になれんのんじゃろ。
好き過ぎて負けちゃいそうで、うまく甘えられん。優しい言葉が見つけられん。
「好き」のたった一言を、言えないでいる。


「…あ〜ちゃん?」
放課後のしんとした教室に、のっちの声が響いた。
少し陽の落ちかけた教室を、ゆっくりとのっちが近づいてきて、あたしの隣に腰かけた。
「ゆかちゃんが、あ〜ちゃんが教室に残っとる、って教えてくれた」
あたしはのっちの方を見ずに、頬杖をついたまま、窓の外に目をやった。
「…あ〜ちゃん」
のっちの、あ〜ちゃんって言い方の、独特の甘えかかるような響き。
何でか、そう呼ばれるだけで、あたしはめちゃくちゃのっちが愛しくなる。
「19日、断ったんだ」
「えっ?」
「ああいうの苦手なのもあるけど…。せっかくのバースデーイブじゃん、20日は3人でお祝いしてくれるから、19日はさ…」
のっちがおずおずと、探るような上目づかいであたしを見た。
「…あ〜ちゃんと、2人で過ごしたい」
あたしの中に、何かこみ上げてくるものがあった。
その熱くて痛いほど切ないものを何とか抑えようと、あたしは身動きがとれなかった。
「バースデーイブは、あ〜ちゃんにお祝いしてもらいたい」


…あたしは。泣きそうに幸福なのに。同時にその幸福に打ちのめされそうな、苦しさを覚えた。
だって。
のっちに言わせちゃった。「お祝いしてほしい」って。
ほんとはあたしの方から、「お祝いしたい」って言って、のっちを喜ばせたかった。
他の人と一緒にいないで、とは言いたくないけど。2人で過ごしたい、って言いたかったんだ。それなら素直な気持ちで言えるから。
なのに。のっちに言わせちゃった。
…あたしには、もうのっちを喜ばせる言葉が残ってない。
「…別に良かったのに」
言っちゃダメ、って思う心をよそに、意地っ張りな気持ちが口を動かす。
「うち、19日の用意なんか考えとらんかったし」
ダメ、これ以上余計なこと言うな。
「ファンクラブの子とか、のっちの為に色々企画してくれとんじゃろ?」
バカバカ、何言っとるん。何で意地張っとんよ。
「うちより、のっちのこと想ってくれとるかも。うちと過ごすより楽しいかも…」
「…それ本気で言っとん!?」
ガツン、とのっちが机を蹴って、荒い口調で言った。
「うちはあ〜ちゃんと過ごしたい、って言っとるんよ」
「……」
「…なんか、ムカつく」
ぽつりと、投げ出すようにのっちが言った。教室の、空気が震えた。


つづく






最終更新:2008年10月17日 15:30