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  • side K-

誰かに手を握られる感覚で、私は目を覚ました。

『あっ…ごめん起こしちゃった…?』

あ〜ちゃんだった。

『取材…予定よりだいぶ早く終わったけぇ。少しだけでも顔…見に…と思って…。』

あ〜ちゃんは申し訳なさ気に笑う。
そして私の腫れた瞼にスッと指を伸ばした。
私は上半身だけ起こし、ベッドにもたれる。

『…あ〜…ちゃ…。』

かすれてうまく出ない私の声。
あ〜ちゃんは『ん?』と顔を近づけ、
一生懸命私の口を読み取ろうとした。

『…あ〜ちゃ…。ごめ…ね…。』
私の目から涙がこぼれたのを見て、あ〜ちゃんの瞳の奥が揺らいだ。
そしてその瞬間、あ〜ちゃんに抱き寄せられた。

『…!!』

あ〜ちゃんは震えていた。

『何でなん…何で…のっちじゃないとダメなん…。』

愛しい人の名前が出た瞬間、私の胸はドクッと鳴った。

『ゆかちゃんのこと…大切にできる人なんか…たくさんおるんよ…?』

『………。』

『ゆかちゃんを…優しく包んであげられる人…世の中にたっくさんおる…。』

あ〜ちゃんは両手で私の頬を挟んだ。

『なのに…何であんなのっちじゃないといけんのよ…。』

私が戸惑ってしまうほど、あ〜ちゃんは涙を流した。

私とのっちがお互いに惹かれ合っていた頃、背中を押してくれたのは
他の誰でもないあ〜ちゃんだった。
穏やかに愛し合った日々、
そして私が嘘をついてから、変わってしまった私たちの愛のカタチ。

『こんなんもう…あ〜ちゃん見てられんよ…。』

全部全部、あ〜ちゃんはいつもそばで見守っていてくれていた。

『ごめん…。ごめ…ね…。』

あ〜ちゃんごめん…
でも私は…
どんなに傷つけられても
のっちじゃないとダメなの…。


『ごめんごめん。こんなつもりじゃなかったんじゃけど。』

落ち着くとあ〜ちゃんはそう言い、へへっと笑った。
今までどれだけあ〜ちゃんに心配をかけていたのか実感して胸が痛くなった。

『ほれ〜、ゆかちゃんも笑って笑って〜』

どうしてあ〜ちゃんは、こんな時でも笑顔を作れるのだろう。
いつもそうだ。
この笑顔に、今までどれだけ救われてきたのだろう。

『じゃあ…あ〜ちゃんそろそろ帰るね。早よう戻ってきんさいや。』

あ〜ちゃんは、病室をあとにした。
私も…何とか前に進まないといけないな…。


ん…?

イスの横に、紙袋が置いてあるのが目に入った。

あ…これは…。

手に取り中を見てみると、
あ〜ちゃんがよく着ているコートが入っていた。

『あ〜ちゃん、紙袋忘れてるよ?』

私はすぐあ〜ちゃんにメールを入れた。
まだ病院の入り口辺りだったらしく、あ〜ちゃんは再び病室に戻ってきた。

『あっは、ごめんごめん!』

『ん〜ん。あ〜ちゃんこのコート似合うよね。』

『ゆかちゃん…声…。』

あ〜ちゃんの笑顔に、私も自然に笑っていた。
迷惑…かけてばかりはいられない。
強くならないと。

『ゆか…頑張るから…。』

あ〜ちゃんは手を握ってくれた。
その温もりに安心した私は、昨夜の出来事を再び思いだした。


『あ〜ちゃん…ゆかね、昨日あ〜ちゃんに抱きしめられた気がしたの。いるわけないのにね…おかしいね…へへ。』

『何を言いよるんじゃあ…。』

声を取り戻し話しだす私を
あ〜ちゃんは女神様のように微笑んで見ていてくれた。

『あ〜ちゃんのね…匂いがしたの。安心して…ゆか一生懸命あ〜ちゃんって呼んで…。そんでその後、ゆか…気ぃ…失っ…』

『あれじゃな!ゆかちゃんを助けに夢の中に登場したんじゃな〜!あ〜ちゃんはスーパーマンじゃ。』

あ〜ちゃんはガタッと立ち上がり、えっへんとポーズをとった。
私がまた泣き出しそうになったのに気づいた、あ〜ちゃんの優しさだと思った。

『も〜!ビックリするじゃんかぁ!』

私は笑った。
あ〜ちゃんが立ち上がった拍子に
紙袋が倒れ、コートが床に落ちる。
あ〜ちゃんがフワッと持ち上げると、甘い香りが広がった。

『…この匂い…。』

ぼーっとあ〜ちゃんを見つめる。

『ゆかちゃん…。』

そこにはハッとしたあ〜ちゃんの瞳があった。

『昨日…公園で倒れてた時、このあ〜ちゃんの匂いがしたん?』

あ〜ちゃんは私にコートを手渡した。

『うん…この甘い香りがして…。あ〜ちゃんじゃ思うたら安心して…。』

私はギュッとコートを抱きしめて答える。

『変だよね…ゆか。へへ。』


ーガタッ


俯いて笑う私の肩を、あ〜ちゃんは掴んだ。
見つめ合う私とあ〜ちゃん。

『あ〜ちゃん…?』

キョトンとする私の目をジッと見つめ、あ〜ちゃんは言った。

『…ゆかちゃん。昨日このコート誰が着とった…?』

『…!!』

…そうだ。
昨日は…のっちが…このコートを…。

でも何で…?
のっちは私を振りほどいて帰ってしまったのに。
私は薄れゆく意識の中でも、のっちのことを思い出していたんだろうか…

『ははっ…そっか…。』

自分で自分が情けなくなって、私は泣きながら笑った。


  • side A-

『ははっ…そっか…。』

ゆかちゃんが笑い、目を細めると
一筋の涙が零れた。

そんなゆかちゃんを抱きしめ慰めるわけでもなく
私は二人の言葉を思い返していた。

『ゆかちゃんはあ〜ちゃんのことが好きなんよ。』

さっき取材の前、確かにのっちはこう言った。


ゆかちゃんがショックで倒れた後、のっちがは戻ってきた…?
ゆかちゃんを…抱きしめた…?
私の匂いに包まれたゆかちゃんは、勘違いして私の名前を呼んだのかもしれない…。

何となく…見えてきた気がした。

『あ〜ちゃん…?』

ゆかちゃんの声で我に返る。


『ゆかちゃん…いっこだけ聞いていい?』

私は頬を伝う涙を拭いながら、尋ねた。


『…のっちのこと…好き?』


『…!!…』

ゆかちゃんは、涙を溢れさせながらコクコク頷いた。


私が動かないけん…。
二人のこと、私がちゃんと守らないけん…。

私は決意した。

(続く)





最終更新:2009年01月24日 20:56