のっちが撮影に戻った後、私はすぐトイレに行った。
目と鼻を真っ赤にしてしまった泣き顔を、あ〜ちゃんに見せるわけにはいかない。
鏡を見て、深呼吸。
『だから…ゆかちゃんはそのまま、ただのっちのことを好きでおって。それだけでいいけぇ。』
頭の中でのっちの言葉がループする。
私を真っ直ぐに見つめる真剣な眼差し。言葉。
…もう私に迷いはなかった。
さっきの場所に戻ると、のっちが座っていた場所にあ〜ちゃんが座り、お弁当を食べていた。何やらスタッフさんと話し、みんな笑顔になる。
いつもそう。
あ〜ちゃんの周りは、いつも笑顔が溢れている。
私とのっちも、あ〜ちゃんが放つ光がなければ何も見えない。
『あっゆかちゃん!今日のカメラマンさん超面白いよ!』
天使の笑顔を向けてくる。
しばらく、たわいもない会話を続けた。
すると突然あ〜ちゃんが、思いだしたかのように尋ねてきた。
『そういえばさ、どうなん?最近あんま話聞かんけどうまくいっとるん?』
ードクッ。
動揺して瞳が揺らいだのがバレないように、私は一度お水を飲んだ。
あ〜ちゃんが今尋ねているのは私が先月まで…そう、のっちと『秘密』をもつ前に付き合っていた人のこと。
あ〜ちゃんには別れたことさえ話していない。
今まで、たくさん恋の話をしてきた。
ずっと避けれるはずないことは分かっていた。
あ〜ちゃんは私の言葉を待っているのか、じっとこっちを見ている。
さっきののっちの言葉を思い出す。
…私も、前に進まなきゃ。
『あぁ〜…それなんじゃけど…。…別れたんよ。』
『嘘ぉ?!!い、いつ?!何で?!!』
あ〜ちゃんは目を見開き、大声を出す。
『あ〜ちゃん、シ〜!!スタッフさんに聞こえるけぇ!』
『あ、あぁ…ごめんごめん…。で…何でよ!何で早よぅ言ってくれんのよぉ!』
あ〜ちゃんはクルクルと表情を変える。
相当驚いているようだ。
『…ゆか、他に好きな人が出来たんよ。』
『うっそ!…超仲良かったのに…。のっちはこのこと知っとるん?』
『…うん。』
私が返事をすると、あからさまに瞳を揺るがすあ〜ちゃん。
何であ〜ちゃんには言ってないのにのっちには言っとるん…?
とでも思ったのだろう。
私たち三人は、いつでも秘密を共有してきた。
『あぁ、さっきあ〜ちゃんが撮影してる間に言ったんよ。』
そう言うと、あ〜ちゃんは安心して肩をなでおろした。
うちの天使も、案外分かりやすいところがある。
『…で!…好きな人って、誰なん?あ〜ちゃんの知っとる人?』
目をキラキラさせて尋ねてくる。
『うん…あ〜ちゃんの知っとる人じゃよ。』
『だれだれ誰っ?!!』
『…OKで〜す!かしゆかさんお願いしま〜す。』
スタッフさんに呼ばれた。
『…ふふ。行ってくるね。』
『やっべ超良いタイミング〜!』
あ〜ちゃんは爆笑している。
『また後で教えてねっ』
ゆかはまたその笑顔…見ることができるのかな…
撮影をしながらも、私の頭の中はこれから先のことでいっぱいだった。
でも…もう迷いはない。
私はゆかちゃんが好き。
ゆかちゃんも好きって言ってくれた。
好き同士が一緒になることは、悪いことじゃないでしょ?
私もゆかちゃんも、女の子を好きになったんじゃない。
好きになった相手が、たまたま女の子だっただけなんだ…。
このことで、今まで築き上げてきたPerfumeが崩れるかもしれないという不安はある。
だけど…すべて必ず守ってみせる。
『のっちさんOKで〜す!』
入れ替わりで撮影に向かうゆかちゃんとすれ違った。
私はニコッと微笑んだ。
でもゆかちゃんは、私に視線をむけ少し目を細めただけだった。
………?
何だかよく分からないまま、あ〜ちゃんの隣に座る。
『のっちのっち!』
あ〜ちゃんの目が輝いている。
『ゆかちゃん別れたんじゃってね!』
!!!
ゆかちゃん…あ〜ちゃんに話したん…?
『えっ…あ、あぁ…。』
『何ね〜…気にならんの?
好きな人って誰じゃろ〜』
隣でブツブツ喋っている。
ゆかちゃん、あの人と別れたことだけ話したんだ。
『まぁ、後でゆっくり事情聴取じゃねっ!
のっち着替えに行こうよ。』
あ〜ちゃんは笑った。
あ〜ちゃんに引っ張られ、次の移動のために、着替えに戻った。
私はまたあ〜ちゃんの笑顔を見ることができるのかな…
(続く)
最終更新:2008年12月21日 04:07