いつ彼女のことを好きになったのかなんて、はっきりと思い出せない。
ただ気が付いた時にはもうどうしようもない程、好きになってた。
隣でくーくー寝るのっちの頭をそっと撫でる。
こんなに美人さんなのに。
きっと彼女が本気になれば、私よりももっとかっこいい人でも、かわいい人でも、つきあえただろうに。
ねえ、あなたは私のどんなところを好きになってくれたの?
本当にあ〜ちゃんでいいの?
不安で仕方ないんだよ、ねえ、のっち。
気が付いたら朝になっていた。
隣で寝るのっちは相変わらずすやすやと気持ちよさそう。
ふっと、布団から出た彼女の鎖骨に目がいく。ぱらぱらと、赤いものが散っているそこ。
昨日だだをこねて、何個かしるしをつけた。
のっちはああみえて仕事には厳しいから本当は嫌だったろうに、わたしが泣きそうな顔でおねだりしたら、仕方ないなぁって笑って許してくれた。
多分今日の衣装なら、首もつまってるから見られないだろうし。
着替えさえ乗り越えちゃえば、なんとか。
こんなものを残さないと安心できない。
のっちはわたしのものなんだよって。わたししかあんなところ見れないんだよって。
自分でも嫌になる。醜い独占欲。のっちに関してだけ、わたしはまともな判断が出来なくなる。
朝から思考が暗くなってきてしまった。
今日も一日頑張らにゃいけんのに。
それにしても、いま何時だろう。
そろそろ起きて、ご飯でも作ろうか。気分転換にはきっとちょうどいいはずだ。
そう思って枕元にある時計に手を伸ばそうとしたら、その手前に四角い箱がおいてあるのに気付いた。
小さめで、なんだか高そうな感じの箱には、なんとなく見覚えがある。
わたしは恐る恐る手を伸ばして、箱を手にとるとゆっくり蓋をあけた。
「やっぱり、指輪じゃ…。」
細身で一見シンプルだけれど、小さな宝石が嫌味なくちりばめられていて、とってもわたし好み。
そっと手にとって眺めると、中に何か彫ってあるのに気付いた。
「えーとぅ、えー?」
「どうしたんあ〜ちゃん。サンタさん今ごろきたん?」
思わぬ声にびっくりしてのっちを眺めると、ぐっすり寝ていたはずがにこにこ微笑んでいた。
「これ、のっちが?」
「いやー、でもサンタさんものっち並みにうっかりさんなんじゃね。今日いったい何日なんって感じよね。」
あくまでサンタさんが持ってきたことにしたいらしい。
確かにクリスマス当日はプレゼントが何もなくて、のっちがプレゼントだなんて、恥ずかしいこと言ってたし。
わたしは気にしなくていいっていったんだけど、もしかしたらずっと気になってたのかもしれない。
「いやー、うっかりサンタさんの持ってきたもんじゃけえ、サイズとか大丈夫なんかねえ。」
言いながら、わたしの手からそっと指輪を奪い取る。
ぼーっとそれを眺めていたら、ほら、右手だして、なんて怒られた。
「おっ、流石にサンタじゃね。ぴったりじゃ。」
指輪は薬指にすんなりおさまった。
もうずっと前からつけてるみたいに、しっくりと馴染む。
「やっぱり、いまいち、だった?」
答えるかわりにのっちのことをぎゅっと抱きしめた。
ねえ、のっち、どれだけのっちのこと好きにさせたいの?
嬉しくて、わたしは言葉も出ない。
のっちは飛び付いてきたわたしの背中にそっと腕を回して、ぽつりぽつり話しはじめた。
「それ、ね。最初はクリスマスに渡す予定だったんよ。でも、ちょっと彫ってもらおうとしたら、混んでるから遅くなるって。だから…。」
「サンタさんが持ってきたんじゃなかったん。」
「あ、そうじゃった。」
てへへ、と照れ隠しにわらう彼女が愛しくて、思わずくちづけた。
ああ、もうどうしようもないくらい好きみたい。
「ねえ、中に彫ってあるのって。」
「ん。…彩乃から、綾香へ。」
「そこは本名なん?」
「えぅ。えーっと、…のっちはあ〜ちゃんに名前で呼ばれるのが、好きなんよ。」
ほんの少し、抱き締められる力が強くなった気がして顔を覗き込むと、のっちは真っ赤な顔をしていた。
「ありがとう、あやの。」
「は、反則じゃ、そんなふうに…。」
耳元で囁いたら、痛いくらいに抱き締められた。
「反則じゃないよ。あ〜ちゃん、本当に嬉しかったけぇ。こんな、こんなに素敵なプレゼント。」
すると躊躇いがちにわたしの頬にのっちの手が添えられた。
「あの、ね、あ〜ちゃん。」
「なに?」
「のっちは、あ〜ちゃん一筋なんよ。もう他の人のことなんて考えられんの。だから、安心して、っていうか。多分、不安にさせてるのはのっちじゃけえ、反省しなきゃいけんのじゃけど…。」
のっち。
のっちは気付いてたんだ。わたしが不安な想いをしてたの。
「あ〜ちゃん、ずっとのっちのそばにおって。これから先も、ずっとずっと。」
答えるかわりにもう一度くちづけた。
ずっとずっと、のっちと一緒にいたい。来年も、その先も。
でも、その前に。
「ねえ、あ〜ちゃんのことは名前でよんでくれんの?」
「うぅ。えーっと。」
今まで真面目な顔をしていたのっちが目を白黒させた。
そりゃ、そうじゃよね。
今までだって数えるくらいしか呼んでくれたことないんだから。
うなり続けるのっちに、もういいよって、言おうとしたその時。
「あ、やか?」
「なんで疑問系なんよ!」
「なんと、なく。」
ああ、もうだめだ。不器用で、でも優しくて。わたしはこの人から離れられそうにない。
この先もずっと一緒にいようね、ねえ、のっち。
最終更新:2009年01月13日 10:39