明日は久しぶりの地方ロケ。
珍しく前日入りしたホテルの一室で、いつものようにゆかちゃんの部屋にさんにん集まっていた。
のっちはとりあえず部屋に入って来たものの、すぐにそわそわし始めた。
最近のっちは、あたしたちと一緒に居たがらない。それはあたしのせいって、…わかってる。
あたしがゆかちゃんとの関係に不安になっていた時、のっちを振り回して傷つけてしまったから。
その傷がまだ癒されずに、のっちを苦しめている。
落ち込みを必死で隠そうとしてるのっちをただ見ているのは、正直つらい。
…このままじゃいけないって、のっちのことなんとかしなきゃって思っているのに、
どうしていいのかわからなくて、…気が付かないふりを続けることしか、できなかった。
あたしは、最低だ。のっちのことを傷つけておきながら、それでもゆかちゃんのことしか考えられない。
…ほら、今だって。
「のっち、ゲームしたいけぇ、先戻る。」
「えっ、そうなの…?」
「…ま、また明日ねっ!おやすみなさいっ。」
…のっちとさんにんでいるより、ゆかちゃんとふたりっきりになれる方を喜んでしまう。
ほんまに、あたしは、どうかしてる。…このままじゃだめだ。…わかってるのに…。
のっちが消えていった扉を、ゆかちゃんがなぜか黙って見つめている。
しばらくして、決意を固めたようにあたしの両手をぎゅっと握ってきた。
「あ〜ちゃん。…ゆか、あ〜ちゃんにお願いがあるの。」
「え、なぁに?」
「ゆかはもちろんあ〜ちゃんなんだけど、その…」
「うん、何?」
「…時々、のっちのそばにいてあげちゃダメかな?」
「…————え…っ?」
時間が、止まった。
「何を、言ってるの…?」
「…のっちを、これ以上ひとりぼっちにしておきたくないんよ。」
「は…?」
「ゆかのわがまま、聞いてくれんかな…?」
言ってることはわかったけど…も、そんなこと、聞けるわけない。
「ゆかちゃん、…そ、それって、本気で言っとるの?」
「こんなん冗談では言えん。それに、のっちが好きなのはあ〜ちゃんじゃ。ゆかもわかっとる。」
「じゃ、なんで…。」
「あ〜ちゃんはゆかのだから、のっちには絶対渡せんの。でものっちをこれ以上ひとりにしておけん。」
「だ、だからって、ゆかちゃんがのっちのそばにおらんでもええじゃろ?」
「…今ののっちにとって、あ〜ちゃんの代わりになる人なんて誰もおらんよ。多分…ゆか以外には。」
…ゆかちゃんは、知ってる。
あたしがのっちを傷つけて、そのことでのっちがなかなか立ち直れずに、苦しんでいることを。
あたしだって当然、のっちに大変申し訳ないって思ってる。思ってるけど、でも…!
「…それに、のっちはあ〜ちゃんのことが大好きで、あ〜ちゃんがどんなことしたって気持ちは絶対変わらんの。
だけど、あ〜ちゃんをのっちとふたりにはできない。どうしても。この先もずっと。あ〜ちゃんはゆかのだから。
でも、そのことでのっちがひとりぼっちですごく苦しんでて、だから…」
「…ゆかが、そばにいてあげたい。」
無茶苦茶だ…。
…やっとゆかちゃんと、想いが通じ合ったって思ったのに。ようやく分かり合えたと思ったのに。
ゆかちゃんが優しいのは知ってるけど、のっちが苦しんでるのもわかってるけど、
それにしたって、なんでそういう展開になっちゃうの?
なんぼなんでもこればっかりは、あ〜ちゃんの理解の範囲を超えとる。…嫌だ、そんなの許せるわけない!
「絶対いや…。」
「お願いっ、のっちに寂しい思いさせたくないの。あ〜ちゃん、お願いっ…!」
「ゆかちゃんはのっちのことが好きなの?あ〜ちゃんよりもっ!?」
「ゆかはあ〜ちゃんのだよ。でも、…のっちはゆかの、…トクベツだから。」
「そんなん許せるわけないじゃろっ!ゆかちゃんは、ゆかちゃんは…、あ〜ちゃんだけのなのっ!」
完全にアタマにきた!!
怒りにまかせて、ゆかちゃんをベットに押し倒す。そのまま深く口づけて、ゆかちゃんの吐息を全部奪いとる。
パジャマのボタンに手をかけると、慌てて手を押さえられた。
…前に一度、ゆかちゃんに抱かれている時に、
ゆかちゃんに触れたくなって手を伸ばしたら、「…ゆかは、いいから」って拒まれたことがあった。
あの時は、少しさみしくて悲しくなったけど、いつの間にか抱かれるだけの関係に慣れた。
…本当はずっと、ゆかちゃんが欲しかったけど、嫌われるようなことはしたくなかった。
ゆかちゃんが、好きだっだから…。
ゆかちゃんがこういうことされるの好きじゃないの、わかってる。…わかってるけどっ!
