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「あ…」

朝?
あたしは歌い出した携帯に起こされた。
でもあたし、この曲を目覚ましにしとらん。
あ~ちゃん的に言うなら、キラキラでシャンシャンな曲。
この曲が設定されとるんは
「なんで、かっしー」
慌てて携帯に手を伸ばす。
もう随分鳴ってるけぇ、怒られるかも。

「…かっしー?」
恐る恐る通話ボタンを押す。
あたしはあたしの声の低さに驚いた。
寝起きじゃけんなあ…。
なんて、目覚めていない脳の中をくだらない考えが廻る。


『のっち?』
携帯の向こう側から淡いプラスティックが流れてくる。
「おはようかっしー」
『はは、声怖いよ』
まだ明るくなりきっていない窓の外に、そのプラスティックは反則じゃね。
数十分の儚い奇麗さ、目に染みそう。

『のっちん家行っていーい?』
声の事をいじられて笑ってるとこ、かっしーは声色を変えて言った。
でもなあ…
「のっち寝起きなんよ…」
あたしは泣く泣く言ったのに、くすくすと笑う声が聞こえてくる。
『でももうおるんよねぇ。』
同時にインターホンが静かな部屋に響いた。

「ぇへっ?」

予想外の展開。
あたしは笑いと疑問の混じった気持ちの悪い声を発した。


ああ、でも。
あの窓の外、こんなに透明で淡い景色の中、彼女を見れる。
あたしはそれだけで答えが決まってしまった。

ハンガーから上着をひっぺがして、必需品のフリスクをポッケに突っ込む。
バタバタとリビングを過ぎ、踵が潰れた靴を踏んづけて玄関から飛び出した。

「寝癖すごーい」
機械を通すより何倍もリアルなその声。
それでも全然リアリティが足りないの。
「だっておる言うん…」
早朝のかっしーはなんだか輪郭がぼやけて見える。
露出した首や顔の白さや透明感が、あたしの言葉を遮った。

「のっち?」
その白いキャンバスに、真っ黒でキラキラの宝石と、鮮やかな桃色のルージュ。

あたしはくらくらキテる。


「だめ、なんか眩しい。」
「なにそれ、変じゃねぇ。」
変じゃない、絶対誰だって同じだ。
本当にキラキラで目が眩むんよ。

でも目を反らすには勿体無い。
だって今、のっちが独り占めしとるけんね。

気を抜いたら、にやにやしてしまいそう。
あたしは、脳内で引き出しを開けて言葉を探しまくった。
ようやく見つけた一つの言葉。
てゆーか最初からそれしかなかった。
「こんな時間にどーしたん?」

「…特にない。」
少し悩んだかっしーが呟いたのは、飾り気も味気もない言葉。
ちょっとだけ期待したあたし、虚しいわ。
「可笑しいぃー」
呼ばれたというのに、一方的なのはあたしで泣きそうになる。

じゃけぇ、誤魔化すように笑い飛ばした。


でも…

「でも。」
あたしを横目で見ながら、かっしーは空気に溶けそうな声で付け足した。
「のっちの顔が見たかった。」
ドアの前に座りこんだあたしの横に、音もたてず並ぶ。
あたしの肩に、かっしーの小さな頭がもたれかかる。
心地よい圧力、とろけそう。

「熱ある?」
無意味だとわかっていても出てしまう照れ隠し。
顔がどんどん熱くなる。
熱があるのはあたしじゃん。
「ないよ。」
空を見つめるかっしーが、あたしに視線を移す頃には、朝焼けがあたしたちを照らしていて。
おかげで赤くなった顔がバレる事はなかった。

「熱なくてもいいじゃろ。」

少したっても燃えそうに熱いままの顔、かっしーは女神みたいに笑んで追い討ちをかけた。


ずるいずるいずるい。
かっしーばっかり斜め上。

「ずるいじゃろ…」
我ながら情けない、鳥のさえずりに紛れて消えそうな声。
「聞こえん。」
消えそうな声もかっしーなら拾えるはず。
かっしーはわざとらしく言った。

でも今は、あたしもそれにのりたい気分。
「なら近づけばいいじゃん。」
あたしの言葉にかっしーは満面の白い笑みを溢した。

すっかり顔を出した太陽が作り出した二人分の翳が、重なるまでに時間はかからなかった。
少しして離れたかっしーの顔が赤いのは、きっと朝焼けだけのせいじゃないよね。






最終更新:2008年10月10日 13:37