Side K
ほんの一瞬、間が空いてあ〜ちゃんと顔を見合わせると、思わずぷっと笑いが出て。
「のっち、気ぃ遣ってくれたのかなぁ?」
「たぶんねぇ。まったく、もっと他のトコで遣えば良いのに。」
思ってたより普通に話せてる。
ふふって笑うあ〜ちゃん。この笑顔も変らない。
「…良かった。ゆかちゃん、来てくれて。」
「あったりまえじゃん。あ〜ちゃんの歌を聞くの久しぶりなんだから。
それよりあ〜ちゃんこそ、あんまり目合わせてくれなかったから、避けられてるかと思ったよ。」
「そ、それは、そのぉ…。あんまり近づいちゃいけないかなとか、思って…。」
慌てだすあ〜ちゃん。
「冗談だよぅ〜。大丈夫、解ってるって。」
「…うん。」
そう、ちゃんと知ってるよ。
目が合って逸らされるって事は、それだけ私を気にしてくれてたってこと。
ありがと。あ〜ちゃん。
「で?例の人とはどうなってるの?」
グイッとあ〜ちゃんに腕組みしながら、聞く。
「ぇえ?ど、どうって、言われても別に…。」
顔を真っ赤にしていくあ〜ちゃん。
「ん〜?別にって事はないでしょ。声くらい掛けたんでしょ?」
「ぅ、うん。」
戸惑い気味に頷くあ〜ちゃん。
「やったじゃん!」
「でも…。」
何かを言いかけて、止めるあ〜ちゃん。
「ん?どうしたの?」
「ん、ん〜ん。何でもなぃ。ほら、そろそろあたし達も行こうよ。皆、待ってるよ?」
「んあ、そうだね。」
私の手を引いて、中へと入って行く。
なんだろう?そんな風に言われたら、気になっちゃうじゃん。
中に入ると、少し心配そうにのっちが、こっちを見ていた。
私は大丈夫だよって、笑顔で小さく手を振ってみせる。
それを見て安心したのっちだけど。
あ〜ちゃんの友達に話しかけられて、必死な表情になってる。
「あの二人、のっちのファンなんだって。」
「ふ〜ん。そうなんだ〜。なんか解んないけど、のっち人気あるみたいだよね。」
「はは。のっちって居るだけで、結構、人目引く感じだからね。」
ホントそうなんだよね。黙ってても、人が寄って来るっていうか。
もともと人懐っこいから、人見知りさえ改善できれば、もっと友達も増えるのにね。
まぁ、話すと結構アホっぽいんだけどね〜。なんて言ったら怒られるけど。
「しばらくあのままにしとく?」
「え?良いの?すっごい助けを求めてる気がするけど…。」
確かに、ちょいちょい視線を向けてくるのっち。
「友達少ないんだから、良い機会なんだけどねぇ。…でも、そろそろ限界みたいだね。」
いっぱいいっぱいになってるのっちに、あ〜ちゃんと二人で助け舟を出しにいく。
でもすぐに、店員さんが部屋に案内してくれて、ほっと安心したみたい。
私とのっちの前を三人が歩いてる。
「のっちのっち!あ〜ちゃん情報だよ?」
小声でのっちに話しかけると、何?って顔を寄せてくる。
「あ〜ちゃん、例の人に声は掛けたらしいよ?」
「あ〜…やっぱりそうなんだ。」
案外あっさりした答えが返ってきた。
「あれ、知ってた?」
「いや、あ〜ちゃんなら声掛けてそうだな〜と思ってたから。」
「なぁんだ。つまんなぁいの。」
「だからぁ、ゆかちゃん面白がらないでよ〜。」
「あぁ、ごめんごめん。のっち…それでも、好きなの?」
「ぅん。そーだねw」
たははwなんて苦笑いののっち。
例の人かぁ…。
そういえば、誰か聞くの忘れちゃった。
私とのっちにこんな思いさせて、いったいどこの誰よ?
これであ〜ちゃんが振られたら、タダじゃおかないんだから。
…あ〜ちゃんが振られたら?
のっちはどうするんだろう。告白するのかな。
けどのっちは、弱みに付け込むみたいなの、しなさそうだよね?
ただ優しく、私の時みたいに側に居てあげるんだろうな…。
私はどうするんだろう……?
部屋に入った私達は、まず誰が歌うかという話になっていた。
ここはやっぱり、カラオケ好きのあ〜ちゃんかな?
と、思ったら…。
「大本彩乃。歌いまーす。」
はい!と手を上げて一番乗りののっち。
そういえば、あ〜ちゃんに負けず劣らず歌うの好きな子がここにも居たっけ。
ホント、好きなことに関しては積極的なんだよね。
「聞きたい。聞きた〜い。」
そう言って盛り上がるあ〜ちゃん達に照れながら、歌いだすのっち。
誰かが歌ってしまえば、どんどん曲が入れられていく。
のっちの次に入れたのはあ〜ちゃん。
ああ、やっぱり聞き入っちゃうよ。
この切なさの効いた歌声に、ちょっとだけ思い出してしまった二人の思い出。
うん。あ〜ちゃんがくれた思い出。ちゃんとココに残ってる。
私は目を閉じて、そっと手で胸に触れた。
目を開けてのっちを見ると、画面ばっかり見てる。
「のっちぃ、歌ってるあ〜ちゃんは見ないの?」
「ぅん?」
小声で呼ぶとビクッと反応する。
さては聴き惚れてたな?
「どうよ。あ〜ちゃんの歌。」
「どうしよう、ゆかちゃん…。」
しばらく無言になって、言葉を待つと
「ドキドキするんですけど…。」
その反応がちょっと可笑しくて、のっちの肩に顔を伏せて少し笑ってしまった。
「だから、笑わないでよぅ。」
情けない声をだすのっち。
「ホント、のっち可愛いね。あんたぁ。」
なんだかんだとワイワイ歌っていると、あと一曲ずつ歌って終わろうという事になった。
のっちは一番の十八番の恋歌を歌う。
当然のように歌詞は頭に入っていて、画面なんて見なくても歌えちゃうから、
二人できた時は、冗談で私に向かって歌ってたのに…。
今日は歌う相手が居るのに、画面の歌詞を追いながらチラッと見る程度。
まったく。なんて思うけど、これはこれで微笑ましい感じで良い。
少しでも、伝わると良いね。
そして、最後に歌ったのはあ〜ちゃん。
だけど、この歌って…。
Side A
ゆかちゃんとは久しぶりのカラオケ。
のっちとは初めてのカラオケで。
のっちの歌声は、のっちの性格みたいにすごく真っ直ぐで、カーンと響いてきて心を突き抜けていく。
楽しい時間は過ぎていくのが速いんだよね。
だから、次でラスト。
そして、あたしが最後に歌った歌。
まさか、これで例の人が判ってしまうなんて、油断していた…。
—つづく—
最終更新:2009年01月24日 21:12