ラジオの収録中も手を繋ぎっぱなしの私とのっち
そして全く目を合わさないあ〜ちゃん。
何事かとスタッフさんも唖然としているが、
私たちのただならぬ空気に、誰も入ってはこれない。
『もっさん、今日はタクシーで帰る。』
『でも…。』
『ごめん、三人だけにさせて。』
のっちは私とあ〜ちゃんを引っ張り、ズンズンとスタジオを出た。
タクシーのドアが開くと、
のっちはまずあ〜ちゃんを奥へと乗せた。
そして真ん中に自分が座り、
最後に私の手を引き、隣へと座らせた。
相変わらず手を離してはくれない。
チラリとあ〜ちゃんを見る。
タクシーに乗り込む時に離されたあ〜ちゃんの手。
あ〜ちゃんは、再びのっちに触れられるのを拒否するかのように
自分の右手と左手をぎゅっと繋いでいた。
永遠とも思える重苦しい車内での時間。
もう三人で笑い合うことはできないかもしれない。
そこまでして、私はのっちとの愛を貫いていくの?
自問自答の繰り返し。
『着きました。』
運転手さんの声で我にかえる。
のっちは再び、私とあ〜ちゃんの手を引っ張り
部屋へと進んで行った。
二人を引っ張り、部屋に入る。
『い、痛いよ!…』
無我夢中だった。
あ〜ちゃんの声で、自分がどれだけ力が入っていたかに気づかされる。
『あっ…ごめ…ん…。』
手を離し、あ〜ちゃんをソファに座らせる。
ゆかちゃんは、私の隣でその場に崩れるように座り込んだ。
向かい合うように座り
俯いて黙ったままの二人を見て、
一瞬私は弱気になった。
『あ、あ〜ちゃん…あの…。』
『何なんよ!早よ帰りたいけぇ、さっさと用件話してよ!!』
あ〜ちゃんは目に涙をためていた。
その様子を見て、また泣きだしたゆかちゃん。
私はスーッと深呼吸する。
もう…後には引けん…。
『あ〜ちゃん…あのね…。のっちとゆかちゃん…付き合っとるんよ。』
『あ〜ちゃん…あの…。』
静まり返った部屋に響く、のっちの声。
あ〜ちゃんの反応を見るのが怖くて
私は俯き、溢れる涙を抑えることが出来なかった。
『のっちとゆかちゃん…付き合っとるんよ。』
きっとあ〜ちゃんの心は怒りや悲しみで覆われ、
私たちが今まで築き上げてきたものは
全て崩れる。一瞬で。
ねぇのっち…
ゆかはあ〜ちゃんの返事…聞きたくないよ…
怖いよ…。
『…そ、そんなん…』
あ〜ちゃんが口を開く。
私はぎゅっと目をつぶる。
『…前から知っとるわ…。』
え…?あ〜ちゃん…今…何て…?
予想とは全く違ったあ〜ちゃんの言葉に
私は思わず顔をあげる。
『え…?』
のっちも少し目を見開き、あ〜ちゃんを見つめていた。
『そんなん…分かっとるにきまっとるじゃろ…。』
あ〜ちゃんはポロポロと涙をこぼす。
全く予想していなかった返答に
私とのっちは言葉を失った。
『二人のことを…いちばん近くで見とるん…誰やと思っとるんよ…。』
あ〜ちゃんの声は震えていた。
『二人のことを…いちばん近くで見とるん…誰やと思っとるんよ…。』
私は開いた口が塞がらず
涙を流すあ〜ちゃんのことを
ただ見つめていた。
それからあ〜ちゃんは
震える声で一生懸命話を続けた。
私たちふたりが惹かれ合っていく様子は
手にとるように分かっていた。
そしていつの時から、
混じり合う私たちの視線が
熱く甘いものに変わっていった。
どんな時でも、誰よりも私たちのいちばん近くにいるあ〜ちゃんには
何もかも分かっていた。
最初から、全部全部。
『あ〜ちゃん…ほ、ほんとは…女の子同士とか…考えられんのじゃけど…』
そうだ。
あの時、あ〜ちゃんめっちゃ嫌がってた。
だから私とゆかちゃんは
なかなかあ〜ちゃんに話せないでいた。
『お互いを見る、幸せそうな…ふたりの目を見てたら…。受け入れなきゃいけんのんじゃなって…思って…。』
最後の方は、涙で震えて
ほとんど聞こえなかった。
『…あ〜ちゃん…。』
私は、あ〜ちゃんに近づき
そっと涙を拭った。
