※er
あぁ…何、しとんじゃろ。
重めのぱっつん前髪が更に重くなって
垂れる雫がうざったい。
大雨が降りしきる中、あたしは傘も持たずに
なーんにも考えずに、スタジオから抜け出した。
あ~ちゃんにも、のっちにも
一言も何も言わないで。
今頃…心配しとるじゃろか。
それとも二人きりになれたから、あ~ちゃんが甘々ネコに変化しとるかも。
「ふふ…っくしゅ、」
笑いが込み上げてきて、ついでにくしゃみも出てきて。
なんだか涙も出てきて。
阿呆らしくなってきた。
宛も無くさ迷っていたら、小さな寂れた公園を見つけた。
ぽつり、置かれた遊具たちがひどく寂しげで
あたしに似とる、なんて思ったりした。
雨宿りさせてもらおうと、子供サイズの遊具の中に
身を縮めて入り込んだ其処は
小さな小さな楽園みたい。
完璧なんかじゃないけれど、心温まる、そんな場所。
「………寒い…」
春先の薄着の格好で、雨の中ずっといたら…
そりゃ寒いに決まっとる。
とんだおまぬけじゃ。
これじゃあのっちのこと阿呆の子だなんて
「…言えんよねぇ…」
浮かんで消えていくはずの独り言。
答えるはずのない声が上から降ってきた。
「………なにが、言えんて?」
え、と膝に埋めていた顔を上げる。
足しか見えんけど、誰だかゆかには分かる。
見間違うはずのない人
その人は、ぱしゃ、と水溜まりを鳴らしながら
狭い遊具の中を覗き込んだ。
「…探したんよ…」
ねぇ、なんで居るの?
なんで此処に、居るんよ?
なんであたしを、わざわざあたしを
「…追いかけて……くるんよ…?
追いかけんといてよ…」
頬を、雨じゃない雫が伝って
視界がぼやけて
鼻がつまって
感情が壊れたみたい。
「…ば、か……のっちの、馬鹿!!」
駄目なんよ。
のっちは、あ~ちゃんの側に居らんと駄目なの
あたしの所に来たらいけん。
のっちは無言であたしの手を引っ張る。
心無しか怒ってるみたい、のっちは分かりやすいから
「離して……すぐ戻るけぇ、のっちは、早く戻りんさい…」
直後、冷えた身体に柔らかな温もり。
あたしはのっちに抱きしめられてた。
駄目だと分かってても、振り切ることが出来ない心地よさ。
「のっ、ち…?」
問い掛けても、彼女は無言のままで。
やっと離してくれたかと思えば
じっと目を見つめたまま。
その強い視線に負けてあたしは目を反らす
「…なんで傘持ってかなかったんよ。こんな…」
言いかけて、のっちの顔が少し赤くなる。
あたしはハッとして自分の今の格好を見た
…透けとる……
だからのっちは赤くなったんじゃね…
うわ、気付くとすっごい恥ずかしい
「濡れてるけど…これ、着て
着ないよりマシじゃけぇ」
差し出されたのはジャケット
でもこれ借りてのっちが風邪引いたりしたら…
「のっちが風邪引いたら嫌じゃ」
「…のっち、は…見られるんが嫌なんよ
だから、ちゃんと着……て」
最後の方は真っ赤になってごにょごにょ言うから
あんまりよく聞こえなくて
「えっ?」
って聞き返したら
ふと肩に重みを感じた。
直後、背中に冷たい感触。
「ねぇ…誘ってるん?のっち、もう無理……」
「え、ええっ…そ、そうじゃなくて……んっ」
普段からは考えられない少し強引なキス
重ねるだけだったそれはいつしか深いものに変わっていて
あたしの意識は海の底に沈みそうだった。
「…は……っ…のっ、ち…ここ外じゃけぇ…っ」
「だから…何?」
やばい、完璧Sモードスイッチが入ったのっちは
簡単には止められない。
「誰かっ来たら……!」
「雨の日に公園に来る人なんて居らん」
「のっ……ち…っ」
濡れた服の中にあったかいのっちの手が入ってきて
心臓はばっくばく。
雨の音に掻き消されてるあたしの声は
だんだんと大きくなって
これもまた止められない。
「かっしーは…ここが好きなんよねぇ?」
のっちはクスクス笑いながらあたしの髪を耳にかけて
耳を甘噛みし始めた。
「――…!!」
必死に口を押さえて、目を瞑る。
今の、のっちの表情はあんまり好きじゃない
冷めた意地悪な笑い方
「…ふ……ぅん…」
狭い遊具の中はライブハウスよか全然暑くて
のっちがいつもよりずっと近いから
緊張度はMAXで
おかしくなりそう。
「…のっち……のっち…
離さないで、離れないで……っ!!」
「……ん…」
のっちはこくりと頷いて、あたしを絶頂に連れてった。
右手はしっかりと繋がれたままで。
いつの間にか雨が止んで、虹の橋が架かったけど
しばらく帰れそうにない。
ごめん、あ~ちゃん
機嫌損ねんといてね
悪いのはのっちじゃけぇ。
最終更新:2008年10月10日 05:13