たまには
とある夜に来た突然のメール。
「今からうち来ん?」
久しぶりにあの薬の臭いをかぐのもいいかもしれない。
そう思って家を出た。
お母さんに「こんな時間にどこいくん?」って聞かれたけど
「のっちんち。」って言ったら「遅くなるなら電話しなさい」だって。
女の子同士ってこういうとき便利だね。
目的の部屋の前につく。
インターホンを押しても出ないから鍵を挿そうとしたら扉が開いた。不用心だなあ。
「のっち…?おるんよね?」
驚くほど静かでちょっと戸惑う。
まさか何かドッキリ?でもなんのために?
そんなことを思いながら廊下を渡ってリビングに入るとのっちが倒れていた。
「ちょっと、のっち…!」
駆け寄ろうとすると足元でカツンと軽い音。空き缶がいくつか落ちている。
…これって
「ふぁあ…あ!ゆかひゃんー!」
むくり、のっちが起き上がった。
寝起きとアルコールで声がふにゃふにゃだ。
「むぁいすぃ〜とはにー!」
「あほ!」
「ヘグゥっ」
いきなり飛び交かかる体、その脇腹に軽く一発。
「…このいっぷぁつ、ひしゃしぶりにガツンときらよ!
やっひぁりしぇかいをしゅべるのはゆかひゃんらねぇ〜愛してるよぉお!」
そういってまた抱きつこうとする。あ、面倒だからもーいいか。
背中に触れる指先が熱い。
「てかのっちお酒臭い。」
「オトナれすからね!えへへ。
ゆかひゃんはいつもいいにおいらよねー…。」
鼻を首筋にピッタリ寄せる。
くんくん匂いを嗅ぐ姿が犬を連想させる。
そんな仕草の可愛さと少しのくすぐったさに気をとられていたから
表情の変化に気づかなかった。
「うゃ…どこ触っとるんよ!」
のっちの手が太ももをなでる。
真っ赤な顔に目をやると瞳がうるんでいて明らかにする態勢に入ってる。
…なんなんよそれ。
あまりにもあんまりでちょっとムカつくから頬をつねる。
「あぃだだだ…いーじゃん。」
「急に呼び出したかと思えばこれが目的なん…?」
「らめぇ?」
「酔った勢いなんてヤダ。」
「よっふぁらいにもわかるミリョク…しゅばらしい!」
「ばか。」
「ぶぁかにしてんのかこらぁ!」
ダメだ。アルコールに欲が加わってのっちの思考回路がねじねじに捻れてる。
「きゃ…!」
強い力でソファに倒される。のっちの熱い息が顔にかかる。
お酒の臭いで頭がくらくらしそう。
「…も、やめっ!」
「やだ…とまらん。」
「んゃっ…!」
たまに現れる強引で頑固なのっち。
でも普段のそれはいつもちゃんとした流れがあってのことで、暗黙の了解みたいな空気がある。
なのに今日は、ほんと突然。
なんか、様子、変だよ。
「なんか、あったん?」
「…べっつにー。」
あ、テンション下がってる。
「あったんじゃろ?」
「…。」
強引だった手から力が抜けて、あからさまに顔がしょんぼりしてる。
目は泳ぐし分かりやすい子じゃね。
「どーしたんよ。」
「なんもないもん。」
のっちには男の子みたいなところがある。
いっつも見栄張って、弱い自分を隠そうとするところもそのひとつ。
くだらないことならあ〜ちゃんと笑い飛ばすからいいけど
シビアなことまでそうされるのってちょっと寂しい。
目の前でそんな顔されたら、ほっとけんよ。
「ね、のっち」
「ん?」
軽く体を浮かせてキスをする。
「なんかあったんなら教えてよ…?」
「…。」
「ゆかじゃ頼りない?」
「うぅっえっ…。」
首に手を回して抱きしめると急にのっちが泣き出した。
正直泣いた人の相手をするのは苦手。どうしたらいいかわからんもん。
でものっちのこういう顔を見るのは新鮮でちょっと嬉しい。
やっと見えたキミの隙間、もっと教えてくれていいんだよ
のっちの体温が気持ちいい。人よりちょっとあったかくて子どもみたい。
泣き止むまでずっとこのままでいてあげる。
たまにはこういうのも、悪くない。
気がつくとのっちはすやすやと寝息を立てていた。
体勢が体勢だから、動くに動けない…。
首下ののっちの腕がちょっと…たまにはこういうのも、仕方ない…。
「ふぁ〜…あっゆかちゃ!うわ、ごめん…。」
「いいよ。いいよ。」
結局うとうと浅い眠りと目覚めを繰り返して夜は過ぎた。
「でものっちが寝とる間ずっとこの体勢だったんじゃろ?…ほんまごめん。
しかもむっちゃ泣いたし。ゆかちゃん服が涙と鼻水でベタベタ…。」
恥ずかしがるのっちの顔は涙の跡とかでぐちゃぐちゃ、でもそんなとこもちょっとかわいいと思う。
もっとこういうのっち見たいなー、なんて。
「反省しとる?」
「はい…。」
「…言葉だけじゃ足りんよね。」
「何がおのぞ…」
起き上がってのっちを押し倒す。
「朝からだけど、いいよね?」
「…や、いゃ、それは…」
「服、“のっちの”涙と鼻水でベタベタじゃけついでに洗わせてもらうね」
にっこり微笑んで言葉を遮る。抵抗なんて許さんよ。
「うぐう…あ、きっとお母さんとか心配しとるよ!」
「そういえば夜中何度も何度もバイブなっとったわ。
連絡しなさいって言われてたのに…たぶん叱られるんだろうなぁ〜“誰かさん”のせいで」
「むぅう…て、ぁ…ゆかちゃ…どこ触って…。」
途中から声が甘みを帯びる。
「ちょっと触っただけなのにのっちって敏感じゃね。」
たぶんあたし凄く意地悪な顔になってる。
だって楽しいんだもん。
「っ…ぃじわるっ。」
「のっちがかわいいから悪いんよ。」
「ん…それって…、誉め言葉なん?…恥ずかしぃ…あっ。」
「恥ずかしいかもしれんけどたまにはこういうのも、悪くないでしょ?」
返事を聞く前に口を塞いだ。
おわり
最終更新:2008年10月17日 18:06