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『今日の仕事、思ったより早く終わったんだけど、
 今から、行ってもいいかな?』

『うん、いいよ。待ってるね』


あれから、数日後。
ようやく、あの人と話し合える時間ができた。

ドアの前で大きく深呼吸。

よし・・

ピンポーン

「どうぞー」
「…お邪魔します」

部屋に上がると、現像された写真が
干された洗濯物のように、部屋中をひらひらしてた。
奥には、大きなキャンパス。
前に来た時と違う景色が描かれてた。

「ごめん、ちょっと片付けるから待っててね」
「うん、大丈夫だよ」

頭上の写真を眺めながら答える。
「これって、この前言ってた、海外へ行ったときの?」
「そうそう、やっと現像したとこ」
洗面所のほうから、あの人の声。
「どこ行ってたの?」
「イタリアとか、そのあたり」
「ふーん」
相変わらず、ステキな写真だなぁ・・


−えっ?
ふいに、後ろから抱きしめられる。
首元に顔を埋められて
「なんか、こうやって二人で会うの
久しぶりな気がする」
耳元に熱い吐息がかかる。
「・・ダメかな?」

「っ!ごめん!」
そう言って、離れた。
予想外の展開に、顔を上げられず
言葉も出てこなかった。

すると——


「あぁー、ほんとごめん。
 最後にまで、いじわるしちゃって」
えっ?“最後”って言った?
びっくりして顔を上げると、
「別れ話しに来たんでしょ?」
その人は、困ったように笑った。

「…うん、、でも、どうして・・」
「わかったの?、って?」
「…うん」
「そりゃ、わかるって。ちゃんと
 ゆかのこと見てる、から、さ」

「そっか…そだよね」
「うん」
あぁ、やっぱかなわないなぁ・・

「あのね」
「うん」
「好きな人がいるの」
「うん」
「ずっと、ずっと好きだったの」
「うん」
「その人ときちんと向き合うのが怖くて
 あなたを利用して、目を逸らしてた」
「うん」
「でももう、終わりにしたい」
「…うん」
「別れて欲しいの」
「・・・うん、わかった」

目の前の恋人は、ただ
「うん」とだけ答えて
ゆかの話を聞いてくれた。

最低なことしてたのは、ゆかの方なのに
話し終えるころ、涙が止まらなくなっていた。

そんなゆかの涙を拭って
「こっちこそ、ごめんね。
 ほんとは、ずっと気付いてたんだ・・
 でもまだ、離れたくなくて、知らないフリしてた。
 どうしても、ゆかのこと必要だったから・・
 利用してたのは、こっちの方だよ。
 ほんと、ごめん…」
と、その人とは呟いた。
「てかさぁ・・・・“利用”じゃなくない?
 ちゃんと、愛情はあったじゃん。・・でしょ?」
「…うん」
「お互いに、必要な時間だったんだよ」
「そだね・・・」

きっと、オトナになるまでに
必要な時間だった。

必要な人だった。


「ねぇ、、、最後に最高のわがまま言ってもいい?」
「なに?」
「ゆかのこと、抱きしめてもいい?」

一瞬、戸惑った。
けど、
優しい瞳に見つめられて
あぁ、この優しさにずっと守られてきて
ずっと、甘えてきたんだと思ったら
「うん、いいよ」
としか、答えられなかった。



目が覚めると、もうあの人はいなかった。
ただ、机の上に、手紙が置かれていただけだった。

ゆかへ
 今までありがと。
 合鍵は適当に、処分してくれたらいいから。
 ちゃんと、のっちと幸せになるんだよ。

超シンプルであの人らしい手紙に、
せつない笑いがこみ上げてきた。

−てか、やっぱバレてたんだ。。。
そっと、手紙を手に取る。

あれ?2枚ある?


手紙の下にあったもの。


それは

ゆかの似顔絵だった。

いくら頼んでも決して描いてくれなかった
それ、を

このタイミングで?


ほんと、最後の最後まで・・

ずるいよなぁ・・・・


しばらく涙が止まらなかった。



幾度と訪れた部屋をあとにする。

感傷に浸ってるわけにはいかない。


のっち。
本当のゆかをちゃんと受け止めてくれる?

怖いよ・・

けど・・

あたしは、まぶしい朝日の中
愛しい人のうちに向かって歩き出した。






最終更新:2008年11月29日 01:48