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高校生活最後の冬。あと1ヶ月とちょっとでクリスマスがやってくる。
もちろん恋人なんていないから、今年も心は冷たく一人きりで過ごす予定だ。
いいもん、あたしにはソニーがついてるから。いいもん、ずっと敵を切り倒していくから。
一応好きな人はいる。だけど、その相手は小学校からの親友の内の一人で、しかも競争率の高い小悪魔ちゃんというのだから手に負えない。

(あたしももっと楽な恋愛すればいいのにねぇ…)

放課後の寂しげな教室の一番後ろの席で物思いにふけっていると、ドアが開く音がした。

「あんた、やっと起きたん?」

腕組みをして少し怒った表情の親友。あ、もう片方の。
柔らかくウェーブのかかった髪を優しく流しながら、あたしの目の前までズンズンと歩いてくる。

「なーんだ、あ〜ちゃんかぁ」

ちゃかすように言って、ふいっと窓の外へ目を向ける。
いつの間にか空は真っ赤に染まっていて、枯れた景色に色を付けていた。

「…相変わらず、冗談言うときは棒読みじゃねぇ」

教室をあ〜ちゃんの優しい声が包んだ。ストーブで暖まった空間が、もっと安心できる世界に変わる。


(でも、なんか…足りないんだよなぁ)

こうやってあ〜ちゃんと落ち着いていられるのも好きだけど。
やっぱりどこか物足りない。例えるならば、結婚生活15年目の夫婦みたいな?意味わかんないね。

「はい、これ渡しに来たんよ」

パサッと机に置かれたのは、さっきの時間のプリントだった。よく見ると全部の問題が解かれている。

「月曜日の授業でのっち指名されてるけぇ、どうせ寝とって知らんじゃろ」

だからやっといたよ、って微笑む天使。
寝てたのっちが悪いのに、流石わかってるねぇ。

「わっ!ありがと、あ〜ちゃんは流石じゃ!女神さまみたいじゃ!」

あ〜ちゃんの手を取って、お礼を言う。
ギュッとあったかい手を握ると、あ〜ちゃんの顔が空の色みたいに赤くなった。

「べ、別にこれくらいっ…いつものことよ!」

「じゃあ、あ〜ちゃん用事が済んだけぇ、先に帰るっ」

バッと立ち上がって赤い頬のまま、勢いよく廊下へ飛び出していってしまった。
家近いから一緒に帰ればいいのに…。ちょっと寂しい気持ちになった。


仕方ないからあたしも帰ろ。早くゲームの続きやらなきゃ。
明日も明後日も休みだから、ステージ進めるぞー!

机の横に掛けてあるスクールバッグに、あ〜ちゃんから借りたありがたいプリントを入れて帰る支度をする。
立ち上がってマフラーを着けて、今まで一生懸命働いていたストーブを消す。
ドアの近くに立つと、いよいよ寒さがビシビシと体をいたぶっている。

「帰りたくねー…」

(絶対、外風強い…!)

暖かかった教室に別れを告げて、静かな廊下を歩く。手袋を忘れたから、手はポケットの中に。
ポケットの中で手に力をギュッと込めた瞬間、パタパタと後ろから走ってくる音がした。

「のーんー!のっちー!」

あたしの事を『のん』なんて呼ぶのは一人しかいなくて、大好きなそのか細い声に後ろを振り返った。

「もう帰るとこ?」

あたしの隣に追いついて、白い息を吐きながら聞いてくる。上目遣いなんて反則だよね。
情けないことにドキドキしっぱなしのあたしは、頷くことしかできない。

「良かったぁ、ゆかも今から帰るけぇ!一緒に帰らん?」

「も、もちろん!!」

「そんなとこで噛まんでいいじゃろ」


半ば呆れながら笑うゆかちゃんがすごく可愛い。
いや、何しとっても可愛いけどさ。

「寒いねー、もう冬よ」

「うん、のっち手袋忘れてしもた」

「そりゃ寒いわ!ゆかの手袋貸したげる!」

スッと差し出された1組の手袋。…なんて優しいゆかちゃん。また惚れたよ!
でも、あたしがここで手袋を借りたらゆかちゃんの手が冷えてしまう。

(あ…良いこと思いついた)

(でも、実行したらただの変態さんじゃ)

(………言うだけ言ってみよ)

心の中の悪魔があたしのスケベ心をくすぐった。

「あ、あのさ…!ゆかちゃん!」

「なしたん?」

「あたし右手だけ借りるけぇ、左手はゆかちゃんが着けて…」

「?片っぽだけでえぇの?」

キョトンとした目であたしを見つめてくるゆかちゃん。確かに、急に言われたらキョトンとするわ…。ごめんね。

「ゆかちゃんが良いなら、手袋ない手は…繋いで帰らん?」

言っちゃったよ。
どさくさにまぎれて、すでに握ったゆかちゃんの右手。あたしの左手は自然と力が入る。

(ち、沈黙が痛い…)

「……えぇよ」

「へ?」


俯いてるゆかちゃんの耳が赤い。
月曜日は手袋のお礼に耳当てを持ってきてあげよう。

「のっちってこんなに積極的だったっけ…?」

「ん?なんか言った?」

「なんも言っとらん!」

さっきのあ〜ちゃんみたいに空と同じ色に染まったゆかちゃんの頬をジッと見つめると、左手がキュッと握られた。
緩む口元がバレないようにマフラーで隠して、顔を背ける。

「帰ろっか、ゆかちゃん」

「うん、…ゆっくり帰ろうね」

「?」


おわり





最終更新:2008年11月13日 19:47