Side A
放課後の校舎に残って、静かな教室を見渡して、そこに並んでいる机。
その一つに、目を留めて歩み寄る。
そして、そのまま机に座って伏せてみる。
懐かしいな〜。
心地良い教室の温度に眠気が襲ってきた。
しばらくすると、ガラガラッという音に意識が戻ってきて。
「よその学年の教室で何寝とるんよ…。まったく。」
ゆかちゃんの声だ。
ゆかちゃん生徒会だから、帰りの見回りかな?
私はゆかちゃんが好き。
初めて見たときはビックリだったけど。今とは少し違った雰囲気を纏っていたゆかちゃん。
でも、話してみると、普通に返してくれるし。あ、面白い子だなって思ったの。
それと、表には出さないけど、すごい努力家。
表に出さないってのがポイントね?
その分、悩みとかも溜め込んじゃうんだけど…。
ここは、ゆかちゃんと初めて会った教室。それとココはゆかちゃんの席だったんだよ?
覚えてる?…て、ないよね?
私の方へ近づいてくるゆかちゃんの足音。
へへっ、ちょっと脅かしちゃおうかな?
バッと起きて驚かそうとしたんだけど、その前にゆかちゃんの手が優しく私の髪に触れてきた。
最近、あまりゆかちゃんから触れてくることが少なかったから、ビックリして動けなかった。
…というか。ドキドキして動けなかった。
「あ〜ちゃん…。」
そっと、優しく呟くゆかちゃんの声。
「あたし…ごめんっ。」
今度は、何かを堪えるように苦しそうなゆかちゃんの声。
何?どうしたの?何がそんなに苦しいの?
今すぐに起きて、聞こうとすれば出来たはずなのに。
私の中の何かが、それを制止させる。
いつもと違うゆかちゃんの姿を見たから?
でも、ゆかちゃんが真正面から見せてくれた訳じゃないから?
髪に触れていた手が離れて、ゆかちゃんが教室を出て行く。
ゆっくりと体を起こして、考える。
ゆかちゃん、泣いてた?
どうして泣いてるの?
私じゃ力になれないの?
それとも私が何かしたの?
大切な人が苦しんでる。それだけで、私も苦しくて…。
自分の教室に戻ると、のっちがまだ残っていた。
「お帰り〜、あ〜ちゃ…って。どっ、どうしたん!?」
私は泣いていた。
のっちは慌てて、私に駆け寄って来てくれる。
「…ゆかちゃんが、泣いとった。」
私は、教卓の後ろの教壇にぺたっと座って。
そしてさっきの事を、簡単に説明する。
のっちには色々と聞いてもらってる。
もちろん、ゆかちゃんの事も。
「…私、何かしたんかな?」
「違うよ。あ〜ちゃん。それは違う。」
「何で、言い切れるんよぉ。」
「そりゃ〜だって…、あ!」
言いかけたのっちが時計に目をやると。
「あ〜ちゃん!かっしー、そろそろ戻ってくるよ!一緒に帰る約束してたんよ。」
「へ?」
だから、のっち残ってたの?
あたふたしだすのっち。
「今、見つかっちゃマズイよね?良いなら良いんけど…。」
「良くない…。」
今のままじゃ、ゆかちゃんの顔なんて見れたもんじゃない。
「だよね。えっとぉ、じゃぁ・・・。」
そこへ、ゆかちゃんが戻ってきた。
「のっちぃー、お待たせ〜。」
「お、お帰りぃ〜。かっしー。」
「ん?のっちそんなトコでどうしたん?」
「んにゃ、別に…。」
幸いなことに、ゆかちゃんは後ろの戸から入ってきたから、私は教卓が死角になって、ゆかちゃんからは見えてない。
のっちは、ゆかちゃんがこっちに来ないように、場所を移動してくれた。
「見回り終わったの?」
「うん。終わった。」
「じゃ、帰ろっか。」
ガタガタと、のっちが帰り支度をしてるみたい。
「ねぇ、のっち。」
「ん?」
「のっちは、あたしの事、好き?」
え?
「はい?どうしたん急にぃ。」
「いいから答えてよ。」
淡々と話していくゆかちゃん。
何これ?
「そりゃ、好きだよ。親友だもん。」
「そうだよね。親友だよね。」
のっちの答えに、ほんの少し声のトーンが落ちるゆかちゃん。
ゆかちゃん、のっちが好きなの?
それで苦しかったの?
やだやだ!こんなの聞きたくないよっ。
—つづく—
最終更新:2009年01月13日 11:22