「あ〜ちゃんっ??…、ぁっ…!?」
細い両手を押さえつけて、無理やり前をはだけて、あ〜ちゃんのシルシを刻んでいく。
…ゆかちゃんは、あ〜ちゃんだけのもの。絶対誰にも、渡さない。
「…やっ、…あ、…ちゃん…っ…!」
強引にキスを繰り返すと、次第にゆかちゃんの体から力が抜けてきた。
…初めて知った。あたしが「すき」って言うと、ゆかちゃんの体が熱くなること。
耳元で吐息を吹きかけながら囁くと、ゆかちゃんの唇から一層高い声が漏れだす。
初めて聞く甘い声に興奮して、いっぱいいっぱい言葉を重ねてしまう。
そのたびに、ゆかちゃんがほどけて、とろとろに蕩けていく…。
今、ゆかちゃんに、…———溺れてる。もう、止められない。
「ゆかちゃん、すき。…すき…、すき……」
「…あ〜ちゃ…っ、ぁ…、」
唇をふさいで、ゆかちゃんの内側に、触れる。
「っ…んんぅっ…!」
一番深いところに届いたとき、…ゆかちゃんがビクっとカラダを震わせた。
そのまま手を止めて、ゆかちゃんの顔を覗き込む。
(…ごめんね、ゆかちゃん。———あ〜ちゃんは、ゆかちゃんに、してほしいことがあるの。)
ゆかちゃんは動きを止めたあたしに何かを察したようで、不安げに見返してきた。
「…あ〜ちゃ…ん…?」
「ゆかちゃん、あのね…、」
「な、何…?」
「あ〜ちゃんに…、す き って、言って…。」
「えぇっ!!」
ゆかちゃんが動揺してる。戸惑いがちに伏せられた瞳を、無言で見下ろす。
…うん。ゆかちゃんはあ〜ちゃんに「すき」って言うのが苦手だって、知ってる。
でも、今だけはどうしても言って欲しい。
あ〜ちゃんに対する気持ちが嘘じゃないって、伝えてほしいの。
…そうじゃないと、…あ〜ちゃんは…、あ〜ちゃんは…!
ゆかちゃんはかなり長い間迷ってたけど、…しばらくして、か細い声で呟いた。
「……ぃ…。」
「…、もう一回。」
「…すぅ、……キ…。」
「ちゃんと言って。」
「……。……ス……、き、……んんっっ!!」
足りない…。
言って欲しい。
もっと欲しい、ゆかちゃんの何もかもが欲しい。
もう、我慢が出来ない。優しくなんて、できない。
ゆかちゃんは全部全部あ〜ちゃんのだって、そう言って欲しいの!
暴走するあたしの腕の中で、ゆかちゃんがもがいてる。
激しいキスの合間に、ゆかちゃんの溜息と微かな言葉がこぼれる。
「…ぁ〜…ちゃん、、…っ…きぃ…っ、っっ」
ゆかちゃんは真っ赤な顔をして、何度も何度も言おうとしてる。
息継ぎするにも苦しそうに、…でも、伝えなきゃって必死になってる。
…もう、わかってる。唇に、指先に、ゆかちゃんの溢れる想いが届いてる。
「…ぃっ、…———す…きぃっ、」
首筋に這わせていた唇を、指先でそっと止められた。
顔を上げると、ゆかちゃんの潤んだ瞳の中に、あたしだけが映っていた。
「 あ〜ちゃん、…… す き …… 」
———ぁ。 ゆかちゃん、が、目を見て、 す き って、言ってくれた…。
…その瞬間、何か、が壊れる音、が、した。
ゆかちゃんの頬を、大粒の雫がぽたぽたと伝ってる。
あぁ、ゆかちゃん、泣いちゃった…。温かい涙の滴を、空いてる方の手でそっとぬぐっていく。
でも、何度ゆかちゃんの頬をなでても、次々に新しい跡ができてしまう。
なんで…?
