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知ってたけど、何もしなかった。
でも、目の前でみせつけられちゃうと、ねえ。
薄く開けたドアの先では、ぼろぼろ泣いてるあーちゃんと、それをいとおしそうに見つめながらキスを繰り返すのっちがいた。
なんだかおかしなことになってるとは思ってたけど、まさかこれほどだとは思ってなかった。
これって、末期じゃないの。
やっぱりそろそろゆかの出番なのかな。出来れば二人に解決してもらいたかったんだけどな。
意地悪じゃない。だって、本当に大事なものは自分達でみつけなきゃ。
でも、もし本当に大事なものが霧に覆われて見えないんだったら、方向を示す手伝いくらいはしたい。
私は二人が大事だから。
まあ、聞き出す相手はのっちかな。あ〜ちゃんはあれでいて口が堅いし。
私は扉の外で大袈裟に咳をすると、わざとらしく音をたてながらノブを回した。
薄く開いた扉の向こうで、二人がぱっと体を離すのが見える。


「しばらく休憩だってー。で、そのあとがあ〜ちゃんね。」

何も知らないフリで楽屋に入る。
でも、あ〜ちゃんはまだひくひくしゃくりあげてるし、のっちは顔を真っ赤にして挙動不審だし…。
二人ともこんなにわかりやすくて、ほんとにばれてないって思ってるんだろうか。
でもゆかはあくまで知らないフリ。
どうしたんだろうって、何も解ってないような顔をして、キョロキョロ二人を交互に眺めていたら、ばつが悪くなったのかあ〜ちゃんはトイレに行くといって出ていってしまった。
さあ、こっからが勝負じゃね。
全部きっちりと話してもらうけえ。
逃がさんよ、のっち。


のっちは出ていってしまったあ〜ちゃんが気になるのか、狭い部屋中をうろうろ。
ほんとじれったい。

「のっち。お座り。」

ゆかが声をかけると、のっちはようやく自分が意味もなくうろついてたのに気付いたのか、肩をおとして目の前のいすに腰掛けた。
でもその顔にはあ〜ちゃんが心配って、大きくかいてある。

「のっち。ほっぺた、口紅ついとるよ。」

不意打ちの一言に、のっちはもうギャグとしか言えないような動きで反応した。
そんなあわててほっぺた拭わんでも…。

「あれー、なんでそんなにあわててんのかなあ。のっち。」

「え、えと、ほら。や、やっぱり、えーとこう、身だしなみとか大切じゃから…。」

かみまくりなうえ、目はうろうろ泳いでる。それじゃほんとに変質者じゃよ、のっち…。


「あー、でも、一体どうしたらそんなところに口紅なんかつくんじゃろー。
ていうか、その色ってあーちゃんがつけてたのと同じ色じゃなー。」

「かしの、さん…?」

のっちはおそるおそるといった様子でゆかをみる。
遅いよ、のっち。ようやく気付いたん?

「なんでしょう。大本さん。」

「まさかー、まさかとは思うのですがー、何かご存じだったり…。」

「ほっとこうと思ったんじゃけど、さすがに、ね。とにかく今日終わったらゆかん家にくること。」


すると、のっちは心底安心したように大きなため息を一つ吐いた。
ゆかは少しだけ後悔する。
ごめんね、のっち。そんなにぎりぎりだったんだね。
でも、もうほっといたりはせんけぇ。一緒に考えよう。


私の家はあまり居心地がよくないのか、のっちは部屋の端の方でもじもじしたまま動かない。
せっかく来てもそれじゃあ何もかわらんよ。
ゆかはのっちを手招きして、目の前に座らせる。のっちの瞳は頼りなくゆれていて、どちらかというと何から話していいかよくわからない、って感じがする。
じゃあ、きっかけくらいはゆかが作らなきゃ。

「で、のっちとあ〜ちゃんはつきあっとるの?」

首を横にふるのっち。
確かに痴話喧嘩とか、そんなかわいらしい感じじゃなさそうよね。
まあ、なんとなく見当はついてるけど。

「チューもそれ以上もしたのに付き合ってないとか、のっちどんだけ人でなしなん?」

「ゆ、ゆかちゃん?!」

図星、か。
のっちは顔を真っ赤にして有り得ないくらい取り乱してる。
やっぱりこの間、あーちゃんとのっち、二人の目が腫れてたときに何かあったんだ。
じゃあ、やっぱりあの跡も…。


