Side N
大学から帰りのバス。途中から雨が降ってきた。
バス停について、バスから降りたあたしは、とりあえず木陰に避難。
でも、止みそうにないから濡れて帰るしかないか・・・。
そう思っていたら、ピンク地の可愛い傘を持った子が近づいてきて。
「あの、良かったら入っていきませんか?」
傘から覗いた顔にドキッとした。
バスで時々見かけるあの子だったから。
その子は、一人のときもあるけど、友達と一緒の時はよく笑う。
その笑顔がなんだか好きで、気づくと見ちゃってて。
あたしの視線に気づくのか、その子もあたしの方を見ることがあって、あたしは慌てて視線を逸らしていた。
きっと変な奴だと思われてるだろうなと思っていたから、声を掛けてもらえるなんて奇跡だ。
「あ、いきなりじゃビックリだよね?あたし、西脇綾香。あ〜ちゃんて呼んで?」
「えっと、あたしは・・・。」
「のっち。大本彩乃さんでしょ?」
あたしが言うより早く西脇さんが言っていた。
「え?なんで知ってるの?」
「あぁ、それはそのぉ・・・。」
少し悩んで、あっ、と思いついたように
「のっちって人気あるからスタイル良くてカッコイイって。」
なんだ?それは?そんなのは初耳だぞ。
それに、のっちって呼ぶのは、いつも一緒にいるゆかちゃんくらいだ。
ゆかちゃんに呼ばれてるの聞いたことあるのかな?
あたしがポカンとした顔をしてたら。
「特に女子に?だから、バスでのっちがこっち見てると友達がうるさくって・・・。」
やっぱり・・・あたしが見てたの知ってるよね。
「そ、それはごめん!」
「なんで謝るの?」
「ぃや、見すぎて?」
疑問形になって西脇さんに笑われた。
「別に良いよぉ〜。あたしもちょっと気になってたし・・・。」
「そぅ、なの?」
なんか嬉しい。
「・・・で、返事は?」
「はい?」
急に聞かれて、何の事か分からなかった。
「だから傘。入っていく?」
ああ、そうだった。
「でも、西脇さん・・・。」
「むぅ。あ〜ちゃんて呼んでって言った〜。」
途中で少しぷくっと膨れて言ってくるのが、可愛い・・・。あ、いや、なんだ、その・・・。ま、いっか。
「でも、まだ会ったばっかりだし。」
「あたしものっちって呼んでるよ?」
それは確かに。
「じゃ、じゃあ、あ〜ちゃん・・・。」
そう呼ぶとクシャッと少し照れくさそうに笑って嬉しそう。
えっと、あ〜ちゃんに家の方向を聞いたら、同じだったから一緒に入れてって貰うことにした。
それから、あたしの方が背が高いから、傘は持たせてもらうとこにして。
そしたら、「優しいんだね。」とか言われて、また嬉しくなる。
で、歩き出したんだけど。あ〜ちゃんが濡れないようにと傘を寄せていたのに気づいたらしくて。
「これだと、のっち濡れちゃうね・・・。」
「あ〜、これくらい平気だよ。」
傘なかったら、びしょ濡れだもんね。それに比べたら、全然マシ。
と思ったら、何も言わずに腕を絡めてくるあ〜ちゃん。ビックリして思わず声が出た。
「うはw」
「これなら、のっちも濡れないでしょ?」
「う、うん。」
そうだけど、なんか恥ずかしいよ?
それにしても。
「なんで、あ〜ちゃんあたしに声掛けてくれたの?」
「う〜ん、のっちが困ってたから。」
「もしかして、あ〜ちゃんて、誰とでもすぐ仲良くなれちゃう派?」
「うん。そうだね。ぜんぜん平気〜。のっちは?」
「あたしはダメだな〜。なんか構えちゃうんだよね。」
大学でも声を掛けてくれる人はいるんだけど、なかなか会話が続かないもので、あんまり友達がいないのが現実。
「今もそう?」
「あれ、そういえば普通に話せてるかも。」
きっとあ〜ちゃんには、不思議な力があるんだと思う。
人を惹きつける何か。
なんだかんだと話していると、あたしの住んでいるマンションに着いた。
「家ココなんだ。」
「のっちって一人暮らしなの?」
「うん。大学入る少し前から。2ヶ月くらいだから、まだ寂しいんだよね。だから、良かったら遊び来てよ。」
「良いのぉ?じゃあ、そうしようかな。」
思いのほか喜んでくれてる。・・・こりゃあ、ちゃんと整理しとかなきゃだね。
「あたしん家も、もう少し行ったところだから。結構近いんだね。」
「なんなら、今上っていく?傘入れてもらったお礼。お茶くらいしか出せないけど。」
「ありがと。でも今日は、用があるから帰るよ。」
誘ってはみたものの、今回はそっちが良いかも。なんせ未だに片付いてないからね。
「そっか、じゃあまた今度ね。」
そう言ってマンションの入り口まで来たんだけど、離れないあ〜ちゃん。
「どうしたの?」
「なんか、温かくて離れたくないなと思って・・・。」
その言葉に思わずドキッとしたけど、すぐにあ〜ちゃんは、あたしの手から傘をスルリと取って2、3歩離れる。
「じゃあ、のっちまたね。」
「ぅん。また・・・。」
手をひらひらと振って歩き出すあ〜ちゃんを、しばらく見送ってあたしも部屋へと向かう。
その間ずっと、あ〜ちゃんが触れていた左腕が少し熱かった。
次の日、ゆかちゃんにあ〜ちゃんの話をしたら、なんと二人は同じ高校だったんだってさ!
ちょっとびっくり・・・。
でも、構内で話してたりするところを見たことないんだよな〜。なんでだろう?
最終更新:2008年12月21日 04:09