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ゆかちゃんがのっちの家に再びやって来た、その日から。

のっちはそうはいってもどーしてもあ〜ちゃんが諦めきれなくて、
あ〜ちゃんに毎日子犬のようにまとわりついてはそっけなくあしらわれ、
悲しくなってゆかちゃんに甘えて、ゆかちゃんは嫉妬したあ〜ちゃんに怒られ、
…といったことを日々延々と繰り返している。

そんな中、久しぶりのオフの日に、
課題もそこそこにゲームに向かっていると、ゆかちゃんに後ろから取り上げられそうになった。

「のっち、いつまで休憩しとるの。そろそろ課題に戻りんさいよ。」
「もうちょっとだけ。今いいところ…、ああぁっ!」

プチッ。…電源を、切られたっ…。もうちょっとでクリアだったのに…!

「ゆかちゃんっ、どいひ〜っ!!」
「なんね、ゆかが居るときくらい、ゲームせんでもいいじゃろ。」
「久しぶりのオフじぇけぇ、ゲームさせてよぉ〜っ!!」
「ダメッ、もっと大事なことがあるの!」

ゆかちゃんが体重をかけてのしかかってきたので、…全然重くなかったけど、一応倒れてみた。

「のっち。ゆかは、のっちの何ですか?」

目が、怖い。

「…ゆかちゃんは、のっちのトクベツです。」
「ゲームはもうせんでいいよね?」
「……。」
「のっち、返事は?」

ゆかちゃんって、超わがままだ…。
今日だっていきなり来て、まだ提出期限が先の課題やろうって言いだすし。
のっちだって、のっちの都合があるのに!ゲームとか、DVDとか色々やりたいことが…。

「あっ、また不満げな顔して!そういう悪い子には…こうだっ!」
「…むぐっ!」

!!…こっ、こんなちゅーぐらいで、のっちは誤魔化されん!…ご、誤魔化せ…んっ、って…。
ちゅぅ、なんかで、い、言いなりに、なんか…、な………。

「———はい、おしまい。ほら、課題やらんと、あ〜ちゃんに怒られるから。」
「ゆかちゃーん、もっとちゅ〜…。」
「だめ、続きは課題終わってから。ね?」
「やなのっ。もっかいちゅぅしてくれんと、課題やらん!」


「なんでそんなにわがままなの?…もぅ、一回だけだからね。」

ゆかちゃんはちょっと困ったように笑って、それから、そっと唇を重ねてくれた。
慌てて服の裾を掴んだら、今度はゆかちゃんのほうのスイッチが入っちゃったみたいで、
もっと深いキスをしようとしてきた。
…さっきの仕返しに、ちょっとだけ抵抗を試みる。
「…課題、まだ終わっとらんよ?」
途端にゆかちゃんの頬が赤くなった。
「後でちゃんとやるからいいの!こらっ、おとなしく言うこと聞かんと、…乱暴しちゃうぞ?」

…でも、のっちはホントは知ってるの。
ゆかちゃんの首の後ろのシルシが、また赤くなってること。
きっと、ゆかちゃんは昨日の夜、相当大変だったに違いない。
今日は久しぶりのオフだから、当然あ〜ちゃんと一緒に過ごすと思っていたのに。

だから、今朝うちのチャイムが鳴って、扉の前にゆかちゃんが立っていた時は、
びっくりしたし、…———とっても、…嬉しかった…。

今、のっちの耳に届くのは、あっつくて甘いゆかちゃんの吐息。。。

「のっちはゆかのトクベツだよ。…のっち…、好き、大好き…。」

…なんでだろう。あ〜ちゃんには素直に好きって言えるのに、ゆかちゃんにはうまく伝えられない。
本当は、あ〜ちゃんとおんなじくらいにゆかちゃんが大事で、いつも想っているのに、どうしても言えずにいる。
嬉しくて、ずっと一緒に居て欲しいのに、どうしていいのかわからなくなる。

きっと、こんなに夢中になっているのを知られたら、何かが壊れてしまう気がしたからだ。
だからのっちは、ゆかちゃんにはただ甘えることしか、できない…。

「…———ゆかちゃん。もっと、ぎゅぅってして…。」
「のっちは甘えんぼじゃね。……ベッドに、いく?」

こくんと頷いて両手を伸ばすと、ゆかちゃんのバックの中の携帯がぷるぷる震えた。

「んもぅ、いいトコだったのに…、残念じゃね。」

ゆかちゃんは未練がましく、あたしの服の裾をつかんだまま携帯を開いた。
「あ。。。やばっ」
あ〜ちゃんから電話だった。ゆかちゃんの手に耳を当てると、かわいい声が漏れ聞こえて来た。
(ゆかちゃん、まだ課題終わらんの?…あ、まさか、のっちとヘンなことしよらんじゃろうね!?)
…おぉ、さすがあ〜ちゃん、いい勘しとるね!今まさにそういう展開に…。
「ヘンなことって?あ〜ちゃん、さてはヤキモチやいとるの?ほんまにかわいいんだから!」
…おぉ、さすがゆかちゃん、ナイスなごまかし!…って、あわわっ、服の中に手を入れるなっ!!
慌てて携帯から耳を離して、服の中からゆかちゃんの手を引っ張りだす。

(ゆかちゃん、ほんまになにもしとらん?…今から、あ〜ちゃんものっちんトコ行く!のっちに言っといてっ!)

