最近のっちにあからさまに避けられてる。
今まで毎日きていたメールがこなくなって、毎週一回はかかってきてた電話がなくなって、一緒にいても話し掛けられなくなって。
ゆかちゃんは気付いているのかいないのか何も言わなかったけど、のっちがたまに物言いたげな視線で私を見ているのが気になった。
そんなふうに見つめるくらいならいっそぶつけてきてくれればいいのに、のっちはあくまで何も言ってはこない。
それが凄く歯痒くて、でも何も出来なくて。
ただ一ついえるのはぐっすり眠れない日が増えたってこと。
のっちがつけた印もとっくに消えてしまった。
「最近あ〜ちゃん元気ない?」
「そうかな。」
唐突にゆかちゃんが切り出した。のっちは相変わらず素知らぬふりでPSPにむかっている。
「絶対そうじゃ。ねえ、のっち。」
「ふぇ?」
いきなり話をふられて戸惑った表情を浮かべるのっち。
「…ごめん、のっち話きいとらんかった。」
嘘だ。
いつだってのっちは、聞いてないふりして私の話を聞いてて。
真っ先にあ〜ちゃん大丈夫?って聞いてきて。
だから今回も聞いてないふりしてるだけなんじゃろ?
ねえ、のっち?
「本当に聞いてなかったの?」
「あー、うん、ちょっと今いいとこで…。」
「ありえんじゃろ。のっちのくせに。だか…。」
「樫野さーん。」
ちょうどゆかちゃんの言葉をさえぎるようにスタッフさんがゆかちゃんを呼びにきた。
ゆかちゃんはそれでも何か言おうとして、しばらく私達とスタッフさんを交互に眺めていたけれど、結局諦めたのか部屋を出ていった。
部屋には残された私とのっち二人きり。
とたんに沈黙が走る。
それにのっちはばつが悪そうにぽりぽりと頭をかいて、またPSPをいじりはじめた。
久しぶりに、二人きりだ。
あれからずっとのっちが意図的に二人になるのを避けてたせいで、こうやって一緒にいるってことすら懐かしく感じる。
少し前まではこの距離が当たり前で、いや、もっと近かったかな。とにかくのっちはいつも私の側にいて。それがこんなに奇跡的なことだなんて、思いもしなかった。
ねえ、私達はどこでまちがっちゃったのかな?
私が我慢できなくなったのがいけなかったかな?
あんなふうに、のっちを困らせるようなメール、しなきゃよかった?
でも私も限界だったんよ。
気持ちがどんどんばらばらになってって、あのままじゃいつか壊れちゃってた。
メールでしか、素直になれなかった。
「ちょ、あーちゃん。」
「え?」
気付いたら目の前にのっちの困り顔のアップ。
「なんで、泣いてんの…。」
「え、泣いとった…?へへ。なんでもない。のっちが気にすることなんかなんもないけぇ。」
どうやら知らずに泣いていたみたい。泣いたってどうにもならんのにね。
そんな私の様子に、のっちは困ったように髪をかきあげて。
あー、とか、うー、とか散々うめいて。
「のっちのせいよね…。」
小さくぽつりと呟いた。
私はうんともいいえとも言えなくて、ただ黙ったままあとからあとから溢れてくる涙を拭いもせずに、のっちをぼんやり眺めていた。
すると、そんな私に堪えかねたのかのっちが立ち上がった。
まさかこのまま部屋を出ていくつもりなんだろうか?
と、案の定彼女は頭をわしゃわしゃ掻きながら、扉の方へ歩きはじめた。
「やだ。」
「あ、あーちゃん?」
のっちが出ていってしまうと思ったら、とっさに手が出ていた。
いま私の手はのっちの手首をがっちり掴んでいる。
彼女は一層困り顔。
でも、ここで手を離したら、のっちは二度と戻って来てくれん気がしたんよ。
じゃけえ、この手は絶対に離さん。
座り込んでのっちの手を離さない私とのっちの間に微妙な沈黙が走る。
と、思った瞬間。物凄い勢いで腕がひっぱられて気付いたらのっちの腕の中にいた。
「なんなんよ、ほんとに。」
きつく抱き締められているせいでのっちの顔は見えない。
でも声の様子から、あの日ののっちがよみがえる。真っ赤な顔をして、突然家にやってきたのっちが。
「わかっとったに決まっとるじゃろ?目に見えてやつれてくのに。もうどうしたらいいかわからんかった。けど、のっちは何もできん。…しちゃいけんけぇ。」
のっちの声は震えている。
私は黙ったままその背に腕を回す。
「だってあーちゃんも嫌じゃろ?一生懸命頑張ってここまできたのに、のっちとあーちゃんが変なことになったら、ダメになっちゃうよ。だから忘れてとか無理なこといって。」
ああ、のっちもおんなじこと考えてた。
お互いがこんなにも大事で、でもそれよりももっと大きな守らなきゃいけないものがあって、身動きがとれなくなってた。
「でも、やっぱり忘れられんかった。いつだってこんなに近くにあーちゃんがおるのに、忘れられるわけないじゃろ?
毎日毎日、メール送ろうとおもって、やめて、の繰り返し。あーちゃんがつらいのに、何もできんなんて、こんなえらいことない。本当は自分だって…。」
「じゃあ、今だけでいいけぇ、側におって?」
本当はずっと側にいてほしいけど、それは望んじゃいけないでしょう?
私とほとんどかわらない高さにあるのっちの目を見ていう。
のっちの顔はあの日よりも真っ赤で、いつになく真剣な眼差しにくらくらした。
のっちは答えるかわりに私の頬を撫でると、何も言わずに何度も何度もキスをくれた。
触れた唇は凄くやさしくてやわらかくて、なのにそれも今だけなんだと思ったら涙がとまらなかった。
だめだ、最近私、泣いてばっか。
すると、のっちは仕方ないなあって表情で涙を拭ってくれて。
こんなとこばっかりかっこいい。もっと好きにさせてどうすんじゃ、ばか。
でも、本当にどこにもないんだろうか。私達がたどりつける場所は。
答えは凄く簡単に出そうで、でも思い付くことなんか一つもなかった。
㈯(side A) END
最終更新:2008年11月13日 20:06