n-side

んー・・・

部屋に差し込む光で
自然とまぶたが持ち上がる。


視界はまだぼんやりとしている。


熱は・・・
下がったみたい。
ノドも、もう痛くない。


でも、なんだか
ぼんやりしてる。




はっきりしない頭に
響く着信音。


ん?・・・あ。


『もしもし?』
「もしもし」
『おはよう。どう、調子は?』
「うん、、、まぁ、大丈夫、、、かな?」
『大丈夫かな?ってw』
「…昨日、、、来てくれた、よね?」
『行ったよぉ、え、覚えてないの?』

      • あれ

『…ゆかちゃん、、、は?』
「ゆか、、、ちゃん・・・」


『まだいるの?』
「・・・・ごめん、またかけなおす!」


少しずつ、頭がはっきりしてくるのがわかった。

昨夜のことが蘇る。


えっと

—ゆかちゃんが来てくれて
びっくりして
でも、嬉しくって・・


風邪うつしたくなかったけど
少しだけでも傍にいてもらおうと・・・


—ゆかちゃんの、手
とても心地よくて・・・



それで


—泣いて、た?


うわっ、頭ん中
はっきりしてきたの通り過ぎて
てんぱってきた・・


—・・ころし、、、て?

ガタっ!
ベッドから飛び出す。


傍にある、鏡。
うつる自分に
視線が止まる。

—あれって、首、、、絞められ、、、た?

えっ?


—・・キス・・・・


鏡越しに
首元に残っている
紅い“跡”を指でなぞる。


えぇーー!


いくら、熱で朦朧としてたからって
気、失って
今の今まで気付かんって
のっち、どんなけアホなんよ!



つくづく
自分で自分がヤになる。


いや、今はそんなことはどうでもいい。



慌てて、ゆかちゃんに
電話をかける。


      • でない。


もう一回。


        • でない。


もう一回!


        • お客様がおかけになった電話は電波が届かないところに−


電源、切られた!?



あぁ、もう
わけがわからん!



とりあえず、落ち着こう。
ベッドに腰をかける。



ない脳みそをフル回転。


大きく深呼吸。


目を閉じる・・・・・



—…ゆかちゃん・・





っ!


確信はない。

ない、けど


あの場所だ、


そう思って


即行、着替えて


部屋を飛び出した。


k-side

昨夜、あたしは

のっちの首を

絞めた。



どうして、絞めたの?

そう問われれば



なぜか、自分でもわからない。


無意識だった。


ただ一つ、わかってるのは



終わらせたかった


という、事実。



自由になりたかった。



自由って?


終わらない

堂々巡り、だね。


のっちからの着信。

どうしていいかわからず


…電源をおとしてしまった・・・



視界に広がるのは


何もかもを飲み込んでくれそうな海原。


波の音は

ココロを落ち着かせてくれ

同時に、泣きたくもさせられる。



のっちに堕ちてしまってから


いつから
こんなふうになってしまったんだろうって

考える。



ほんとの想いに気付いたのは
きっとあの瞬間。


けど


ずっと

ずっと


のっちは、ゆかの傍にいた。


思い返す風景には

必ず、あのどうしようもない笑顔があった。



気付くのが遅すぎたね。


ゆかの世界は


のっちを中心に廻っていたんだ、と。


片想いが一番楽しい、なんて
はしゃいでいたことが
遠い昔のようだ。



涙は枯れることなんてないことを

こんなカタチで知るなんて。


昨日、あれほど
奥の奥から
全てを絞りきったはずなのに


まだまだ、溢れ出てくる涙。
また、視界が揺れる。


でも
涙が枯れ果てるとき
この想いも消えてしまうのなら
どんどん
流れ出てしまえばいい。


なんて、悲劇ぶってる
自分にも、もううんざり、だ。



大きなため息を一つ。



天を仰ぐ。



突き抜けるような青空。


なんだか、少し救われたような気がした。


手のひらを日の光にかざす。


昨夜、世界で一番愛しい人の
首を絞めたこの手も
今は、やわらかい日差しを受けて
きらきらと輝いている。



手の届かない太陽は

それでもあたしを輝かせてくれ
あったかくしてくれる。


なんだか

それだけで十分な気がした。


そっと目を閉じ
コントロール不能となった
鼓動に耳をすます。


焦がされてしまった
ココロの破片は
まだ痛むけれど・・・


きっと

何度も何度も


やさしく
そして
せつなく

ゆかを包み込んでしまうんだ。



どうせ逃れられないのなら





—…ちゃん?



      • えっ?



「ゆかちゃん、みっけ」


目を開けると


二度と見ることはできないと思っていた


愛しい人の最高の笑顔があった。








最終更新:2009年01月24日 21:42