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針の音が聞こえる。
のっちのベッドサイドに置かれているのは、数年前に私とあ〜ちゃんがプレゼントした目覚まし時計。
写真立ての形をしたそれは、アルミニウムの土台でできたシンプルな文字盤の上を細い針が動き、その前面をクリスタルグラスが覆っている。
朝が弱いのっちに、目覚まし時計に見えない目覚まし時計をと、あ〜ちゃんと2人で店を何軒かハシゴして探し出したものだ。
自信を持ってプレゼントしたのだが、針が動く音が少し大きいという欠点があった。
それは、のっちと体を重ねる関係になってから気づいた。

私は自分の下にのびのびと横たわっているのっちの肢体を目で堪能した後、軽くのしかかるような体勢で、瑞々しいのっちの肌を右手の指先で自由に撫で回す。
唇から始まり、首筋、鎖骨、肩、脇下から脇腹へ。
のっちの瞼は薄く開けられているが、どこを見ているかはわからない。
ゆるゆると手を動かしながら、啄むような口づけを繰り返す。
さっきまで2人でシャワーを浴びていたせいで、シャンプーとボディーソープの混ざった香りしかしない。
のっちの髪に差し込んだ左手からは、微かに湿った感触。お互い完全に乾くまで待てずに、もつれ合うようにしてベッドに倒れ込んだのだ。
唇の浅い触れ合いに焦れたのっちが誘うように隙間を作り、同時に私の背中に両手をまわす。私は誘いに乗って舌を入れた。
途端に私の舌はのっちのそれに絡み取られた。たまに軽く吸い付くようにしてくる。
のっちはキスが好きだ。
私は一旦舌を引っ込めて、唇を重ねるだけのキスで一呼吸。するとすぐにのっちは私を引き寄せるように手に力を入れ、深く口づける。
少し性急なその仕草を愛おしく思いながら右手を脇腹から乳房へ移動させると、のっちの舌が一瞬動きを止めた。
その隙に私の舌がのっちの口内を蹂躙する。歯列と歯茎の境目を丹念に舌先でなぞり、上顎の裏を優しく撫でる。
乳房の上にある手は撫でるだけで、まだ力は入れない。
「…んっ…」
のっちの口端から声と、どちらのものかわからない唾液が漏れた。


針の音が聞こえる。
この音で私は、のっちへの愛撫を続けながら頭の中にいる冷静な私を意識してしまう。
中学くらいからだろうか。何かに没頭、熱中しようとするとき、感情に身を任せようとするとき、いつも私は冷静な私の存在を感じるようになった。
例えば激しく泣いているときでさえ、冷静な私が泣いている私を頭の中から傍観していた。
あ。いま私、泣いてる。
悲しいから泣いてるの?
本当はそれほど悲しくないくせに。
でもま、泣いた方がすっきりするから、いいんじゃない?
こんな具合。

針の音が聞こえる。
冷静な私が話し始める。
何をしているの?
こんなことして、本当にのっちのこと、好きなの?
愛しているって、冗談は止して。
この、“許されない特別な関係”が、単に気持ちいいだけなんでしょう?

音が聞こえないように、声が聞こえないように、私はのっちへの責めを強くしていく。
名残惜しそうにするのっちの唇から離れ、さらさら流れる髪から顔を出した耳を甘噛みする。
不意をついて耳の穴へ深く舌を差し込むと、横から息を飲む気配と同時にびくりと体が揺れた。
私の右手は力を入れて乳房を揉みしだき、人差し指で頂点にある突起をこね回す。
手の動きを休めずに私の唇はのっちの白い首筋へ下る。跡が残らないギリギリの強さで何度もしつこく吸い上げた。
背中にまわした手には徐々に力が入っているのに、のっちはまだ、堪えるように息をひそめている。
早く、のっち。お願い。


