アットウィキロゴ
その日も、あ~ちゃんは落ち込んでいた。
先月ひいた風邪がぐすぐず長引いて、全く、声がでない。
放課後になっても、まだ喉が熱を持っているようで、
深呼吸するのも苦しい。
(・・。はぁぁ。今日も歌うのは無理じゃね。
    • ゆかちゃんに、レッスン休みますってメールしとかにゃぁね。。)
ハミングすらできないなんて。
しょんぼりと帰り支度をしながら、ひとりぼっちの教室でメールを打つ。

ふと、背中に感じる視線。
教室の扉の端っこから、のっちがあたしを見つめてる。
いつもの八の字。
何か伝えたいのか、気遣わしげにそわそわして。
不意に振り向くと、あわてて頭を引っ込める(でも半分見えてる)。
隙だらけの挙動不審。
ごまかすのが、下手過ぎる!
(・・・。はぁ。ほんまに、困ったさんじゃ。)

ここ数日、風邪がうつるからという理由で
のっち近づくな指令(但し、必要な時以外)を出している。
それなのにのっちときたら
どうでもいい用事を見つけてきては、
すぐそばに来てしまう。
扉の向こうで散々迷った末に(多分)、ひょっこり頭をだした。
意を決して、とことこ歩いてくる。
ほら、今日もまた。



(もうっ!ほんまにほんまに、だめな子じゃ!!)

    • あのね、のっち?
あ~ちゃんは、のっちの歌声が大~好きなんよ。
歌えなくてつらい思い、のっちにさせなくないんよ。
だから、風邪なおるまでおとなしくしとってよ。
    • って、ひそかな思いもむなしく。

(っで、今日はなんね!?)
声が出ないので、キッとのっちをにらみつける。
ひるんだへっぴり腰のまま、おそるおそる話し掛けてくる。
「・・ぐ、具合どう?
あ、あのね、これね、お母さんに送ってもらったけぇ。
風邪によくきく・・らしいんよ。飲んで!」
こうして毎日渡される怪しい?健康グッズ。
むしろ、どんどん悪くなっとるみたいなんじゃけど!!
また無言で受け取って、そのままカバンにしまう。
「・・。ま、だ、声上手くでないんじゃね。」
(そうじゃけど、だからなんね!?)
つい、きつい目のまま見返してしまう。
また、八の字。
「ね、今日はゆっくり休むんよ。寝てるの暇なら、
のっちの(大事な)PSPかしちゃげるし。」
(たいがい、気持ちだけで結構じゃけ、早ぅレッスンにいきんさいよ!)
と、目力でうったえてみる。



たちまち、のっちの頬がぽっと赤くなる。
(なんでそこで赤ぅなるんじゃ!)
「そっか、あ~ちゃんはゲームせんかったよね。
じゃあ、のっちイチオシのBLEACH14巻、かしちゃげるねっ!」
得意げにカバンをがさごそしよる。
14巻だけ読ませてどうするよ?
あぁ~、頭がくらくらしてきた。
「あとねぇ~、これはさっき、ゆかちゃんに、もらったんじゃけども・・」
のっちの赤い頬を見つめて、ぼんやりする。
はぁ、、もうダメかも。

「あれ、ない、ない?!」
のっちが、おろおろとうろたえとる。
「あっれぇ、なんでぇ、おっかしいなぁ。。。」
ほんとうに、だんだん、目の前が、ぼんやり、してきた。
のっちが、もじもじしながら、何か、ささやいた。
「・・、だから・・、あ~ちゃん、いい?」


突然、唇に、微熱。
心臓がどくんってなる。
なんだか、ふわふわ、やわらかくって
やさしい、甘い香りが
あたしをつつむ。
あったかくって、目が眩むよ。
口のナカに、甘酸っぱいオレンジが、弾けたみたいなの。。
コロンと溶けてく・・。
酸っぱい気持ち・・。
    • んっ?
この、まるいモノはなんダ??
目を開けると、真っ赤なのっちが恥ずかしそうに俯いた。
「それ、のっちの食べかけじゃけども、なんでか一個しか見つからなかったけえ。。」


「あ~ちゃん??」
「のっ、のっちのばか!!急にこんなっ・・」

「ほぇ~?・・あっ、あ~ちゃんっ、声でとるよぉ?」
「・・あ」
「よかったぁ、あ~ちゃん!」
のっちが、うれしそうに抱きついてきた。
また、とくとくと心臓の音がする。
「ほんまによかったぁ、声がでて!
あ~ちゃんは、歌、だぁい好きじゃもんね。歌えなくてつらかったじゃろ?よかったねぇ!」




(のっち、のばかぁ・・。)
涙が出そうなのは、
熱があるのと
ドロップがすっぱいせい、なんじゃからね。
胸が苦しいのも、
風邪のせいじゃもんね。
のっちのキスにくらくらなんて、
    • 絶対、しないんよ。
「あ~ちゃん、まだ熱があるみたいじゃね。
のっち、送ってあげようか?。」
なんでそんな子犬みたいに下から覗きこむん?
ダメだ、もう抵抗できない。
戸惑いながら、ちょっぴりのっちのほうに、手を伸ばす。
のっちは満面の笑みで、あたしの手を握ってきた。
「えへっ!」
(えへって、もうね・・)
      • そうだ、あたしの声を戻してくれた王子様に、ご褒美あげなくちゃ。
風邪が治ったら、一緒に歌ってあげるからね。


「ふぅ。まったく、手のかかるベイビーたちじゃねぇ。」
のっちのカバンからくすねたドロップ。
ゆかのお気に入り、チョコミントを一粒放り込んで、
手をつないで歩く二人をながめる。
のっちの目、宝石みたいにきらきらしとるね。
ゆか、そんな表情が見たかったんよ。
嬉しくて、瞳の奥がつんとする。
のどがきゅってしめつけられてるみたい
(・・?このミント、えらい辛口じゃね。)
かしゆかはちょっぴり眉をひそめて、二人をながめる。
そう、策士が自分の気持ちに気が付くのは、
まだ、もう少し、先の話。






最終更新:2008年10月10日 03:08