好きだから、わかることもある。
のっちにはきっと選べない。選ぼうともしないだろう。
…日当たりの良くないこの部屋は、朝だっていうのにやっぱり暗い。
ぼんやりと見つめる先には、鼻を鳴らして布団にくるまった人。
よく眠ってる。
いつ頃からだろう。
目の前で輝く光に憧れながらも、
同じようには生きられないことに息は苦しくなって。
意志とは無関係に変わっていく環境の中で、
理由のない焦燥や不安に怯えるようになっていた。
きっかけは些細なことだった。どちらからかなんて覚えていない。
どうしようもない自分を。息が切れてしまった現実を。
どこにも出さない約束のかわりに、
私たちはいつしかそれを埋め合うようになっていた。
同じ罪を背負うようになり、同じ後ろめたさを共有して。
それでもこの部屋にいると、太陽のまぶしさから隠れられているようで安心した。
もしかしたら、自分らしく生きることなんて何の意味も持たないと勝手に決めて、
ここでだけは自分でいられると互いに思い込んでいたのかもしれないね。
カーテンからかすかに漏れる光が、この部屋に色を与えていく。
それにすこしほっとしてしまうんだ。
光の眩しさに目がくらんでしまうくせに、完全な闇を受け入れることもできない。
本当は、二人ともよくわかってた。
射しこむ光がないことには、耐えられないということも。
いつかは、こんな日が来るってことにも。
抱きしめてくれるその腕が、自分だけのものじゃないことぐらい知ってた。
それを自分のものにしようとも思ってなかった。
だから私は、
のっちが自分を持て余しながらそれでもあの子を宝物のように大事に思うことも、
別につらくはなかった。
それでもこんな日は来てしまう。
こんなこと、いつまでも続けていいわけがない。
「のっち」
「んー…」
「朝だよ、起きて」
「うー…」
私から終わらせないといけない。
眠い目をこすりながら、赤ちゃんみたいに折りたたんだ体を起こしていく。
うーんとかなんとかいいながら。伸びていくしなやかな体。
その様子はあまりにいとしいね。
少し視界が滲んでしまうぐらいなんだよ。
「おはよ…」
いつもみたいに私を抱きしめて、頭をなでてくれる。
後悔しなくていいんだよって。
また別の朝には、ごめんねって。
聞こえてくる心の声はそのときで違うけど、気持ちが伝わってくる。
そのどれもが本当でやさしくてあたたかいから。
私はいつまでも離れられないでいるんだと思う。
「…なんか、いつもとちがう」
「どしたの?」
「…ちゃんと、しなきゃなって」
一言だけそう言ってみる。それだけできっと伝わる。
その証拠に、なかなか腕をゆるめようとはしてくれない。
平気な顔でかなり無理してたことも、本当は知ってた。
私の中でのびのびとしながら、どこかで彼女のことを思っては、
胸を痛めていたことも。
それはとても自然なことだよ。
ね。だから、そんな顔しなくていいよ。
最初は私に触れようとしなかったこと。
一晩中手を握っていてくれた夜のこと。
初めて抱きしめられて、浮気だねって笑い合ったこと。
私のために泣いてくれたこと。
今だけ、いろんなことを思い出して。
でもちゃんとすぐに忘れてしまうんだよ。
もうすぐだね。
この手をほどけば、友達に戻る。
たったそれだけのことなんだよ。
ね。
だから、そんな顔なんかしなくていいんだよ。
「ん…」
抱きしめるというよりは抱きつくように体重をかけてくる。
何を考えてるんだろう。
「のっち」
「…」
「のっちってば」
のっちは返事をしようとしない。
首の辺りに触れる部分があったかくて、泣きそうになる。
「…くしゅん」
くしゅん?
そういえば…あったかい、というよりは熱いかんじ?
思わず肩をつかんで顔をのぞきこもうとすると、
自分の体重を支えられなくなったのっちがベッドに倒れこんだ。
「あんた熱あるん!?」
「わからん…」
「わからんて、しんどいの?」
「うーん…しんどい」
これは、この人なりの甘え方なんだろうか。
なかなかうまくはいかないね。こんなときに限って。
こんなときまでさ。だから、ほっとけないんだね。
目を閉じて苦しそうな顔をしながら腕を伸ばしてくる。
「…でものっちは、ゆかちゃんにおってほしいよ」
いいこともわるいことも。
黙って飲み込んでくれた、恋人未満の親友に。
こみあげてくるいとしい気持ちに抗えない。
あやすように熱いおでこを触りながら、大きく息を吐く。
自分でも、ため息の最後の部分が少し笑っていることに気づいてしまう。
…どんなにもがいても、
抱きしめられたその腕からは逃れられないのかな。
それとも、あともうすこしだけなら、
一緒にいてもいいってことなのかな。
(おわり)
最終更新:2008年10月27日 16:22