針の音が聞こえる。
ほらまた、今みたいに動揺してるつもりになって。
本当は誰よりも冷徹なくせに。
誰よりも計算してるくせに。
人には言えない秘密を持つことが心地いいだけなんでしょう?
あなたは自分が一番好きなんだから。

早く、早く。
私は鎖骨にキスを落とし、まだ触れていない方の乳房へ移動する。
すでにピンと立ち上がった赤い乳首ごと乳房を頬張るように、しゃぶりついた。
「んあっ…」
声とともに軽く反るのっちの体を押さえつけ、舌先で突起を転がす。
のっちの両手はいつの間にか私の頭を抱えるように掴んでいた。私が吸い付く度に頭に感じる力は、のっちが無意識にしているお強請りの合図。
段々と息を荒げるのっち。
もう一方の乳房から離れた右手は、脇腹のくびれを一撫でして内股へ。肌は2人ともじっとりと湿り、触れている部分が堪らなく熱い。
指先が薄い繁みに触れると反射的に膝が閉じるように動いたが、私の体が間に入っていて意味を成さない。
触れ合う肌よりも熱い部分に、そっと触れる。
私の息も速くなる。

まだ針の音は聞こえる。
別の声も聞こえる。
冷静な私?なにそれ、小説の主人公にでもなったつもり?
そうやって冷静な大人ぶって、余裕気取って生きてきたもんね。
ほら、今この葛藤さえあなたにとっては喜びなんでしょう?
ぼんやりと生きている他人とは違うんだって喜んでる。
自分はちゃんと悩んで、苦しんでるって。

息があがる。体が熱い。
猛烈な自己嫌悪が私を襲う。
同時に不思議な満足と、奇妙な納得を感じる。

どれが本物?
たぶん、全て本物。


だから早く、早く、のっち。
「ぁ…やぁ!…」
私が濡れている割れ目を擦り上げると、一際甲高い声があがった。
舌で赤い突起を弄びながら、上目遣いでのっちの表情を盗み見る。
予想通り、のっちは快感に耐えるためか、それとも逃さないためか、固く目を閉じている。眉根は寄せられ、薄く開いた口で浅い呼吸を繰り返す。
ふと、のっちの瞼が開いて、大きな瞳が私の視線を真っ直ぐ受けた。
つい魅入った私は愛撫の手を止める。
弱々しい光の中で、のっちの右手が自分の肩の横にある私の左手を探っているのがわかる。
視線をそのままに私がその手を捕らえると、のっちが指を絡ませて強く握りしめてきた。

それが合図かのように、私はのっちの唇に噛み付くように口づけた。何度も執拗に角度を変えて貪る。
激しいキスの合間に、すでに堪える気を無くしたのっちが喘ぎ始めた。
私は再び濡れた部分を責める。

吐息も声も混ざり合い、微かな水音とともに部屋中に散っていく。

針の音も、あの声も、かき消されて聞こえなくなった。



「いま気づいたんだけど、時計の音、結構大きいね。向こうの部屋に持ってこうか」
てっきり微睡んでいると思ったのっちが突然口を開いたので、私はあれからつないだままの左手に軽く力を入れた。
私の腕の中にいるのっちの肌からは汗がひいて、すべすべしてるのに暖かい。
その感触を味わうために体を引き寄せて足を絡ませると、のっちが窺うように顔を覗き込んできた。
「ねえ?」
「別に、そのままでいいよ。あれは…目安だから」
「目安?なんの?」
小さく呟いたつもりの言葉をまともに拾われ、私は一瞬戸惑った。
すかさず悪戯っぽい微笑を浮かべ、のっちの耳元に口を寄せ思い切り甘い声で囁く。
「あれはね…のっちが、Hに没頭し始める目安」
決まった、と思ってのっちの顔を見ると、案の定頬を上気させ、目を見開いたまま硬直している。
その様子が可笑しくて、つい吹き出した。

私が言ったことは、半分本当。
もう半分は、私がのっちに没頭し始める目安。


ーーーーendーーーー






最終更新:2009年01月24日 21:05