『何でずっと話してくれんかったんよ…!いっつもうちらは一緒だったじゃろ…』
あ〜ちゃんは私の手をはらった。
『何で…こんな大事なこと…ずっと隠そうとするんよ…。あ〜ちゃんがどんな気持ちで…ふたりと居たか…分からんじゃろ…!』
泣き叫ぶあ〜ちゃんを、私は強引に抱きしめた。
『…あ〜ちゃん!』
『嫌…や、やめてよ…。』
あ〜ちゃんは私を離そうとした。
『やめん。』
『も…、離し…』
『離さん!!』
『もう…知らん…。』
あ〜ちゃんは私にしがみつき、声をあげ涙を流した。
のっちに抱きしめられ、大粒の涙を流すあ〜ちゃん。
そうか…
ゆかたちは勘違いしていたのかもしれないね…。
誰よりもゆかたちの近くにいたあ〜ちゃんに、
分からないことがあるはずないのに。
いちばん辛かったのは…
他の誰でもない、あ〜ちゃんだったんだ…。
今日あ〜ちゃんは、どんな気持ちで私に恋人の話しをしてきたのだろう。
もうあ〜ちゃんの心は、張り裂けそうにパンパンだったんだね。
とめどなく流れ続けるあ〜ちゃんの涙。
あの涙は、あ〜ちゃんの今までの我慢が溢れているんだね…。
私はうずくまって、静かに涙を流した。
そしてのっちは、あ〜ちゃんを抱きしめながら
今まで私たちがなぜあ〜ちゃんに付き合っていることを黙っていたか、
すべてを話し出した。
さとすように…ゆっくりと。
『も…、あんたらは…どんだけ…どんだけ…アホなんよ…!』
あ〜ちゃんはのっちの胸をポカポカと何度か叩いた。
『うん…ごめん…。』
『あ〜ちゃんを誰やと思っとるん…。』
『ごめん…。』
『…ふたりの幸せが…あ〜ちゃんの幸せじゃ…。そんくらい…分かっといてよ…。』
あ〜ちゃんはまたのっちにきつくしがみついて
涙を流した。
ゆかちゃん…
私たちは何も分かっていなかったね…。
『ふたりの幸せが自分の幸せ』
三人で昔からずっとこうしてやってきたのに。
何を恐れていたんだろう。
いつの間にか大人になって、
当たり前のことを忘れてしまっていたね。
『あ〜ちゃん。』
しがみつくあ〜ちゃんを離し、
さっきと同じように、
あ〜ちゃんの頬をつたう涙を指で拭ってみた。
でも、もう手は払いのけられなかった。
『ゆかちゃんを、のっちに下さい。』
じっと目を見つめて、いろんな思いを込めてあ〜ちゃんに伝えた。
『…ふふっ。何ね、そのセリフは。』
あ〜ちゃんは笑った。
つられてゆかちゃんも笑った。
のっちの言葉に、あ〜ちゃんとふたりで視線合わせ、笑う。
『ふふっ…何ね、そのセリフは。』
え〜…とかなんとかうなるのっちの腕をスルリと抜け、
私の前にちょこんと座るあ〜ちゃん。
『ゆかちゃん…。』
『あ〜ちゃ…。あ〜ちゃん…』
ふたりで抱きしめ合い、また涙を流した。
『あ〜ちゃ…ごめ…ごめんね…。』
『…のっちのこと…大切にするんよ…。』
あ〜ちゃんは腕の力をぎゅっと強めてくれた。
しばらく泣き続け、落ち着いた時。
『よ〜し!久々のお泊まりじゃけ、ご飯作るかー!』
口を開いたのは、やっぱりあ〜ちゃんだった。
私たちが見る先には、いつもこの明るい笑顔がある。
あ〜ちゃんの笑顔が、私たちの行く未来を照らしてくれている。
『どうせ冷蔵庫なんも入っとらんじゃろ!よ〜し、ゆかちゃん買い物行くよ〜!』
この笑顔が、私たちの道標だ。
ずっとずっと。
今までも。
そしてこれからも。
『え〜!のっちも行くよぉ!』
『ほ〜れ、ほんなら早よぅ来んさいやぁ!』
目の前に差し出されるあ〜ちゃんの左手をぎゅっと繋ぐ。
あ〜ちゃんの右手にはゆかちゃんの手がしっかり繋がっている。
『久々にチーズフォンデュする〜?』
『え?!のっちがブロッコリー入れるけぇ、ゆかは嫌じゃ!』
『はははは!』
もうこの手を絶対に離さん。
私たちは、再び走り出した。
まだ見たことのない
最高の幸せを求めて…。
END
最終更新:2009年01月13日 11:09