金曜日の放課後。
ゆかはある人物を捜していた。

「あ…」
大きな樹が青々とした葉をいっぱいに広げてるその根本。
そよそよと優しい風が吹いていて気持ちのいいその場所に、あたしの捜し人は居た。
「のーっち」
目を閉じてごろんと手足を投げ出して寝ている…ように見える。
(…ゆかにバレとらんとでも思っとるん?瞼が微かに震えとるよ)
吹き出しそうになるのを堪えて、そっとのっちに近づく。
耳に向かって息を吹き掛けると、うひぇ!?なんて素っ頓狂な声を上げてのっちが跳び起きた。
「な、なな、なんしよるん!?」
「あははは…『うひぇ!?』って無いわー」
「…ひどいよゆかちゃん」
あ、眉が八の字になった。

わしゃわしゃと髪の毛を整えてるのっちの隣に腰かける。
吹き抜ける風はどこまでも爽やか。うーん、気持ちいい。
「…そういえばなんでジャージで居るん」
「さっきまで学園祭の準備しとったんよ。それに着替えんのめんどくさいし」
のっちはうーんと伸びをしてそう言った。
…めんどくさいって、あんた女の子じゃろ。なんて最近はいちいちツッこむのも疲れてきたからしなくなった。
ゆかにものっちのめんどくさがり癖が移ったかもしれない。


ごろりと寝転がってみると、なんとも気持ちいい風が頬を掠めていく。
「…ゆかちゃん」
のっちの指の背が頬を撫でる感触。
気持ち良くて思わず目を閉じたら、瞼にキスされた。
「…のっち」
「ん?」
「こんなとこでなんしよるん…」
「ごめん。でも我慢できんかった」
へらって笑ってもう一度ゆかにキスしようとするから、ぺちんとおでこを叩いた。
「いたっ」
「人に見られるけぇやめて」
「えぇー…」
また八の字眉になっとるよ。
しょんぼりした姿はオアズケくらった犬みたいでおかしい。
「…ゆかもさっき生徒会終わったけぇもう帰れるんよ」
「え…?」
「じゃけぇ、ちゅーするんなら家帰ってからにして」
しょうがないから、準備頑張ったご褒美ってことで。
途端にぱあぁって嬉しそうな顔になるのっち。ちぎれんばかりに振ってる尻尾が見えた気がした。
「は、はよ帰ろ!ほらほら起きてゆかちゃん!」
「え、ちょっ…のっち!?」
こういう時だけキビキビ動けるんはおかしいじゃろ、まったく。

でも、今日はなんだか気分がいいから大人しく付き合ってあげようかな。


END






最終更新:2008年10月17日 17:33