「ゆかちゃん、こんばんは」
「…こんばんは」
「様子見にきてくれたんだ?」
「…ひとりだと思って、、、、
でも、そうじゃないならいいんです。
帰ります」
そう言って、帰ろうとした。
だって、こんな状況耐えられない。
「えっ、なんで!?
心配で来たんでしょ?
上がりなって」
そう言って、彼はゆかの手をひっぱって
部屋の中へ招く。
や、でも・・
そう思いながらも
勢いにつられて部屋にあがった。
「それに、僕、これから仕事だからさ。
よかったら、そばにいてあげてよ」
「・・これから、なんですか?」
「そっ、夜の撮影にかりだされてねぇ。
あ、それ、差し入れ?」
「あ、はい」
「さすが、ゆかちゃんだねぇ。
様子見に来たのはいいんだけど、
冷蔵庫空っぽでびっくりしちゃったよw
とりあえず、おかゆ作って食べさせたんだけど」
「あぁ・・」
「いつもこんな感じ?」
「まぁ、、だいたいは」
「まじで?いったい、どんな生活してるんですかねw」
「・・・あれぇ、、、ゆかちゃんの声がする…」
かすれた声のする方
ベッドに視線をうつすと
のっちは、ふとんに包まって丸くなっていた。
形のいい頭がちょこっとだけ見えている。
「あ、ごめん、うるさかった?」
そう言って、ベッドに近づき、覗き込む彼。
「ゆかちゃん、来てくれてるよ」
するとのっちは
がばっとふとんから顔を出し
焦点のあってない大きな瞳で
ゆかを見て、、、
「なんでおるん?」
なんでって・・・
そんなふうに言わなくてもいいじゃん・・
そりゃ、彼がいれば、それで十分だろうけど・・・
泣きそうになるのをぐっと堪える。
「なんでって、そんな言い方よくないでしょ?
せっかく、心配して来てくれたのに」
「だって、、、風邪がうつったら困るもん・・」
「はいはい、そうですねぇw」
二人のやり取りを、少し離れたところで見ていると
ほんと、なんでこんなとこにいるのか
わからなくなってきた。
彼が、のっちの耳元で何か囁いている。
のっちは、顔を真っ赤にして
あぁ、もう
なんて言って・・・
声が少しずつ遠くなって
ココロの中がどんどん空っぽになっていくのがわかる。
今ここにいるゆかは、抜け殻だ。
でもそれでいい。
ココロがちゃんとここにあったら
きっと、ゆかは
壊れてしまうだろうから。
「じゃ、あとはよろしくね」
彼の声で我に返る。
「えっ?」
「いやいや、えっ?じゃなくってw
僕、仕事なんで、よろしくって」
「・・・でも…」
のっち、あたしがいると嫌そうだし・・
「一人暮らしの風邪ほど
せつないものもないしねぇ。
何だかんだ言っても、
誰か傍にいて欲しいものだから」
「じゃ」
そう言って、彼は去っていって
二人きりの空間。
のっちの方をみる。
目を瞑って、横になっている。
微かに開いている口元からもれる呼吸は
少し乱れていた。
「…のっち?」
「ん?」
「ゆか、、、帰ったほうが、いい?」
「・・・」
沈黙が痛い。
うまく呼吸ができない。
帰ったほうがいい。
そう思いながらも、
その場から動けないでいると
「よかったら、、、もうしばらく
いて、欲しい・・・」
目を瞑ったまま、のっちは呟いた。
思いがけないコトバ。
少し、ココロが軽くなった気がした。
「・・わかった」
そう言って、のっちの傍に近づく。
「薬は?飲んだ?」
「…うん」
そっと、おでこに触れる。
想像以上に熱くて、驚いた。
「熱は?計った?」
「…うぅん」
「かなり、しんどいんでしょ?
すごく、熱いよ・・」
「・・う、、ん・・・
・・手、、しばらく、、、、」
「えっ?」
なにか、呟いたけど聞き取れない。
すると、のっちは瞳を開き
すっと、まっすぐな視線をゆかに向ける。
「ゆかちゃんの、、、手。冷たくてキモチいい
…から、もすこし、、そのままにしとって?」
—ドクン。
ココロの奥から、なにかが
溢れ出しそうになるのがわかった。
やばい・・・
あの時と同じ瞳、だ。
ゆかが、一瞬にして堕ちてしまった
あの瞳。
「うん、わかった・・・」
そう答えると、のっちは安心したように
再び瞳を閉じた。
—ドクン。
さっきは無意識だったけど
のっちに触れたのって
いつ以来だっけ?
久しぶりに触れた
のっちの体温が
右手を伝って
ゆかの中に侵入してくる。
内側からも熱くなってきて
どちらの熱かわかんなくなって
ただただ苦しくなってくる。
息ができない・・
苦しい・・・
苦しいよ・・・・のっち・・・・・
どんどん壊れ始める。
「ほんとは、彼におって欲しかったんじゃろ?」
「・・・べつに・・・・」
ほんとは、そんなこと聞きたいわけじゃない。
「やさしい人、だよ、、ね」
「・・・そ、だね・・・・」
ほんとは、こんなこと言いたいわけじゃない。
「のっち、、、“今”、、幸せ?」
止まれ、止まれ、自分・・・
「・・・」
止まってよ・・・・
「…“いま”?」
お願い。
「・・うん」
「…幸せ、、だと、思う」
—ドクン。
「・・ゆか、ちゃん、、、は?」
眠りに落ちていってるのだろうか?
「…ゆか?」
あたしは、どこに堕ちていく?
「ゆかは、、、よく、わかんないや…」
どこだっていい。
あなたがいないなら、どこだって同じ。
「・・のっちは、、、ゆか、ちゃんにも
しあわ、、せに、、、なっ、、て、、、欲しい・・・」
—ドクン。
なにかが、完全にはずれた。
あたしの、幸せ?
堰き止められていた
熱くて黒くて
混沌とした、なにもかも、が
涙となって溢れ出る。
うっ、、っ、、、うぅ・・・・
ゆかの異変に気づいたのっちが
うっすらと瞳を開けようとしたのが
ちらっと、歪んだ視界に映った。
大好きな瞳を見たくなくて
おでこに添えていた掌で
すっと、まぶたを閉じる。
「えっ、、ゆかちゃん、どうしたん?」
戸惑うのっち。
後戻りできなくなったゆか。
「っ・・うぅ・・・・
のっち、、、ゆかを、ころして、、よ・・」
ゆかの、この想いを。
そして、自由にして欲しい。
それが、できないのなら、
いっそこの手で終わらせてしまおうか?
—ドクン。
のっちの視界を塞いでいた掌を
白く細い、首へ。
そして、きっと
最後になるだろう
口付けを、唇へ。
「・・・・」
最終更新:2009年01月24日 21:23