……あぁ、…そっか。泣いてるのは、ゆかちゃんじゃなくて、……あ〜ちゃん、だ…。
「っ、あ〜ちゃん…っ!!」
…ゆかちゃん、ごめんね。…あ〜ちゃん、ホントは知ってた。
ゆかちゃんは気持ちを伝えたり、触れられたりすることが苦手なだけで、
あ〜ちゃんのこと、ちゃんと想ってくれてるって。
ゆかちゃんはあ〜ちゃんので、あ〜ちゃんはゆかちゃんのって、ゆかちゃんもずっとそう思ってるって。
その気持ちは嘘じゃない。…そんなこと、わかっていたのに。。。
「…あ〜ちゃ…っ、泣か、ないで…。ぁ…っ、…泣いちゃ、…め…っ。」
ゆかちゃんは両腕であたしの頭を抱きよせると、頬をすりよせて涙をぬぐってくれた。
はぁはぁと落ち着かない呼吸のまま、濡れた唇で、瞼に何度も口づけをしてくれた。
「あ〜…ちゃん…、泣、いちゃ、ダメ…っ …す…きぃ、…す き、…だから…っ」
ゆかちゃんの瞳にも、涙が浮かんでいる。触れあっている全ての場所から、ゆかちゃんの想いが伝わってくる。
…ごめんね、ゆかちゃん。苦手なことをさせて、ほんまにごめんね。
伝えようとした唇からは、別の言葉が、こぼれ落ちてた。
「…ゆかちゃん、愛してる…。」
ふいに、ゆかちゃんの中がきゅうっと狭くなる。
全身をぷるぷる震わせて、切羽詰まったようにしがみついてきた。
ゆかちゃんの短い呼吸音と甘く切ない声が、耳元を掠めていく。。。。
「…ぁ…ちゃんっ…、…ゆ…か、も……」
「ゆかちゃん、愛してる…、愛してる……。」
「…—————〜〜っっ!」
急に、ゆかちゃんの体の力が抜けた。
「……っ、……はー…ぁっ…。」
ぐったりしているゆかちゃんをそっと包み込むと、ゆかちゃんの柔らかい手があたしの頬に触れた。
「あ〜ちゃん…。」
「…ん?」
「…泣いちゃ、…ゃ。」
まだ呼吸も整わないのに、霞んだ瞳であたしを見ようとしている。
「もう、泣いとらん…。」
「…そう、…ょかった。。。」
ゆかちゃんが、ほっとして目を閉じた。その体のあちこちに、赤い花が咲いている。
なぞろうとして触れると、ゆかちゃんがぴくっと反応した。
…あたしは、ゆかちゃんの体を毛布でくるむと、そっと体を離した。
「ゆかちゃん、こういうことされるの嫌だったね…。ごめん。」
「……。」
「ごめんなさい。もう、…しない、から…。」
もっとキスして、もっと頭をなでたかった。…けど、もう何もしないでベットから出ることにした。
体を起こそうとしたら、何かが引っ掛かる感触があった。
ふと下の方を見ると、ゆかちゃんが毛布の隙間から指先を出してあたしの服の裾を掴んでいた。
何かを言い淀んでいるので顔を近づけると、少しかすれた声が聞こえた。
「………もぅ、しないの…?」
「…ぇ。」
ゆかちゃんが俯いたまま、毛布の中でもじもじしてる。
「だって、…嫌だったじゃろ?」
「……あ〜ちゃんに、されるのは、……ぃや、じゃ、…ない…。」
「えっ…。ゆかちゃん、触られるの好きじゃないって…、」
「…だって、…は、…恥、ずかし、かったんよっ…!」
「……。」
「…けど、」
「けど…?」
「今は…そのぅ、……すごく……よかった、し、…———嬉しかった…。」
「ほっ、ほんまにっ?!」
「…ぅん。」
「えっと、…じゃぁ、また…、しても、いいの…?」
耳をわずかに掠めたのは、消え入りそうなほど、小さな…ゆかちゃんの、囁き。
「……次は、優しくしてね。」
思わず強く抱きしめていた。
意地っ張りで恥ずかしがり屋のゆかちゃんが、初めて見せてくれた本当の気持ち。
「ゆかちゃんかわいいっ、…ほんまに、かわいいっ…。」
「っ。。。もぅ…、もぅ…っ、あ〜ちゃん…っ」
ゆかちゃんは耳まで真っ赤にしながら、あたしの胸に顔をうずめて…、甘えてきた。
毛布をほどいて肩を抱き寄せる。前髪や鼻先に優しく触れると、くすぐったそうにはにかんだ。
頬をふにふにとつついてみると、「…あ〜ちゃん…。」って呟いて、キスをせがむように瞳を閉じた。
その唇に指先を当てると、頬をぷくっと膨らませて上目使いで見つめられた。
可愛いおねだりに、胸がきゅんとなる。
甘いキスをしてぎゅうっと抱きしめると、ゆかちゃんの吐息が首の後ろにかかった。
