◇K-side◇
その後、のっちは全部を話してくれた。
春に、ゆかと同じ日にあ〜ちゃんからも告白されて付き合ってた事…あ〜ちゃんにも同じ様に隠し続けて来た事…あ〜ちゃんとも、最後までシた事…。
その他にも、全部、全部。
凄くショックなのに、なぜか涙は出てこなかった。のっちがひたすら泣いて謝るせいで、泣きたくても涙が出ないよ。
「あ〜ちゃんとも…シたんだ…」
「ごめん…ごめんね…」
あの優しい目で、少し意地悪な指先で、柔らかい唇で…。あの甘い声で、愛してるって、あ〜ちゃんにも言ったんだ…。
「でも…ゆかに言ってくれた事…全部嘘では無いよね?信じても…良いんだよね…?」
「本当に愛してるのは…嘘じゃない…」
こんな弱々しいのっちを見るのは初めてだった。涙で顔がグシャグシャで、目が真っ赤になって、体を小さく震わせて、声を枯らして…。
ゆかは勘違いしてたのかも。
のっちは心なんて無い、人形か何かと勘違いしてたのかもしれない。
のっちはゆかの理想の恋人だった。情けなくて甘えん坊だけど、いざと言う時は頼りになって優しくて、全てを包んでくれる大きな存在。
ただ、その理想は、ゆかの勝手な妄想だったんだ。
のっちは完璧じゃない。この世に完璧な人間なんて居ないのと同じ様に、のっちは完璧なゆかの理想の恋人ではない。
「ごめんね…のっち」
謝らなくちゃならないのは、ゆかの方。
理想を勝手に押し付けてごめん、勝手に勘違いしてごめん。
君の弱さを初めて知ったよ。悩む事もあるし、悲しいと泣くし、嬉しいと笑う。
そんな事、分かりきっていたはずなのに、ゆかが無理させてたんだね。
「ゆかちゃんは…何も悪くない…悪いのは…のっちの方…」
「自分を責めないで」
傷付いたのっちに、弱ったのっちにしてあげられる事…。
あぁ、ゆかにあ〜ちゃんみたいな力があればな。あの笑顔を見れば悩みなんて全部吹き飛ばせるのに。神様は少し意地悪だ。
「ゆかは…のっちの味方だよ、これからも気持ちは変わらんよ…ずっとずっと、側にいる」
だから、
泣かないで。
あ〜ちゃんの事は、ゆかもなんとかするから。
失いたくないのは、三人一緒。ずっとずっと一緒なんだよ。
「…あ〜ちゃんに…言うよ」
のっちが震える声で呟いた。
「ゆかちゃんとの事、全部話して…ちゃんと謝る…」
そうだね。
守らなきゃ、大事な絆。
◇A-side◇
あれから、のっちとゆかちゃんの姿は見なかった。多分、意識的に避けてたんだ。
帰りのバスの中はクラスの子と一言も喋らず、気が付けば学校に到着していた。
胸が苦しくて、今にも泣き出しそう。
なんでよりによってゆかちゃんなの?あ〜ちゃん達の親友…いや、のっちには親友では無いのかも。ゆかちゃんはのっちの何?
◇
あれから一週間、のっちと一回も連絡を取らなかった。
どうすれば良いのか分からない。これが自然消滅ってヤツなのかな?時間が経てば経つ程、のっちへの想いは強くなった。
その日、一通のメールがのっちから届いた。
『明日、遊園地に行こう』
◇
当日。
「おはよう」
「おはよ」
いつもの笑顔で、のっちは迎えてくれた。
あ〜ちゃんの胸が高鳴る。
この笑顔に恋をした事を思い出す。今、一番欲しかった物。
「遊園地、久しぶりじゃね」
「初デート以来だもんね」
そう言ったのっちの声は震えていた。のっちの異変に気が付いた。
「のっち…痩せた?」
「え、そんな事ないよ」
「嘘だ絶対痩せた」
腰に手を回して確認しようとすると、のっちはバッと体を離した。
…え…?
「あ、ご、ごめん…」
「…ううん」
この時、あ〜ちゃんは悟った。もうあの頃には戻れないんだと。
のっちに拒否されたのは、生まれて初めてだったんだ。
ただ思い出を辿る様なデートに、現在の二人に意味なんて無くて。
繋がれないこの手が虚しくて、ただ暑さに体が泣くだけ。これだけ暑いから涙が出ないんだ。そっか、汗は涙か。
「あ〜ちゃん、ソフトクリーム食べよっか」
多分、今日のっちにフラれる。昨日メールが来た瞬間からそんな気がしてた。
のっちはお別れに何故この場所を選んだのか、それだけは分からない。
「はい」
「ありがとう」
ベンチに座って、ソフトクリームを食べた。冷たくて美味しい。あの日と同じ味だった。
「あ〜ちゃん、クリーム付いてる」
「どこ?」
「ここ」
のっちの指が、唇に近い所をそっと撫でた。
今日初めて、あ〜ちゃんに触れてくれた。
「のっち…」
のっちの指の感触に泣き出しそう。こんなにも愛しい物を、失うなんて嫌だ。
「…あ〜ちゃん」
あぁ、のっちの指が唇を撫でてる。のっちの目が、あ〜ちゃんを見ている。
「のっち…捨てないで」
無意識に飛び出した言葉。
涙が溢れた。
◇End◇
最終更新:2008年10月27日 16:26