「のっち、別にそれ自体にはどうこう言わんけど、色々気を付けてあげんと…。
あ〜ちゃんの首筋に跡つけたじゃろ。元々色白いほうなんだし、目立つよ。」

「それで…。」

「なにのんきに納得しとんの?
あのあとあ〜ちゃん大変じゃったんよ?」

ゆかの言葉にのっちはうなだれる。

「ごめんなさい。」

「ゆかに謝ってどうすんのよ?
それより、のっちはどうしたいん?」

「忘れたい。あーちゃんのこと好きなこの気持ちごと全部。」

「のっち…。」

思ってた以上に重症な発言に戸惑う。
のっちにとって、あ〜ちゃんとのことってその程度ってこと?
すると、ゆかの戸惑いに気付いたのか、のっちはようやく重たい口を開き始めた。


「…あーちゃんのことは好きじゃ。自分なんかが出来ることがあるなら何でもしたいくらい大事だし、誰かにとられたくもない。
あの跡も、なんていうか、あーちゃんは自分のものって印がほしくて、思わず。」

「あ〜ちゃんはどうなん?」

「多分、じゃけど。嫌われてはないと思う。でももしかしたらからかってるだけかもしれん。」

からかってるってことは多分ない。あ〜ちゃんは間違いなくのっちが好きだ。

「じゃあ、何が問題なの?」

「自分があーちゃんを好きなこと。」

「だからどうしてそう繋がるんよ?」

「なんでわからんの?!わたしとあーちゃんが変なことになったせいで、現にもうガタガタじゃが!
このまま付き合ったりとかしたら、とんでもないことになるよ…。」

さっぱり意味が解っていないゆかに焦れたのか、珍しく声を荒げるのっち。

「とんでもないって…。何でそうなるの?」

「なんでって、今実際…。」

「それは、二人が曖昧なままにしようとしてるからじゃないの?
忘れたいとか、そんなこと言わないで真面目に向き合えばいいんじゃないの?」

「…よくわからん。」

のっちはふてくされた表情で完全に横を向いてしまった。
でもゆかには何が問題なのかがいまいちわからない。


「付き合うなら付き合う。忘れるなら忘れるで普通にしないと。
大体付き合ったらとんでもないことになるって、じゃあ具体的には何が起こるの?」

「具体的にって…。ただ、三人で頑張ってきたのとか、崩れるんじゃないかって…。」

「どういう意味?なに、のっちやあ〜ちゃんは仕事に私情を持ち込むってこと?けんかしたら収録に響いたりとか、そういうこと?」

「そうじゃ、ないけど…。」

「じゃあ何が問題なの?」

「ゆかちゃんは、…いや、わたしら三人はどうなるんよ。」

三人って、つまり何年もかけて作ってきたもの、ってこと。か。
そっか。多分二人ともそれが心配だったんだ。
二人が付き合うことで、この大事な三人の雰囲気が崩れるのを気にしてたんだ。

「ゆかをみくびらんでよ。」

なるべく穏やかにのっちに告げる。
のっちは眉を八の字にしたまま、私の次の言葉を待っている。

「ゆかはね、あ〜ちゃんをのっちに任しておけないし、のっちをあ〜ちゃんにとられるのも嫌。
でも、二人が本気なら、しょうがないかな。」

相変わらずのっちの眉は八の字のままだ。

「のっち。二人が付き合おうとゆかはかわらん。あとは、なんていうか、覚悟とかなんじゃないかな。」

「かくご…?」

「そう。全部を背負う覚悟。」

「ぜんぶをしょうかくご。」

おうむがえしに言ってくるのっちはあほっぽくて、改めてあ〜ちゃんはどこが気に入ったんだろうとしみじみ考えてしまった。

「そっからは自分で考えんさい。とにかく、二人に何があってもゆかはかわらんけぇ。」

うなだれたままののっちの頭を撫でる。
ここまで弱ってるのっちは珍しい。よほど本気なんだなって、改めて思ってしまった。こんなに思われてるあ〜ちゃんがちょっとだけ羨ましい。

でも結局ゆかが出来るのはこれくらい。
あとは二人が選ばんと。

㉀(side ksyk) END






最終更新:2008年11月29日 01:45