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  • side k-

のっちの言いつけ通り、私は家に着いてすぐメールを送った。
お風呂を上がっても、眠る頃になっても、そして朝になっても、やっぱりのっちから返事はなかった。

でもいいの。
メールを送ったことで、のっちが安心して眠れていると思うだけで私は幸せだった。



午前中、Perfume号が家の下まで迎えにきた。


『おはよーございまーす。』


車にはもっさんとのっちがいた。

座る場所はだいたいいつも同じ。
助手席はあ〜ちゃん。
二列目の左端にのっち。
右端が私だ。

後ろにはマンガとかを置くスペースもある。
のっちの足元はマンガが散乱していることも多い。


車内は今のっちのiPodが繋がれていて、ELLEGARDENが爆音で流れている。
朝が苦手なのっちはまだ眠そうで、外を眺めていたかと思うと重い瞼が落ち、また目を開ける、その繰り返しで何だか忙しそう。


『ふふっ。』


愛しくなって、つい笑ってしまう。

のっちはそんな私に気づいて、その眠い目で不思議そうに私を見つめてきた。


安心して眠りんさい…

そんな気持ちを込めて、私は微笑んだ。
そして誰にも見えない角度で、自分の小指とのっちの小指を一瞬絡めてほどいた。


体のほんの少しの部分が触れただけなのに、全身が熱くなるのが分かる。


ねぇのっち…
人を好きになるってこういうことだったんだね。
ゆかは今まで何も知らなかったみたい。

でもね…。
幸せが膨らむ度に、好きが膨らむ度に、何だか悪いことをしているような罪悪感も膨らんでしまうの。

私たち三人はいつも一緒で。
ようやく夢が現実になった今。
もしかしたらその三人の幸せな現実さえも壊してしまうかもしれない、ゆかとのっちの秘密。
ねぇのっち…
ゆかはのっちのことをこのまま好きでいていいの?


ふたりのことをあ〜ちゃんに話せない理由…

あの時のこと、のっちもきっと覚えてるよね…?


  • side N-


『これ、起きんさい!』


あ〜ちゃんにユサユサ体を揺らされて目を覚ました。

スタジオに着いたみたい。

あ〜ちゃんが車に乗り込んだのも覚えてないな…

そうか…ゆかちゃんに手を触れられて…
そっから寝てしまったんだ。

『早よ行くよ〜。』

あ〜ちゃんの後ろをトボトボついて行く。
ゆかちゃんは先に行ってしまったようだ。



今日は雑誌の撮影。
三人揃っての撮影が終わった後、そのままあ〜ちゃんは個人の撮影に入った。

私とゆかちゃんは並んでお弁当を食べる。



逃げてばかりはいられない。
とにかく…まずゆかちゃんと話し合わないと。


『あのさゆかちゃん…。』


『なに?ゆかのブロッコリーとのっちの唐揚げ交換してくれるん?』


『いやぁ…その…。』


真面目に切り出そうとしていたのに…。
思わず黙ってしまう。


『ごめんごめん。分かっとるよ。…あ〜ちゃんのこと…じゃろ?』


箸を置き、イスの向きを私の方に向けるゆかちゃん。



じっと視線がぶつかる。


『ゆかちゃん…聞いてくれる?』

私もイスの向きをゆかちゃんの方に向ける。




『三年くらい前にさ……。』


今まで避けてきたことを、ぶつけることにした。


  • side K-


『三年くらい前にさ…。』


のっちはじっと私の目を見つめて話を始めた。

やっぱりのっちも覚えてたんだね…。


三年前、ライブのリハーサルを終え、寮に帰るために夜道を三人で歩いていた時のこと。

暗くてワクワクしていたせいもあり、あまり人に知られていない、近道として利用できる細〜い路地を通ることにした私たち。

路地に曲がった瞬間、私たちの視界には重なるふたつの人影があった。
暗くても分かる…
女の人と女の人が抱き合ってキスをしていた。

慌てて大通りまで引き返す。

『み、見た?!女の人がチューしよったよ!』

目を見開き、興奮気味ののっち。

それに引き替えあ〜ちゃんは…

『ないわ〜…ないわ…。何で女の子同士なん…』

信じられないといった表情で口をパクパクしていた。


その時は、そんなあ〜ちゃんの反応を特に気にとめていなかった。

正直、私も同性に恋愛感情を抱くタイプではない。
ない…と思ってた。


なのに…今はこの目の前にいるのっちが愛しくて愛しくてたまらんのよ…。

のっちが男の子だったら、ゆかは悩まずにすんだの?
のっちが男の子だったら、のっちのことが大好き!ってみんなに言えたのかな?



ゆかはのっちが大好きなだけなのに…

ねぇのっち…どうすればゆか達は幸せになれるの…?


  • side N-


『…あん時あ〜ちゃんめっちゃ嫌がってたじゃろ。』


『ゆかも…その時のことが引っかかっとるんよ…。』


そう言うと、ゆかちゃんは俯いてしまった。


『あのねゆかちゃん。』

私はそう言いながら、ゆかちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。
私に再び向けられた視線をそらさせないように、言葉を続けた。

『…のっちはゆかちゃんが好き。あ〜ちゃんに何と思われようと、これだけは譲れないんよ。』


ゆかちゃんは突然の言葉にキョトンとしている。


『あの時あ〜ちゃんは、ああ言った。だからのっちたちの事を知ったら嫌われるかもしれんし、気持ち悪いと思われるかもしれん。でも…のっちたちは何も悪いことしとらんじゃろ?』


ゆかちゃんの目に、涙が滲むのが分かる。
ゆかちゃんが不安だったのは気づいていた。


『だから…ちゃんとあ〜ちゃんに話そう。こんなモヤモヤした気持ちじゃやってけんじゃろ?
時間かかるかもしれんし、理解してもらえんかもしれん。でも…ゆかちゃんを想うこの気持ちだけは、みんなに誇れる自信あるけぇ。』


今にも涙が溢れ出しそうなゆかちゃんの瞳。

『ゆかちゃんはのっちのこと、好き?』


『……好…き……。』


震える声で答えてくれる。



『だから…ゆかちゃんはそのまま、ただのっちのことを好きでおって。それだけでいいけぇ。』


その瞬間、ゆかちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。


頬をつたう涙を、そっと指で拭ってあげる。



『はいOKです!次のっちさんお願いしま〜す!』


ゆかちゃんの手を一度ギュッと握りしめ、私は撮影に戻った。



ゆかちゃん…
のっちは必ずゆかちゃんと幸せになるけぇね。

(続く)





最終更新:2008年12月16日 22:47