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「…はあ、つっかれたあ…」
「…うちも」
あ~ちゃんとあたしは、プールサイドにごろん、と横になった。
制服はすっかりびしょびしょで。脱ぎちらかした靴下やスニーカーは、プールサイドに転がってる。
失くさないように水道の蛇口に結んだセーラーのスカーフが、微風にかすかに揺れているけど。
今夜はほんと、風が無い。
あたし達は水かけっこや飛び込み、素潜り対決なんかを盛大に繰り広げて(こういう時あ~ちゃんはほんと容赦ない)、いい加減ぐったりして。
濡れた制服がまとわりつく体が、重い。風も時間も体も止まってるみたい。
「…のっちぃ」
あ~ちゃんの、とろんとした声。


「ダルいけえ、おんぶして連れて帰って」
「……えっ」
「おんぶして。」
「…無理じゃけえ」
「なんでよ」
なんで、って。…胸が当たるじゃん。
「…あ~ちゃん、重いじゃん」
「しっつれいな子じゃね!」
あ~ちゃんは足でげしってあたしを蹴っ飛ばす。
あたしは笑いながら大げさにごろごろ転がってみせた。
あたし達は少し離れた場所で。同じように仰向けになって、同じ夜空を眺めた。
「…のっちぃ」
あ~ちゃんの声。
「…キスして」
一瞬、思考が止まった。体温が上昇して、あたし達を包む空気が甘い熱をおびてくる。
「…さっき当分キスせん、って言わんかった?」
「もう、当分経ったけえ」
「短かっ。」
「ええんよ。うちにとってはもう充分じゃけえ」
…それには同意。
あたしは身を起こして、ゆっくりとあ~ちゃんに近づく。


寝っころがってるあ~ちゃんの横に、あたしはひざまずいた。
身をかがめて、あ~ちゃんに覆いかぶさるようなかたちで、両手をついた。
あたしの髪から水滴がぽたぽたと落ちる。あ~ちゃんの髪に、頬に、閉じたまぶたに。
そして唇に。あたしは唇を落とした。
…時が止まった。
動いているのは、あたし達の鼓動と、唇だけ。
時の止まった空間を泳ぐように、深いキスを続けて。
長いクルージングに疲れて陸に上がるように、あたし達は唇を離した。
目を開けると世界はゆっくりと動き出して。あたし達のたどり着いた場所に、目がくらみそう。動き出した恋は、あたし達をどこへ運んでいくんだろう。


あ~ちゃんはあたしの手首に指をかけて、かすれた声で呟いた。
「…帰りたくない」
「……へっ?」
「何か今日、帰りたくない」
ななななな何だそれ。おんぶしてとかキスしてとか、帰りたくないとか、…何言い出すんだこの人はっ。
何の祭りなんだコレ!?
脳内阿波踊りで思考がフリーズドライ化してるあたしをよそに、
「あっ、そうじゃ!」とあ~ちゃんはぱあっと顔を輝かすと「ゆかちゃん家に泊まろうや!」
…なぜそうなる。
強烈な肩すかしをくらってほげっとしてるあたしを、「のっち、邪魔」と押しのけて、あ~ちゃんはカバンから携帯を取り出してゆかちゃん家に電話し出した。


ゆかママと10分くらいしゃべり倒して、難なくお泊まりOKもらって(てゆうかゆかちゃんの了解はぁ?!)、
「夜分遅いと失礼じゃけえ、早よ行かんと!」
あ~ちゃんは手早く荷物をまとめてずんずんずかずか歩き出した。…さっきまでおんぶ~って言ってたくせに。
「のっち、何をお座りしとんよ!ほれっ、カモン!」
そう言って片手でおいでおいでする。完全な、わんこ扱い。でも満面の笑顔を見ると何にも言えなくて。


あたしは駆け寄って、
「ね、アイス買ってこ!」
「のっちにしちゃあ気がきいとるね」
あ~ちゃんは笑いながら、あたしの背中に飛びついて、ぎゅうってしがみついてきた。
…ああもう。そんな無防備に抱きついて来ると、胸が当たるよって、今度きつく(は無理だろうけど)言っとかんと。


樫野有香宅。
「コピー本の複数買いはやめてほしいわあ…」
樫野有香は、コピー本製作の二つ折り作業真っ最中であった。

これは指先から水分を奪うので、おしゃれさんの樫野にとってはつらい作業である。
「ゆかー」
母親の声にビクッとする。
「あ~ちゃん達、来たわよー」
「来たわよ、て何ね!?うち何も聞いとらんよ!?」
「さっきお泊まりの連絡あったわよ」
…もうあ~ちゃんはっ。何でうちを通さんのんよっ。
樫野有香はバタバタと原稿を片付けながら。…まあいっか。最後の一作のネタにつまってたし。
ネギをしょった鴨ならぬ、アイスを持った犬とネコを樫野有香は笑顔で迎えた。

終わり。







最終更新:2008年10月10日 13:53