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一週間後。
あれから何も無かったかのように振る舞っているちゃあぽんと私。
…あの日、結局私が出した答えはNOだった。

だって私達は姉妹だから。私が受け入れてしまえば、きっと妹の全てが傷つく。
私のせいでちゃあぽんの人生が傷ついてしまう前に、拒否するべきだと思ったんだ。

…本当は、好きだと言われて嬉しかった。
本当に嬉しかったから、あの腕に甘えて泣いてしまいたかった。


不意に携帯の着信音が部屋に響く。ディスプレイには『ちゃあぽん』の文字。
ドキリと心臓が跳ねた。
「もしもし…?」
『あ、お姉ちゃん?』
ちゃあぽんの声はなんだか軽かった。まるで本当にあの告白が無かったみたいだ。
『今、出てこれる?』
「…なんで?」
『まだお姉ちゃんに伝えてない事があるけぇ、ちゃんと言いたくて…』
「……今、どこ?」


川辺にちゃあぽんの姿を見つけた。私は砂利に足を取られない様に気遣いながら、足早に近づいた。


「あ、やっと来た」
「なに?伝えてない事って…」
「…ちょっと、びっくりするかもしれんけど」
肌寒い風が頬を撫でていく中、ちゃあぽんは言いにくそうに口を開いた。
「あたし、東京の高校に行こうと思っとる」
「…え」
「もうお父さんとお母さんには言っとるし、行きたいなら行っていいって言われた」
「ちょ…ちょっと待ちんさいや…!そんな…」
夕日に背中を照らされたちゃあぽんは、やけに大人びた顔をしていた。
その顔のどこにも、悲しさや寂しさの色は見られない。
「本当はギリギリまで言うつもり無かったけど、心につっかえてた物が無くなったけぇ…」
「…もしかして、私があの時断ったから…」
「うん。でも、それだけじゃないんよ」
いっそ清々しいくらい笑顔の妹は、今この瞬間誰より何よりも私の心を奪っていく。
「ちゃんと、お姉ちゃんの事守りたいから。だから一人になって、お姉ちゃんから離れて、お姉ちゃんの全部を守れる大人になれたら帰ってくる」
「……」
「…だから、帰ってきたら…ちゃんと返事して。この間みたいにお姉ちゃんとしてじゃなくて、『西脇綾香』としての答えが欲しいんよ」
目の前が滲んで霞む。
今のこの感情は、どんな言葉にもならなかった。


目の前に存在する妹をちゃんと見てあげたいけど、涙で滲んでそれすら叶わない。
ぼんやりとした視界に映るのは、冷えた指先。
「もう…そうやって泣くけぇ、いつまで経ってもお姉ちゃんから離れられんくなるんよ…」
「っく……だって、だって…」
こんなに優しい指先で涙を拭うから、この手を拒む事が出来ない。
「…ちゃんと帰ってくるよ、お姉ちゃんの所に。何年かかるか分からんけど、絶対帰ってくるけぇ待ってて」
「ちゃあぽん…」
真っ直ぐ前だけを見ている妹に、私は誰にも負けない何かを知った。

この子がこうして常識も何もかもを飛び越えて私を好きでいてくれるなら、もう何も怖くないという事。
私はこの子が、ただひたすらに愛おしいんだという事。

だから私も真っ直ぐに前だけを見つめる。
「…ずっと待ってる」
きっと誰にも許される事のない私達と約束を、夕闇だけが優しく包んでいった気がした。


END






最終更新:2008年10月17日 16:59