カーテンの隙間から差し込む光で
私は目を覚ました。
昨夜の出来事を思い出す。
私が絶頂に達した後、のっちはすぐにお風呂場に消えた。
のっちの腕の中で昇った私を、抱きしめるでも優しい言葉を囁くわけでもなく。
『ゆかちゃん…アイシテル。』
機械のように呟くこの言葉が、お仕置きは終わりだよという合図だということを、何度目かのソレで私は気づいた。
圧倒され必ず私は気を失う。
そして目を覚ますと、君はいない。
熱い愛の言葉をくれるわけでもない。
愛に溢れる優しい瞳で見つめてくれるわけでもない。
でも私は知ってる。
冷めた瞳の奥が、愛しすぎるが故の嫉妬と寂しさで溢れていることを。
あれが…
のっちにとっての最高の愛情表現だということを。
最後ののっちの後ろ姿を思い出すと、じんわり胸が熱くなり
のっちの匂いのするシーツをきゅっと抱きしめた。
ヤバイ、早く行かないと。
私は急いで着替える。
鍵は下駄箱の上にいつも置いてある。
目を覚ますと、必ず布団を体にかけてくれていること、
そして鍵がいつもの場所に置いてあること。
全部全部、のっちが私のことを考えながら、私のためにしてくれた行為。
それを考えるだけで私の心は幸せで溢れそうになる。
鍵を郵便受けに入れ、私は一度自分の家に帰る。
仕事の迎えの車が来る時間まで、あともう少しだ。
もっさんから電話が入り、私は下に降りる。
今日は私の迎えが一番最後だったらしく、
車に乗りこむと、あ〜ちゃんとのっちがすでに乗っていた。
『おは……』
『も〜!あんたは食べるか喋るかどっちかにしんさい!』
私が挨拶をしようとした時、
のっちは食べていたパンを口からポロポロとこぼし
あ〜ちゃんに怒られた。
『うへぇ。』
ほらね。
君はいつも通り。
昨夜の君が嘘みたい。
『も〜…のっちももう子どもじゃないんだからいい加減にしんさいよ〜。』
私もいつも通り。
のっちは最後の一口を口に詰め込み、拗ねたように眠りに入ってしまった。
きっと…あんまり眠っていないはず。
私に愛情を黒い表現でしかぶつけられないのっち。
お仕置きを終え、私が気を失った後
のっちがどこで何をしているのかは分からない。
ただその後仕事の車で迎えに行くと、
当たり前に自分の家から出てきて車に乗ってくる。
周りに関係がバレないように、いや、もしかしたら夢だったのかもしれないと思い込むためのやり方なのかもしれない。
自然に二人に身についた。
今日はライブの打ち合わせ。
のっちは衣装のブーツが足に合わずこれでは踊れないと、
別室に靴を選びにいった。
私は何気なく髪を耳にかける。
『!…ゆかちゃ…』
ふとあ〜ちゃんに呼ばれる。
私はハッとして鏡を見る。
…やっぱり。
私の耳には、のっちに噛まれた痕が傷になって残っていた。
『あのさぁ、やっぱり…』
『ゆ、ゆかは大丈夫じゃけ!大丈夫!』
あ〜ちゃんはそれ以上何も言ってこなかった。
あ〜ちゃんが背中を押してくれたこともあって、
私とのっちは結ばれることができた。
のっちが普通の愛し方をしないことがあ〜ちゃんにバレたのは
しばらくしてからのことだった。
一度目は、衣装に着替えをしている時。
私の背中に爪痕がくっきり残っていたのをあ〜ちゃんに見つけられた。
何かめっちゃ痒くてかきすぎたのがいけんかったかな〜
なんて誤魔化したっけ。
その次は、泣きすぎて両目が開かないくらいに腫れた。
メイクさんにも、もちろんあ〜ちゃんにもすごく怒られた。
少し前は、手首に明らかに誰かに掴まれたような真っ赤な痕。
全部、私がのっちの家に泊まった次の日の出来事だった。
さすがに三回目の時、私の手首をつかみ言い寄ってきた。
『ゆかちゃんあのさ…。それ…のっちと…。』
あ〜ちゃんの目は誤魔化せなかった。
のっちは普段は出さないけど
実はすごく嫉妬深くて、私が悪いことをすると
たまに叱られたりするんだ…
と、私はあ〜ちゃんに簡単に伝えた。
あ〜ちゃんは納得のいかないような表情で何かを考えていた。
『ゆかちゃん…やっぱりそれはいけんよ。二人がよくても…芸能人として…体に傷をつけるなんて…絶対いけんのんよ!』
何年もアイドルをやってきたのに今さら当たり前のことを注意され、恥ずかしくなり私は黙り込んでしまった。
『こんなやり方…愛し方なんて言わんよゆかちゃん…。あ〜ちゃん、のっちに注意してくるわ!』
立ち上がったあ〜ちゃんの腕を、私は掴んだ。
『やめてあ〜ちゃん!』
あ〜ちゃんはキョトンと固まった。
『…お願い…。ゆかがこの話したこと誰にも言わんで…。』
あ〜ちゃんにこの話をしたことがバレたら、きっとのっちはまた黒い感情に襲われるんだ…。
あ〜ちゃんはすべて悟ったような表情をして、私に呟いた。
『分かった…。だけどまた次傷見つけたら…そん時は黙ってられんから。』
私はただ頷くしかなかった。
そして今回…
また傷を見つけられてしまった。
『大丈夫って何なん?あ〜ちゃん言ったよね?次は…黙ってられん…って。』
『ごめんあ〜ちゃん!…ほんと…何でもないけぇ…。』
大好きな仲間に分かりやすい嘘をつく自分に呆れた。
だけど私は…
それでものっちが好きなの…。
ううん…
そんなのっちが好きなの…。
その時、ドアが少し開き
のっちの冷たい視線がそこにあった。
(続く)
最終更新:2008年12月23日 01:29