※微er
あたしは、黒いコートの影で、
ぐったりしたユカちゃんに、何度も唇をあわせる。
思いをこめて、熱いほどの命を吹き込む。
でも、ユカちゃんの唇は、氷のように冷たいままだ。
「・・、アヤちゃ、ごめん、ね・・。」
細い体が、苦しそうにふるえている。
(・・どうしよう、血が、全然、足りないっ・・!!)
二人のコートをかきあわせて、ユカちゃんを包み込む。
「ユカちゃん、もうすぐ、着くけぇ、あと少し、辛抱して・・」
ユカちゃんは、もうしゃべる気力もなく、
こくん、と小さく頷く。
あたしは、ユカちゃんをあやすように、やさしく抱き締めた。
(・・ユカちゃん、・・消えないで・・!)
飛び乗った、リニア。
あまりの遅さにイライラしながら、ユカちゃんの髪を撫でる。
(どこが高速移動じゃ、こんなもん、、、)
空を飛んだ方が、ずっとずっと早いのに。
でも雨降りじゃ、どうすることもできない。
あたしは、うつむいて唇を噛んだ・・。
この世界は、三つの種族からできている。
ヒトか、アンドロイドか、それ以外か。
それ以外・・、のあたし達は、
闇を支配する、夜の一族。
ヒトは、あたし達に恐れおののき、決して交じりあうことは、しない。
あたし達が、近寄らないかぎりは。
忌み嫌われる、この名。
そう、あたし達は、、、
ヴァンパイア・・。
ユカちゃんの肩を抱いたままで、
銀色の扉の前に、片手をかざす。
手のひらを、青い光が擦り抜ける。
扉の内側から、かすかな機械音。・・壁の一部が回転して、タッチパネルが現れる。
「・・認識中デス。コードネームヲ、入力シテクダサイ」
あたしは、もどかしくコードを打ち込む。
A - C H A N
「・・確認完了。扉ガヒラキマス・・」
吸い込まれるように、扉の向こうに駆け込むと、
暗い廊下の途中に、コシコがたっていた。
「コシコ!今、空いてる部屋はどこ?」
「検索シマス・・。コノ角ヲマガッテ、一番奥ノ部屋ガ、アイテイマス。」
ヒト型アンドロイド・コシコは、抑揚のない声で告げる。
「ありがとう。そこ、使うからね!」
「・・オートリザーブ中デス。・・リザーブ、完了シマス・・」
あたしはその音声を最後まで聞かずに、
奥の扉をあける。
ひんやりと冷たい、リノリウムの床。
部屋の中央には、大型コンピューターに接続された、
ユニットカプセル。
フードを開いて、中のカプセルに、
ユカちゃんを、そっと寝かせる。
必要なプログラムを入力し、スイッチを入れると、
あたしは、床にへたりこんだ。。。
(なんとか、間に合ったみたい・・)
ユカちゃんを包みこむように、カプセルに青い光が、満ちてゆく。
(・・でも、これだけじゃ、足りない・・)
ユカちゃんは、生まれつき血が薄い。
たっぷりと栄養が必要なのに、
ひどい偏食で、気に入らなければ見向きもしない。
あたしがしょっちゅう血を交わさなければ、
すぐに消えてしまうだろう。
(・・ユカちゃんには、
新しい血が、必要じゃ・・)
何度も血を送り込んだから、あたし自身も腹ペコだけど、
そんなこと言ってられない!
さぁ、出かけなくちゃ・・
雨の中を、フラフラさ迷い、たどり着いた、
町外れのダンスフロア。
飛び込んでくる、音と光の洪水が、
あたしを目覚めさせる。
うだるようなビートのリズムが、本能をかきたてる。
軽くしなやかに、淡い光を振りまく、美しい蝶。
甘い、汗の、強いカオリが
あたしに誘いかける。
(・・、見つけた・・!)
あたしは、瞳の色を隠して、
密かに罠を仕掛ける。
「上手いね、ダンス?」
「うふふ、ありがとぅ。」
「・・ねぇ、一緒に、こない?」
「えっ、・・どこへ?」
「ここより、ずぅっと、いいところ・・」
あたしは、手を握る。
(さぁ、捕まえた・・!)
魔法を掛けられたように、そのコはふらふらとついてくる。
もっと楽しい、夜の闇に、誘ってあげるよ。。。
「・・ねぇ、あたしの目を、見て・・?」
めまいをさそう、赤い目で、
天使の瞳から光を奪う。
あたしは力の抜けたそのカラダを、
コートの内側にくるむと、
ふわり、暗闇に紛れ込んだ・・。
急いで部屋に戻ると、
ユカちゃんはまだ眠っていた。
あたしは、眠れる乙女を抱き抱えて、隅の椅子に座らせる。
(・・、なんて、美しいんじゃろ・・!)
