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楽屋にはあたしとゆかちゃん二人きりで、あたしは雑誌を読んでいた。
予定がずれて出来た待ち時間の空き時間。
いいことなのか悪いことなのか忙しい日々が続くと中途半端な時間の潰し方が分からなくなる。
こういう状況もありがたいことには違いないけどやっぱり退屈だ。


「あ〜ちゃん、あ〜ちゃん。」
後ろから聞こえる微かな囁きに振り返る、と
「ゆかちゃ、…ん。」
「えへへ。」
ちゅって、軽い音と微かな感触。
不意打ちのそれに戸惑っているとやったって言う代わりに得意のいたずらっ子の笑み。
かわいくってどきどきする。でもなんだかしてやられた気分。
「いきなりなんなんよ。」
「ほっぺぷくってなっとる、かわいっ。」
悔しさで憎まれ口を叩いたけどそんなのはお構いなしに抱きついてきて
体重をかけられあっけなく押し倒される。

ゆかちゃんの両手が顔のそばにある、軽く馬乗りみたいなそんな感じ。
長い髪が影を落として二人だけの空間を作る。

無言のゆかちゃん、その指先が頬をそっと伝って
髪を撫でると脈の音が異様に大きく響いた。

「ゆかちゃ…やばいっ、て」
張りつめた空気に耐えきれなくて声がちょっぴり震える。
「なにが?」
「…なにがって。」

言いよどんで口をつぐむと沈黙に染まる空間。


髪を撫でていた手はまた頬を触って唇で止まる。指の感触に釣られて息まで止まりそうになる。

ゆっくりと、詰まる距離を楽しむように近づく顔に気持ちは慌ててしまうけど
「あ、…ゆ…、ちゃ、んっ」
まだ脳の隅に辛うじて残った理性が必死で警告をあげるから
途切れ途切れに声は漏れて。

「…あやちゃん」
とはいえ切ない声に、燃える瞳に、魔法をかけられるとあとはダメで自然にまぶたが降りてしまう。


少し間を開けて鼻にむにっとした感覚

…ん?
「…っはぁ、はっ!」
「あははっ」

鼻を指で摘まれて、口と目を開いたら、さっきも見た茶目っ気たっぷりの顔があった。
「もー!ゆかちゃん、なにするか思ったら!」
「何される思っとったんよ?」
「それは…」
言えるわけない。

「言えんようなこと期待しとったの?えっちな子じゃねー。」
「期待なんかしとらんもん!でもこんな体勢なるから…」
「そんな言い訳せんでもゆかだけのヒミツにしとくけぇ安心して。」
「なっ、もう知らん!」
可愛さ余って憎さ百倍の顔にそっぽ向ける。
ゆかちゃんなんてもう知らんもん!

「…あやちゃあん?おーい。」


ゆかちゃんが顔を合わせようとするけどそう簡単には許さない。全部をかわす。
しばらく続いた視線の攻防はあ〜ちゃんの圧勝。


「むぅー。あやちゃん許してよぅ。」
「やだ。」
「意地悪したのはごめん!」
「反省しとらんじゃろ。」
口を尖らせて主張する、意地悪な小悪魔はもっと反省せんにゃいかんのっ。

「…なんでわかったん?」
「へ?」
思わぬ言葉に間抜けな声が出てしまう。
「あやちゃんのキス顔可愛かったー。あんなん見たらまたなんかしたくなるよぉ。」
「なにを」
「反応も初めてキスしたときみたいに真っ赤な顔で、正直ゆかちょっと迷ったもん。」
「な…、な…」
「ゆかも緊張しとったけどあのときのあやちゃんかわいかったなぁ。今も可愛いけど」

「ゆかちゃんのばかー!」
大声にびっくりした顔のゆかちゃん。
ちょっとずれたとこも好きだけどこの人は恥ずかしいことをつらつらと…!
「もう、ほんとに、知らんっ…!」






「…あ〜ちゃん、ごめん。」

「…ほんとにごめん。」


「反省した?」

「…はい。」
「ほんとに?」
「…はい。」
「じゃあ明日からしばらく、過剰なスキンシップは自粛!

 わかった?」
「はい!」
「んじゃ、許すけぇ。」
「わーい!」
ゆかちゃんのほうを向くと満面の笑顔。
「ちゃんと約束は守らにゃいかんよ。」
「うん!」
なんかいやに素直じゃねぇ。

なんて思っているとぐいっていきなり抱き寄せられた。
「ゆかから出来んってことは、あ〜ちゃんからしてくれるんじゃろ?」
「はぁ!?」
「積極的なあ〜ちゃん…楽しみにしとるけぇ。」

呆れる一方でクシャって笑うその顔に懲りずに胸をときめかせる自分がいて
どうしたって結局甘くなってしまうんだなぁって諦めとも反省ともつかないため息がでた。


おわり







最終更新:2008年11月24日 05:41