電話がプツッと切れた。


「…ありゃ〜大変。あ〜ちゃん、今から来るって。」
「ええぇっ!あ〜ちゃんがっ!!」

あ〜ちゃんが来る!あ〜ちゃんが来る!やばい、部屋片付けないと…
あたふたと片づけ始めると、なぜかゆかちゃんがしょんぼりした。

「…なんね、ゆかの時には片付けなんてせんじゃろ。…ゆか頑張っとるのに、いっつもあ〜ちゃんばっかり…。」

ゆかちゃんの場合は、突然来ちゃうから片付ける暇がないだけで前もって言ってくれればちゃんと、
…と言い訳する前に、あまりにも凹んでいるのでとりあえず頭を撫でてみた。
「のっちは、その…あ〜ちゃんが好きじゃけども。でも、のっちのトクベツはゆかちゃんだから…、ね?」

「…のっち〜!!」

ゆかちゃんにいきなり押し倒されて、唇を奪われた。
花のような甘い吐息に包まれて、目の前が真っ白になりかけた瞬間、…すっと、唇が離れた。
慌てて顔を上げると、ゆかちゃんが潤んだ瞳で見つめていた。

「のっち。…もっと、ゆかとちゅーしたい?」
「し、したいれす。」
「…目、閉じて。」

ぎゅっと瞳を閉じて、ドキドキしながらゆかちゃんの唇を待つ。
その唇になぜか冷たい感触が当たる。…んっ?なにコレ…?
そうっと目を開くと、のっちの唇に触れてたのは、ゆかちゃんの唇…じゃなくて、指先だった。
みるみる情けない眉になるあたしを見て、ゆかちゃんがちょっぴり舌を出して嬉しそうに笑った。

「残念でした〜。今日の分は、もうおしまい!」
「ぅーーーっ!」
「続きは、また明日ね。」
「ぅぅー。」

「…さてと。あ〜ちゃん、迎えにいこ〜っと!」

ゆかちゃんはパッと体を起こすと、おもむろに口紅を直し始めた。
あまりの変わり身の早さに唖然としていると、ゆかちゃんが鏡越しに話しかけてきた。

「のっち。わかっとると思うけど、あ〜ちゃんはゆかのだからね。勝手にベタベタ触らんように!」
「……。」
「あ、いっぱいメール来とる。家出たよって、電車乗ったよって、こんな全部報告せんでいいのに…。」

すでにゆかちゃんはのっちの方を見向きもせずに、メール、というかあ〜ちゃんに夢中になってる。
…あのー、ゆかちゃん?…今、のっちとふたりでおるんですけど…。
あ〜ちゃんが来てくれるのは大変うれしいけど、別にのっちに会いに来るわけじゃないし…、
———ちぇっ、面白くない。

当てつけるわけじゃないけど、掃除を再開することにした。
雑誌やCDを乱暴にラックに押し込んでいると、背後からゆかちゃんの声が聞こえた。

「…そうだ、のっち。」
「……。」
「来年は一緒の授業、増やそっか。そしたらもっと一緒に居られるし。…ね、そうしよ?」
「……ぅ、…ぅん…。」
「じゃ、約束。」

ゆかちゃんはパタンと携帯を閉じて、のそのそと傍まで這ってきた。
…と、のっちを背中から抱きすくめて、頭をくしゃっと撫でた。

「…のっち、拗ねとるん? ふふっ、かわいいんだから〜。」


…ほんまにもぉ、ゆかちゃんって人は…。

あ〜ちゃんにラブラブなメールを送りながら、のっちに甘い言葉をささやいて。
結局、あ〜ちゃんのことものっちのことも、ゆかちゃんが全〜部独り占め。
まったく、自分勝手すぎるじゃろ。ふたりとも、厄介な人を好きになってしまった。

「のっち、…大好き…。」

困ったな。ゆかちゃんの熱い体温と柔らかい両手に包まれると、なぜだかいつだって、
すごく甘い気持ちになって、ゆかちゃん以外どうだってよくなってしまうから。

 …ねぇ、ゆかちゃん。

  のっち、…ゆかちゃんに、…———溺れちゃいそうだよ…。


———って、そんなことは絶対に絶対に言わんけど!

