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「…何じゃアレ」
教室の窓から中庭を見下ろすお姫様は怪訝そうに呟いた。その隣で同じく中庭を見下ろすかしゆかは、何気なく言う。
「のっちと、一年生。」
見晴らしの良い三階の教室からは、その可愛らしくて初々しい一年生のなんとかちゃんと、ヘタレ王子様が見えた。
「見てゆかちゃん」
あ~ちゃんが言わなくても見てます、樫野有香は。こんな光景を目の当たりにするのは今に始まった事ではない。
「またのっちが後輩いじめとる」
「うん、」
しばらくして、一年生が泣き出した。イジメではない。皆知ってる、イジメなんかじゃない。けど大抵の女の子達は王子様に泣かされるんだ。
「あはは、のっち困っとる」
お姫様はソレを見て無邪気に笑う。一年生が可哀相?そんな事、これっぽっちも思わない。お姫様は複雑なんだ。
「あー面白。ごめんゆかちゃん、ちょっとトイレ行ってくるけぇ。」
「りょーかい、次化学室で実験じゃけ急いでね」
「うん、分かっとる」
そうニコニコ笑って教室を去るお姫様。かしゆかはソレと中庭の王子様を交互に見た。
「お姫様も大変じゃねぇ…」
樫野様のその小さな呟きは、青い空に吸い込まれた。


◇◆◇◆

「本当、ごめんね」
何回女の子を泣かしただろう。女の子が泣く所なんて見てらんない。
「大丈夫?教室まで、送るよ」
「良いです…大丈夫ですから」
そう言って涙をイッパイ浮かべた目で無理して笑われても、罪悪感でコッチまで泣きたくなるだけ。
「それじゃ、もう行きます…ありがとうございました。」
「またね。バイバイ。」
のっちは女の子の背中を眺める。尊敬する背中だ。勇気、あるんだなって。自分にもその勇気を分けて欲しい。
のっちはくるりと回れ右。そして校舎への入口に足を進めた。その足取りは重い。告白される度、辛くなる。自分にも告白する勇気があったらな、って。
靴の裏の土を払って校舎に入った。そこは非常階段前の非常口、人は滅多に通らない。だけど、人がいた。いや、人ではなく天使かもしれない。
「なんで断ったんよ。あの子、可哀相じゃろ」
のっちは真直ぐに天使を見れずに目を伏せた。多分、今目が合ったら、泣きそうになるから。
「付き合いんさいよ、可愛くて良い子そうじゃったし。」
「やだよ」
「なんでよ、恋人欲しくないん?」
欲しいのは。のっちが欲しいのは。


目の前にあるのに。手を延ばせば届く距離にあるのに。抱き締める事だって、出来る距離にあるのに。
「毎日毎日女の子泣かせて、のっちは魔性じゃ」
「違う…」
「違わんよ。」
「違うって!」
口から出た声が思いの他大きくてのっち自身が驚いた。静かな空間に小さく響き渡る。
「…何が違うんよ」
あ~ちゃんがのっちにゆっくりと歩み寄る。一歩、また一歩。のっちは大きく息を吐いて、顔を上げた。欲しい君は、キスだって出来る距離にいるのに。
「のっちにだって、好きな人くらいおるけぇ。」
そう言ったのっちの声は、震えていた。その大きな目の奥の瞳に映るお姫様が揺れる。
「…ヘタレ」
「知っとる」
「チキン、マヌケ」
「…知っとるけぇ。あんまのっちをイジめんで」
惨めになるじゃろ。のっちがそう消えそうな声で呟くと、あ~ちゃんは小さく笑った。
「あ~ちゃんは逃げんけぇ、いつでも待っとる。」
「え…、」
「独り言じゃ」
お姫様の声が震えた。
ほら、
今も手を延ばせば届く距離。



―それを影から見ていた樫野様は…
「そろそろeroが書きたいのぉ」
と呟いた。

―End―






最終更新:2008年10月10日 03:31