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大学の最寄り駅から数駅移動して、ある和食のお店に入った。
隠れ屋っぽいとこで、雑誌で紹介されていて気になってたんだよね。
それにここからだと、今日の仕事場も近いし。

お昼時。
混んでるかな、と思ったけれど、意外と早く席に落ち着けた。
向かい合って座る。
隣の席とも程よく距離が保たれており、
自然と二人だけの世界に。

二人とも昨日のことなど
何もなかったように
他愛もない会話で盛り上がる。

ゆかちゃんの甘い声。やわらかな笑顔。
全身に染み渡って、いろんな感覚が麻痺していく。
とても心地よい。
手放せない快楽。
中毒症状、だ。

ふと、さっきまで繋いでいた
手の暖かさが蘇る。
あぁ・・
もっともっと
触れたい。

デザートも食べ終わって
ひと段落したころ、思い切って切り出した。

「ゆかちゃん。今日よかったら、仕事終わったらうちに来ない?」

ゆかちゃんの表情が一瞬止まる。そして

「・・ごめん、今日はムリじゃ・・・」

あぁ、、、昨日に引き続き、今日もタイミングが悪い。
ゆかちゃんが、理由を言わずに“予定あり”と言うときの
理由は一つだ。

今日はデートなんだ・・・

「そっか。仕方ないね。また次にしようか」

そう返すので精一杯だった。

ゆかちゃんは、ただ俯いて
黙り込んでしまった。

せっかく楽しい雰囲気だったのに。
大好きな笑顔を曇らせちゃった・・・
これじゃ、だめだ!

「なぁに、落ち込んでるん。今日ダメだからって、大袈裟じゃろ〜
 いつでも来れるじゃんか、のっちとこくらい。
部屋が汚いのは我慢してもらわにゃいかんけどw」


ちゃんと笑えてるだろうか?


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あぁ、ムリして笑って・・
眉がハの字になっとるよ。
のっちは、困ってなくても
八の字眉になるけど・・
どっちの“ハ”かわからないほど
ゆかは鈍感じゃない。

「いつでもおいでっていうなら、少しは掃除しんさいよw」
「あ、ちょっとトイレに言ってくるね」

それだけ言って、あたしは席を外した。


化粧室の鏡の前。
ゆかも、のっちに負けず劣らず、情けない表情をしてる。
あぁ、気を使わせちゃったな。
同じ断るにしても、もっと別の言い方があったじゃろ・・
のっちから、誘ってくれるなんてめったにないのに。

はぁ・・
ため息しかでてこない。

ふいにドアが開く。
鏡越しに目が合ったのは
のっちだった。

振り返り
あ、のっちも—
と話しかけると同時に
グッと引き寄せられ
そっと唇にやわらかな感触。
触れるか触れないかわからないような口づけ。
そして、口付けとは対照的に
痛いほど強く抱きしめられた。


あまりに突然のことに
ゆかの思考回路は停止。

ただただ
のっちに抱きしめられるだけだった。


<side n>

ゆかちゃんが席を外したので、一人になった。

あぁ、なにやってんだろ?

ココロと行動がチグハグだ。

目を閉じ、大きなため息をつく。
ゆくっりと目を開けると
目の前の窓から差し込む光に目がくらんだ。

その瞬間、なにかがはずれた。

考えるよりも
思うよりも先に
身体が動く。

自分でもわけがわからない。

気がつけば、
ゆかちゃんを
強く強く抱きしめていた。
ほんと、そのまま壊してしまうんじゃないかってくらい
強く強く。



ごめん。なんだかこみ上げてくる衝動を抑え切れなくて。
突然で驚いてるよね。わけわかんないよね。
でもどうしても、どうしても・・
ちゃんとここにいるんだって、確認したかったんだ。
触れることで
ゆかちゃんのこと
自分のこと
お互いの存在を。
確かに、いることを。


頭の中で
浮かんでは消えていく言葉たち。

結局、ただ黙って
抱きしめるしかできなかった。


誰かが近づいてくる足音で
ふと我にかえる。
その誰かが、ドアを開けた瞬間
そっと
ゆかちゃんから離れた。


その後、何事もなかったかのように
店を出て、仕事場に向かった。


さっきまで気にならなかった
雑踏の音や
蝉の鳴き声が
やたらと耳につく。

なんでもいいから
このやりきれなさを
かき消してくれたらいいのに。

そう
心の中で呟いた。






最終更新:2008年10月17日 18:57