口紅直した後だし、もうちゅ〜ができないので、とにかく抱きついて甘えることにした。
しばらくして、ゆかちゃんの携帯がまた震えた。

「あっ…、あ〜ちゃん、駅についたみたいだから、ゆか行ってくる。」
「のっちも行きたい。」
「ダメ!あ〜ちゃん、めっちゃ怒っとるけぇ、…ゆか、こっからが大変なんよ。」
「……。」
「たまには、のっちも一緒に怒られてみる?」
「…。いえ、あの、…無事に帰ってきてください…。」
「のっちはいいこでお留守番!」

ゆかちゃんは、なぜかのっちにでこピンをしてから、楽しそうに外に出て行った。
その後姿が消えるを確認するや否や、猛スピートで部屋を片付ける。台所もお手洗いも慌てて掃除する。
だけど部屋が綺麗になっても、ふたりはなかなかやってこなかった。
ベランダから何度も外をのぞいて待ちわびていると、ようやくふたりの姿が見えた。

ピンポーン!

「はいはいはいっ!!」
「…あ。のっち、お邪魔するね。」

両手にお菓子をいっぱい抱えたあ〜ちゃんが、玄関に入って来た。
ふわふわのワンピースが揺れている。あぁ、今日もやっぱり、超可愛い。。。。

「どっ、どうぞどうぞっ!」

おどおどしなからあ〜ちゃんを招き入れると、その後ろからちょっぴり涙目のゆかちゃんが顔を出した。
あ〜ちゃんの姿が部屋に消えた隙に急いで「大丈夫だった?」と尋ねると、
ポッと頬を赤らめて、しどろもどろに「全っ然大丈夫に、き、決まっとるじゃろ。」と答えた。
よく見ると、さっき直したはずの口紅が落ちかけて、あ〜ちゃんのと同じ色になっている。
いったいふたりは、外で何をしてたんだろう…って、考えるのはやめた。

遅れて部屋に来たゆかちゃんは、入るなり絶句する。
いまだかつてないほどピカピカに片付いているのを見て、一瞬かなり不満げ顔をしたけど、
それは見なかったことにした。


久しぶりにさんにんで過ごすプライベートな時間は、とても楽しかった。
みんなでおしゃべりしたり、ゲームをしたりしている間、
ふとふたりを見ると、あ〜ちゃんはいつも、ゆかちゃんのどこかしらに触れていた。
ゆかちゃんもあ〜ちゃんのそばから離れないで、時々手を重ね合わせている。
ゆかちゃんも、あ〜ちゃんも、きっとお互いのことが大好きなんだと思う。

でも、そんなふたりを見ていても、もう苦しくならなかった。
ずっとふたりが幸せでいて欲しいと、素直に願ってる。
当然じゃろ?だって、のっちはあ〜ちゃんが好きで、ゆかちゃんはのっちのトクベツだからだ。

…———もう、ひとりじゃないからだ。


「…あ、もうこんな時間!あ〜ちゃん、そろそろ帰るね。」
「じゃあ、ゆかも帰る。」
「えー、つまらんね。ふたりとも帰っちゃうの?」
「のっち、ゲームばっかりしとらんで、ちゃんと残りの課題もひとりでやりんさいよ。」
「…ぶぅ〜。」
「ゆかちゃん、一緒に帰ろ?」
「うん!」

何やら楽しそうに話を続けるふたりを、玄関まで見送る。

「…あ、ちょっと待ってね。」

あ〜ちゃんがブーツを履こうとしてたたきにしゃがんだ、その瞬間。
そっと指先に流れ込む、甘い微熱。
それは、あ〜ちゃんに見えないように繋がれた、ゆかちゃんの温かい手。
俯いたあ〜ちゃんの頭上で、一瞬だけ視線が交錯する。
ぎゅっと握り返した手は、あ〜ちゃんが顔を上げる前に、———離れて、いた。

「ゆかちゃん、お待たせ。」
「うん…。さ、行こっか、あ〜ちゃん?」

あ〜ちゃんとゆかちゃんが、しっかり手をつないで帰っていく。
ベランダから思いっきり手を振って、寄り添うふたりを見送る。

「ふたりとも、またね〜!」

曲がり角の向こうにふたつの影が消えたのを確認すると、溜息が洩れた。
思わずベランダにへたり込む。
だって、…さっきは、ちょっとびっくりして、…かなり、ドキドキした。
ゆかちゃんってばあんなことして、あ〜ちゃんに見つかったらまた怒られちゃうのに…。
ホントにいたずらっこなんだから!

けれど、ふいに交わした眼差しの熱さがよみがえって、…また、胸が、高鳴りはじめる。

…だから。

深呼吸を一つして。

ゆかちゃんが握ってきた手を胸に当てて、心の中だけでそっとつぶやいた。


…あのね、ゆかちゃん…。

 …———ふたりの続きは、…また、明日…。



星のパズル 編 おしまい

長々おつきあいいただき、ありがとうございました。







最終更新:2008年12月06日 02:06