…また…いつもの場所に、熱い体温が、刻まれてる。。。
「…あ〜ちゃん、……ゆかの、あ〜ちゃん……。」
耳をくすぐる甘えた呼び声に、温かい吐息に、…意識が、溶かされそうに、なる。
…ねぇ、ゆかちゃん。
あ〜ちゃんの、ゆかちゃん。
あ〜ちゃんはね、ゆかちゃん。。。
ゆかちゃんと、ずっと、ずっと、こうしていたい…。
ゆかちゃんと、もっと、もっと、一緒にいたい…。
だから…。
こんなにかわいい、あ〜ちゃんの大事な大事なゆかちゃんのお願いなら、
……少しだけ、…聞いて、あげても、いい…。
ゆかちゃんの気持ちはちゃんとわかったから、
ほんの、ちょっとだけ、…———のっちに、ゆかちゃんを、…貸して、あげても、いい。
そうすることで、のっちも、ゆかちゃんも、…ふたりとも、苦しまなくて済むのなら、
…あ〜ちゃんも、…ほんの少し、くらいなら、我慢してもかまわない…。
…———うん。きっと、それで、いい…。
「…ゆかちゃん。」
「なぁに、あ〜ちゃん?」
「………たまになら、…のっちのとこ、…行っていいよ。」
「えっ?」
「あ〜ちゃんも、つらそうなのっちはもう見たくないけぇ。ゆかちゃん、時々のっちのそばにいてあげんさい。」
「…いいの、ほんまにいいのっ?!」
「仕方ないじゃろ。だって、その、…あ〜ちゃん責任感じとるし。…ただし!」
「?」
「ゆかちゃんがのっちのこと大事にするのはいいけど、ゆかちゃんがのっちに甘えるのはダメ。
こんなかわいいゆかちゃんは、あ〜ちゃんだけのものだから。
…ゆかちゃん、あ〜ちゃんの言っとる意味、わかるよね?」
「わかった。ゆか、約束する。……あ〜ちゃん、ありがとう。。。。」
ゆかちゃんをもう一度強く抱きしめて、耳元で囁く。…精一杯強がったのに、語尾が少し震えてしまった。
「ゆかちゃんは、いつだってあ〜ちゃんのじゃけぇ。…忘れんといて。」
「忘れるわけ、ないじゃろっ!…もうっ」
ゆかちゃんの瞳に、みるみる涙が溢れてくる。
…さっきからそう。困ったことに、あたしが泣きベソをかくと、ゆかちゃんが先に泣きだしてしまう。
「こらっ。あ〜ちゃんは、泣いちゃダメなのッ!」
「…あ〜ちゃん、泣いとらんよ。泣いとるのは、ゆかちゃんの方じゃろ?」
「だって、あ〜ちゃんを泣かせると、…ゆか、あ〜ちゃんをのっちに渡さないといけないの。そんなの嫌。」
「何言っとるの?あ〜ちゃんは、ゆかちゃんのじゃろ。」
「ほうじゃけど、、、ゆか、のっちと、そういう約束しとるから…。」
「ぇえっ!?」
いつの間にそんな約束を…っていうか、なんで勝手にそんな約束しとるの!
でも、あ〜ちゃんが泣いとったところで、そんなんのっちにいわなきゃバレないのに…。
ゆかちゃんって、ヘンなとこだけ律儀だ。
言っとることもやっとることもこんなにでたらめなのに、約束したことは、必ず守る。
…ほんま、不思議な人。
「あ〜ちゃん…?」
…でもね。
さっき、ゆかちゃん、『 約束する 』って言ったから。
あたしはゆかちゃんにきゅっと抱きついて、想いをこめてキスをした。
…———あ〜ちゃんも、ゆかちゃんを、『 信じてる 』…って……。
「…あ〜ちゃん。…ゆか、ね…、」
「なぁに?」
「ゆかはね、いつでも、どんなときも、…ずっとずっと、…あ〜ちゃんのなの。」
「…ぅん。」
「のっちにも、ちゃんと言うから。…だから、あ〜ちゃんも、」
「……?」
「ひとりの時も、誰かと一緒におる時も、…ずーっとずーっと、ゆかのでいて…。」
「うんっ!」
「あ〜ちゃん———…」
ゆかちゃんはくるっと体を入れ替えて、あたしの上に覆いかぶさってきた。
涙に反射して星明かりをたくさん宿したゆかちゃんの瞳、いたずらっ子みたいにキラキラしてる。
熱を帯びた肌をぴったりと重ねて片手をつなぐ、…そう、これは、いつものゆかちゃん。
だけど、この時のゆかちゃんのキスはなぜかいつもより甘くて、肌をなでていく手も優しくて、
ゆかちゃんを今までよりずっと近くに感じて、…とても、気持ちがよかった。
熱い唇と指先でたっぷり満たされた後、二人でぎゅっと抱きあって、…甘い眠りに、溶けていった…。
㈬ふたり おしまい
最終更新:2008年11月04日 14:29