アットウィキロゴ
「カレーカレー♪これはきっとおいしカレーっ♪」
今晩ののっちは最高にご機嫌らしい。さっきから謎のメロディに乗せた謎の歌がひっきりなしに聞こえてくる。
スープカレーの本場である札幌から、家庭用スープカレー・スパイスセットなるものをお取り寄せたとのこと。早速こうして私が招待されていた。
ソファーにうつ伏せに寝っころがって雑誌を読んでいた私は、クーラーのリモコンを探す。この部屋は暑い。
1.5メートル先の床に、目標を確認。なんとかしてソファーから落ちないように手を伸ばすが、届かない。
…いいや、諦めよ。

恐らく暑さの原因はキッチンだ。見れば、鍋から湯気がもくもく出ている。
サラダの準備をしているのっちは、濃紺のキャミソールと薄色デニムのショートパンツに、いつか私がプレゼントした黄色のエプロン。
脱ぎたいのか着たいのか、どちらなのかよくわからない格好。
暇つぶしに、のっちを覆っている布を数える。
…エプロン1枚、キャミ1枚、ショートパンツ1枚、ブラ1枚、パ…1枚。
 たった5枚!?
 今ゆかが脱がしにかかったら、最短記録更新じゃね。シャワー上がりを抜かすと。
 あ、でもエプロンは脱がす内に入らないか。その前に外すだろうし。
 のっちが外さなかったら脱がすけど。いや脱がさなかったら…ん?裸エプ…やっばそれエロ過ぎ!?

私は思わず手元の雑誌に突っ伏した。自分の発想の展開に驚く。唐突すぎる展開。
…ていうか、1人で何考えてんの。完全にオヤジじゃん。のっちじゃないんだから。
 はぁ〜暑い暑い。この暑さがいけないんよ。

私より火元に近いのっちの方が暑いはずだ。もう一度頭を上げたが、私がいる角度からのっちの顔は見えない。
見えるのは後ろ姿だけ。キャミソールとショートパンツからすらりとした手足が伸びて、忙しなく動く。
キュウリを切るのっち。
…あ〜あれ誰が食べるんだろう。1人分にしては明らかに多すぎでしょ。

「カレーカレー、しましょ♪」
…なにそれ。もしかして『キレイキレイ』っていうCMのパクリ?


私のツッコミが聞こえるはずもなく、謎の歌と料理は続く。
そうやってツッコミながらご機嫌のっちを眺める私の頭に、さっきの脱がす妄想がふわりと復活してきた。
…脱がすとしたら、どこから攻めようかな。まぁエプロンは最後にするとして。
 いや逆に脱がさないでそのまま手を入れ

私はまた雑誌に突っ伏した。今日はおかしい。突然ここまでのオヤジになるとは。
もしかして、欲求不満なのだろうか。
…えーでも2日前にしたばっ

突っ伏したまま、私は手でソファーをばんばん叩いた。
どうした、どうした樫野有香。思考が全てその方向に行くなんて。
今はそんな雰囲気からは程遠いはず。可愛い恋人が夕飯を作ってくれているのだ。
別に視線が合った訳でもない。体に触れている訳でもない。ましてや誘われている訳では全くない。
ここで私はふと手を止めた。
…誘われてる?
 いやいやいや、だからご飯作ってるだけだって。作りながら誘うとか意味わかんないし。
 あ、でも、意識してなかったら?

私は改めてのっちを見た。無意識に誘うということは、私がのっちの“どこか”に誘われているということだ。
じっと観察する。こうして冷静に一歩引いて対処すれば、妙なテンションも下がっていくはず。
…なんだろう。仕草?でも料理してるだけだし。普通でしょ。
 仕草じゃなかったら、うーん、体しかないよねぇ。
 でも体なんてもうねぇ。2日前だって隅々まで見て触っ

私はまた雑誌に突っ伏した。拍子に、3度にわたる被害を被りっぱなしのページが少し破けた。
落ち着こう。落ち着けば何とかなる。このままではのっちとカレーなんて食べられない。
なんとかして原因を突き止めなければ。
私は起き上がってソファーに座った。気合いを入れるために正座する。
ただ眺めているだけだとわからない、というか正確には身が保たないので、両手の指を使ってのっちの体をパーツごと確認することにした。
見たい部分以外を指で隠す。のっちが大好きな指をこんなことに使うとは。
…よし、上から行こう。
 顔、は見えないから、頭。ん〜別にこれといってないな。可愛いくて好きだけど。次。
 首、ってかうなじ。ん〜別になし。のっちは私のうなじ好きらしいけどね。次。
 肩、ついでに腕のライン。長くて綺麗だけど〜なしじゃろ。次。
 背中。キャミで隠れてるもんね。隠れてなければ俄然ありだけ…こらこら。次。
 お尻。ああぁぁおおぉぉ!?どうよこれ!いや魅力的なんだけど、なーんか惜しいって感じ?次。
 太もも。うっわやばいしょこれ!これ?もしかしてここ?いやでもなぁ、なーんか惜しいっていうか。
 ん?惜しい?
 惜しい部分が2つ。足して2で割ると…?
 お尻と太ももの境目?どれ…
 あ…目標を確認。キタ。キタよこれ。見つけちゃったよ!?…あれ?


「なーにやってんの、ゆかちゃん」
目標が消えたと思ったら、のっちが私の方を振り向いていた。純粋に不思議そうな目で私を見ている。
「え!?や、なんていうか、えーっと、今カメラあったら料理中ののっち撮りたいなぁ〜、なんて思っちゃった!」
私が動揺を隠し、無邪気さを装って可愛くにっこり笑うと、のっちも笑い返してくれた。
「えーいいよー撮らんでも。ね、スープ味見してみてくれる?」
「はぁい」
…ふぅ、やれやれ。

私は求めに応じて、キッチンへ向かった。鍋の前に立つと、カレーのスパイシーな香りが鼻をくすぐる。
「いただきまーす」
スプーンで掬って一口。
「どうどう?」
「お〜いしっ!めっちゃくちゃうまいよ!」
「ほんと?よっしゃー!頑張った甲斐があった!」
のっちがこれ以上ないくらい、嬉しそうな顔をする。それを見て私も嬉しくなる。
お腹空いたお腹空いた、と繰り返しながら、のっちは食器を取り出してテーブルに並べ始めた。
私はさり気なく目で追うが、少し前までのオヤジが出てくる気配はない。
安心した。安心してカレーが食べられる。やっぱり客観的に分析するのは大事なのだ。
並べ終えたのっちは私の隣に戻ってきて、サラダを器に取り分けようとした。
「あっ」
カタン、と音がしたので床を見ると、トングが落ちていた。
「あーもう」
しゃがんで拾うのっち。エプロンに隠れ損なった部分が、私の目に飛び込んできた。
…目標を、至近距離で、確認。しちゃった。

私の視線にのっちは気づかない。でももう、私は止まれない。
…やっぱり目標を確認したら、攻略せんといかんよね。

「ねぇ、のっち?」
「ん〜?」
ご機嫌な声。余程スープカレーが楽しみみたい。ウキウキしているのが伝わってくる。
でも少なくともあと30分くらい、我慢してもらおう。
さっきと同じように、可愛くにっこり笑う。
「カレー食べる前に、ゆかと運動しよっか」
「ん?」
私は後ろから、目標に接近した。


ーーーーendーーーー






最終更新:2009年01月25日 18:33