思わず、喉がなる。
柔らかそうな髪を撫でていると、
カプセルの機械音が止まった。
ユカちゃんが、短い眠りから、目を覚ます。
ゆっくりと起き上がると、
まだ少しダルそうに、こっちにむかってくる。
「・・ユカちゃん。具合、どう?」
「・・ん。・・ね、アヤちゃん、そのコは?」
「このコは、・・ユカちゃんに。」
「・・食べても、ええの・・?」
「・・、ん、えぇよ。」
途端に、ユカちゃんの瞳の色が、変わる。
ゆっくりと、そのコの前に屈み込むと、妖しい微笑みを浮かべて、
宝物に触れるみたいに、静かに、やさしいキスをした。
最初は、髪に。次に、額に。
それから、眉に、目蓋に、睫毛に、鼻先に。。。
慈しむように、小さなキスを繰り返す。
ユカちゃんの唇が、ゆっくりと、おりていく、、、
顎から鎖骨に、胸元から指先へ・・・
そのコは、指先を噛まれて、
、ほんの少し眉をひそめた。
でも、目を覚まさない。
ユカちゃんの瞳の輝きが、一層強くなる・・・!!
あたしは、思わず目を逸らした。
顔が火照ってるのが、自分でもわかる。
(・・・・こんなの、目の毒じゃ。。)
静かに後退りして、扉の外に出ようとした、その時。
「・・ァヤちゃん、
ゾクッとするほど、甘い声。
ユカちゃんが、そのコの可愛い耳を甘く噛みながら、
語り掛けてくる。
「アヤちゃんも、このコが欲しいんじゃろ?・・そこで、待っといて。」
ユカちゃんが、そのコの、黒いシャツのボタンをはずし、前をはだけさせる。
抜けるように白い肌と、淡い色のキャミソールが、
蛍光灯に照らされ、浮かび上がる。
小さな影をつくる胸が、かすかに、上下している。
「・・・!」
もう、目を、背けることも、できない。
ユカちゃん、が、濡れた唇から、
真っ赤な舌を、覗かせている。。。
「・・ねぇ、アヤちゃん、見て。、、
すごく、綺麗な肌しとる・・。」
「・・そ、そうじゃね。」
「うふふ。・・冷たぁい、ビロードみたい。」
ユカちゃんが、雪のように真っ白な肌に、ゆっくりと、指先を這わせる。
(ユカちゃん・・、ユカちゃん、あたし、我慢できないよっ・・)
あぁ、牙をむいてしまいそう!
ユカちゃんの口元が、ほころぶ。
「おいしそうじゃねぇ、アヤちゃん・・」
キャミソールのラインを緩めて、強いキスを刻む。
「んぅ・・っ!」
そのコは、赤いシルシを付けられて、ため息をもらした。
その甘い吐息、が、ユカちゃんへの合図になる。。。
暗闇に、赤い目が光る。
「イタダキマス・・」
その、細い首筋に、小さな牙を剥く・・!
あたしは、目をつぶった。
時間が、とまる。
そのコをみつめて、真剣な顔で考え込んでいる。
「ユカちゃん・・?」
「・・アヤちゃん、このコ、・・もしかして。」
「うん、、、?」
「・・試して、みる。」
ユカちゃんは、そのコを
抱き抱え、カプセルに運ぶ。
プログラムを組みなおし、・・スイッチを入れる!
「ユカちゃん、何をっ!」カプセルの光は、ヒトには猛毒となる。
下手をしたら、、!
ユカちゃんは、カプセルから目を離さずに話しだす。
「・・聞いたことがあるんよ。ごく稀に、ヒトでありながら、
あたし達と、同調できる力を持つものがおるって・・」
「で、でも、もし、そうじゃなかったら?!」
「・・このコね、アヤちゃんと同じカオリがしたんよ。。。」
「え・・?」
「シャツ脱がして確かめたけぇ、間違いないと思う。・・アヤちゃん、最初からわかっとったんじゃろ?
このコは、他とは違うって」
いつもなら、その場で味見しちゃうのに、
このコにはできなかった。
だって、天使のようだったから・・。
光を放つカプセルが、カタカタとリズムを刻む。
「・・認識、デキマシタ。コードネーム、ヲ、表示シマス。」
「コードネーム: N O C C H I」
「・・これで、あたしたちの、仲間入りね。」
ユカちゃんが、ようやくあたしに、ほほえみ掛ける。
(・・ようこそ、ノッチ。あたし達の、暗闇の世界へ・・)
ノッチが覚醒する迄には、まだ少し時間がかかる。
あたし達は、部屋を出ると
雨上がりの空にドライブに出かけた。
手を取り合い、広い星空に浮かび上がる・・。
「綺麗な空じゃ・・。お星さまも、ノッチを歓迎しとるんかな?」
「・・うふふ、アヤちゃん、さっき、めっちゃドキドキしとったじゃろ?」
「ぇっ!」
ふぃをつかれて。あたしは、耳まで真っ赤になる。
「・・もぉ、ユカちゃんの、いじわるっ!」
ユカちゃんが、いたずらっ子みたいにくすくす笑う。「アヤちゃんは、素直じゃねぇ。」
天使の顔した、可愛い悪魔・・・、あたしを夢中にさせないで。
作りものだらけこの町で、ひとつだけ、
うそじゃない真実。
「ユカちゃん、愛しとるけぇね・・。」
あたしは、ユカちゃんをぎゅっと抱き締めて、血を、かわす。
とくんと、流れ込む、、、
とろけそうに甘い、ユカちゃんの、血。。
あぁ、熱くて、唇が焼け付きそう。
燃える目をしたユカちゃんが、あたしの耳元でささやく。
「・・あたしも、食べちゃいたいくらい、
アヤちゃんが好きっ・・」
おしまい
最終更新:2008年10月10日 14:05