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「忘れて。」

のっちはそういうと、キスを深くした。部屋の壁に私の体を押しつけると、唇をこじあけて、乱暴な舌が入り込んでくる。
私は息も出来ないまま、ただ、のっちの背中にぎゅっと手を回す。
それに応えるかのように、いっそう深くなるのっちのキス。
息もつかせないキスに、私の頭はぽーっとして、どんどんのっちのことしか考えられなくなる。
のっち、のっち。
言葉で言うかわりに、おずおずと私も舌を絡ませる。
すると、のっちが弾かれたように今まで閉じていた目を見開いた。

「そんなん反則じゃ。ごめん、あーちゃん、もう本当に手加減できんけぇ。」

するりとのっちの手がパジャマの下に潜り込んでくる。
少し冷たいのっちの手。
それとは対称的に熱いのっちの唇が私の首筋を這いはじめる。
その感触と、時折もれる水音に体がぞくぞくする。

その時、一瞬ゆかちゃんのことが過った。
きっと私とのっちが変なことになったら絶対ゆかちゃんにばれる。
私が今まで一生懸命守ろうとしてたものが、崩れる。


「っあ…。」

不意に強い衝撃に襲われて思わず声がもれる。
いつのまにかパジャマのボタンは全て外されていて、のっちが胸の先端に歯をたてたまま上目遣いで私を見ていた。

「ねえ、今はのっちのことだけ考えてて。」

「のっち…。」

ごめんね、ゆかちゃん。
私、この目には逆らえんのよ。
今まで強気だったくせに、すっかり八の字にさがってる眉。
そのすべてが愛しくて思わず自分から唇を重ねた。
たったそれだけのことなのに、のっちの肩が大げさに揺れる。

「何をそんなにびっくりしとるん?」

「…別に。」

「別にじゃないじゃろ。でも。」

もう一度自分からのっちにキス。

「ねえ、忘れていいんだったら、物凄いことして。」

のっちの耳元で囁く。

「最悪じゃ。」

のっちは顔を真っ赤にして、ゆっくり私をベッドに押し倒した。


目が覚めたときには、もうのっちはいなかった。
いつの間に出ていってしまったのだろう。今朝方、寝呆けて横を確認したときは、確かにまだ眠っていたのに。
のっちが寝ていたあたりにそっと手をやる。
随分前に出ていってしまったのか、やけにひんやりとしたシーツの感触が手に残った。

「のっちの、ばか。」

一人で呟いた言葉は誰にも聞かれないまま宙に消えていく。
忘れるなんて出来るわけない。
その証拠に、私の体のいたるところにのっちのつけた跡が残ってる。

「しかも見えないからって、つけすぎなんよ…。」

最後の方は言葉にならなかった。
涙が溢れて溢れて仕方なかった。
ねえ、やっぱり忘れられないよ。だって、やっと想いが届いたのに。
私のなかは、こんなにのっちで一杯なのに。


そのあと私はのっちに一通だけメールを送った。


ー起きたときに、隣にいてほしかった。

それに対するのっちからの返事は当然のようになかった。
きっと忘れるってそういうことなんだ。


㈭(side A) END






最終更新:2008年10月17日 18:59